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理研、クリプトクロムの青色光による光情報の阻害化合物を発見
植物の青色光特異的伸長化合物を同定
−クリプトクロムの青色光による光情報の阻害化合物の発見−
<要旨>
理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター合成ゲノミクス研究グループの大窪(栗原)恵美子特別研究員、ウェンディ・オン国際プログラムアソシエイト、松井南グループディレクターらの共同研究チーム(※)は、青色光受容体のクリプトクロムが植物の細胞伸長を抑制する効果を阻害する低分子化合物を単離し、それが直接クリプトクロム1(CRY1)に結合することで阻害効果を示すことを明らかにしました。
光は、植物の光合成によるエネルギー源であるだけでなく、環境の情報を感知するための情報源としても重要な役割を担っています。クリプトクロムは、植物が持つ光受容体の中で青色光を受容して、脱黄化[1]、気孔の開閉、開花時期、避陰反応[2]を制御するタンパク質です。この受容体の作用を制御することができれば、これら種々の反応の制御が可能になります。
今回、研究チームは、青色光が芽生えの細胞伸長を抑制することに着目しました。モデル植物のシロイヌナズナの芽生えを用いて、この抑制効果が起こらなくなる低分子化合物を約4,000の中から探し出し「3B7N」と名付けました。この化合物は、青色光のみの影響を抑制し、赤、遠赤色光には影響を及ぼさないことが分かりました。
また、3B7Nを結合したビーズとタンパク質とのプルダウンアッセイ[3]を行った結果、3B7NがCRY1のみと結合し、以前報告したBIC2(CRY2の情報伝達を抑制する)のような青色光シグナルに関わるタンパク質(注1)とは結合しないことが明らかになりました。つまり、3B7NはCRY1に特異的に結合することで、CRY1が制御する青色光特異的な芽生えの伸長成長阻害を回避していることが分かりました。
クリプトクロムは植物の生長、開花などの農業上の重要形質を制御しており、本成果は作物のバイオマス増収などにつながると期待できます。
本研究成果は、日本植物生理学会が発行する国際科学雑誌『Plant and Cell Physiology』(12月14日付け)に掲載されます。
本研究は、日本学術振興会の科学研究費助成事業 挑戦的萌芽研究「ケミカルフェノミクスによる植物のサイズを制御する低分子化合物の探索」の支援を受けて行われました。
注1)2016年10月20日のプレスリリース「植物の青色応答の初期過程を解明(http://www.riken.jp/pr/press/2016/20161021_1/)」
※共同研究チーム
理化学研究所 環境資源科学研究センター
合成ゲノミクス研究グループ
グループディレクター 松井 南(まつい みなみ)
特別研究員 大窪(栗原)恵美子(おおくぼ−くりはら えみこ)
国際プログラムアソシエイト ウェンディ・オン(Wen−Dee Ong)
ケミカルバイオロジー研究グループ
グループディレクター 長田 裕之(おさだ ひろゆき)
研究員 渡邉 信元(わたなべ のぶもと)
専任研究員 近藤 恭光(こんどう よしみつ)
<背景>
クリプトクロムは動植物で保存されたタンパク質で、植物では青色光の受容体として機能していることが知られています。クリプトクロムは青色光によって活性化され、脱黄化、気孔の開閉、開花時期、避陰反応を制御します。これらの反応は、植物が十分な光エネルギーを得て光合成を行うことや、気孔開閉による二酸化炭素の取り込みなど植物のバイオマス増産にも関わる基本的かつ重要な反応です。しかし、クリプトクロムの分子メカニズムにおいては、いまだに多くのことが分かっていません。
クリプトクロムには芽生えの伸長を抑制する効果があり、「二量体」を形成することで機能することが分かってきています。モデル植物のシロイヌナズナは、アミノ酸配列のよく似た二つのクリプトクロム1(CRY1)とクリプトクロム2(CRY2)を持っています。これらは上記のような共通の機能と他にそれぞれ別の機能があり、主にCRY1は芽生えの伸長抑制に、CRY2は開花時期の制御に関わっています。これらの機能を制御できる化合物は、植物研究の基礎や、バイオマスの増収といった応用において重要です。
*研究手法と成果などリリース詳細は添付の関連資料を参照