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トヨタ、豊田中研などと東・南アジア全域の対流圏オゾン濃度を予測できるシミュレーションを共同開発

2011-05-27

東・南アジア全域の対流圏オゾン濃度を予測できるシミュレーションを開発



 トヨタ自動車(株)(以下、トヨタ)と(株)豊田中央研究所(以下、豊田中研)は、清華大学(中国)(※1)、エネルギー資源研究所(インド。以下、TERI)(※2)、国際応用システム分析研究所(オーストリア。以下、IIASA)(※3)と共同で、東・南アジア全域の対流圏オゾン濃度を予測できるシミュレーションを開発した。これは、東・南アジアの各国・地域におけるエネルギー消費量の抑制と温暖化・大気汚染の原因物質の排出量削減を同時に検討することに寄与するものであり、国際的に意義の高い成果であると考えている。


1)対流圏オゾンの特長と濃度低減のために必要な対応
  オゾンといえば、紫外線を吸収し地上の生態系を保護する役割を担っている成層圏(上空約10km以上)のオゾン層がよく知られている。一方、地表面から上空約10kmまでの対流圏に分布するオゾンは光化学スモッグの主要因であり、人体に有害で植物の成長も阻害する大気汚染物質であるとともに、温暖化に影響を与える温室効果ガスとしてCO2、メタンに次いで濃度低減が求められる物質である。
  この対流圏オゾン濃度の予測は容易ではない。なぜなら、対流圏オゾンは、発生源から大気中へ直接排出されるものではなく、種々の発生源から排出されるNOx(窒素酸化物)とVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)が大気中で光化学反応をすることにより生成されるためである。その反応経路は非常に複雑であり、NOxやVOCの排出量を削減しても対流圏オゾン濃度が有効に低下するとは限らない。対流圏オゾン濃度を予測するためには、NOxとVOCの排出量データとともに、大気中の複雑な光化学反応の考慮が必要となる。


2)今回の共同研究(シミュレーション開発)の背景と目的
  アジアの新興国の経済発展に伴い、様々なエネルギーの大量消費による対流圏オゾン増加の影響で、都市レベルからさらには地球全体に及ぶ環境悪化が懸念されており、自動車も含めた大気汚染の原因物質の排出量削減が求められている。
  こうした中トヨタは、東・南アジア全域で解決すべき大気汚染問題として対流圏オゾンの濃度低減を目指し、人の健康被害や植物生育への影響を緩和する方策の立案に寄与することを目的として、各国研究機関と共同で対流圏オゾンの濃度予測の研究に取り組んできた。


3)シミュレーションの方法と共同研究各機関の役割
  今回開発したシミュレーションでは、対流圏オゾンの濃度予測の精度をより高めるために、東・南アジア各国・地域毎の、
  (1)現状のエネルギー消費量、および将来のエネルギー政策を踏まえた今後のエネルギー消費量、
  (2)CO2、NOx、VOC排出量、を用いて、
  (3)気象条件を考慮した対流圏オゾン濃度を予測できる3次元大気質モデル、を活用した。

  (1)(2)は、国際エネルギー機関(IEA)のシナリオに基づいて、IIASAが中国とインド以外の東・南アジア各国のデータベースを整備し、今後、顕著な経済発展が見込まれる中国とインドは、それぞれ、清華大学が中国、TERIがインドを対象に自国のエネルギー・環境政策を踏まえて、地域別、部門別の詳細なデータベースを作り上げた。
  また、(3)の3次元大気質モデルは、大気中の複雑な光化学反応が考慮されており、NOxとVOCの排出量に基づき、気象条件を考慮した時々刻々の対流圏オゾン濃度を予測することができる。
  アジア上空の大気は一つにつながっており、対流圏オゾンは国境を越えて移動するので、東・南アジア全域の対流圏オゾン濃度を予測するために、豊田中研が各国別の詳細なエネルギー消費量やNOx、VOCの排出量データを全て合わせて3次元大気質モデルによるシミュレーションを行った。
  中国とインドについては、今後の経済発展にともない、より精緻な予測データが求められるため、それぞれの地域上空を中心とした対流圏オゾン濃度を予測することもできる。


4)シミュレーション開発による成果と今後期待される効果
  今回開発したシミュレーションは、現在考えられている将来のエネルギー政策を踏まえたエネルギー消費量まで加味して、東・南アジア全域の対流圏オゾン濃度を予測できることが特長であり、これにより、対流圏オゾン低減のために必要なエネルギー政策、CO2削減シナリオ、大気改善シナリオを総合的に検討することが可能となった点が大きな成果である。
  中国においては、すでに、大気汚染改善のための政策検討が始まっている。また、対流圏オゾンの低減は、短期的な気温上昇の抑制にも有効であることが国連環境計画(UNEP)から示されており、このシミュレーションは、気候変動を緩和する政策検討に役立てられると考えられる。

  今後は、このシミュレーションが東・南アジアの各国・地域で広く活用され、エネルギー消費量、CO2排出量の抑制と対流圏オゾン低減を両立させるために有効なエネルギー政策の立案などに貢献していきたいと考えている。

  なお、このシミュレーションに関する情報を共有するため、5月26日(木)・27日(金)の2日間にわたり中国の清華大学において「国際ワークショップ」を開催する。ここでは、共同研究を行ってきた各機関の研究者をはじめ、大気汚染改善問題に取り組む世界の研究機関から研究者が集まり、今後のさらなる研究促進と活用方策について議論する予定である。


※1 清華大学
 ・1911年に設立された中国を代表する総合大学の一つ。
  教授・准教授の数は約3000人、学生数は約36000人。
※2 エネルギー資源研究所(The Energy and Resources Institute:TERI)
 ・1974年に設立されたインド有数の研究機関。研究員約900名。所長はパチャウリIPCC議長。
※3 国際応用システム分析研究所(International Institute for Applied Systems Analysis:IIASA)
 ・1972年にオーストリアに設立された国際研究機関。研究員約200名。



以上


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