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東北大と産総研、磁気モーメントの渦の運動が可能にする省エネルギー情報記録
磁気モーメントの渦の運動が可能にする省エネルギー情報記録
−ハードディスクの超高密度化と超低消費電力動作の両立に新たな道−
【発表のポイント】
●磁石の向きが変化しやすいNi−Fe合金層と、磁石の向きが変化しにくいFePt規則合金層を組み合わせたナノ磁石を作製し、磁気記憶デバイスの情報記録のしくみである「磁石の磁化方向の変化(磁化スイッチング)」の挙動を調査した。
●FePt規則合金層は次世代の超高密度磁気記録材料の有力候補だが、情報記録(磁化スイッチング)に使う消費電力が大きい(大きな外部磁場が必要である)ことが実用化の障害の一つだった。
●今回、Ni−Fe合金の中に作られる磁気モーメント(*1)の渦構造(磁気渦構造(*2))の運動を利用すると、FePt規則合金層を少ないエネルギー(小さな外部磁場)で磁化スイッチングできることを発見。これにより磁気記憶デバイスにおける記録情報の超高密度化と低消費電力動作の両立に向けた道筋が示された。
※参考画像は添付の関連資料を参照
【概要】
東北大学金属材料研究所の周偉男博士研究員、関剛斎准教授および高梨弘毅教授のグループは、産業技術総合研究所スピントロニクス研究センターの荒井礼子博士研究員および今村裕志研究チーム長との共同研究により、外部磁場により容易に磁化スイッチングするソフト磁性材料のNi−Fe(パーマロイ)合金と、磁化スイッチングに大きな外部磁場を必要とするFePt規則合金を組み合わせたナノ磁石を作製しました。そして、Ni−Fe合金における磁気モーメントの渦構造(磁気渦構造、あるいは磁気ボルテックス構造と呼ばれる)の磁化運動を利用すると、FePt規則合金の磁化スイッチングに必要な磁場(磁化スイッチング磁場)を大幅に低減できることを発見し、磁気記憶デバイス情報記録に必要な消費電力を大幅に削減することを可能にしました。
現行のハードディスクドライブ(HDD)(*3)は、記録ビット(*4)となる磁石一つ一つの向きの方向を変化(磁化スイッチング)させることにより、情報を書き込みます。HDDの容量を大きくかつ記録を安定させるためには、ナノ(10億分の1)メートルレベルの磁石を高密度に配置し、さらに磁化を一方向に保つためのエネルギー(磁気異方性エネルギー(*5))を大きくすることが不可欠です。しかしながら、これにより磁化スイッチング磁場が増大し、結果として情報書き込み時の消費電力が増大してしまいます。特に、FePt規則合金は次世代の超高密度磁気記憶デバイス材料の有力候補とされている合金ですが、現段階では磁化スイッチング磁場が大きいことが実用化に向けた一つの障害となっていました。
研究グループは、Ni−Fe合金層とFePt合金層を積層させた薄膜試料を直径260ナノメートルのナノサイズドットへと加工し、磁化スイッチングの挙動を調べました。その結果、FeNi合金層に磁気渦構造が形成され、高周波の外部磁場を加えることで磁気渦の運動が励起され、Ni−Fe合金層に隣接しているFePt合金層の磁化スイッチングが容易に生じることがわかりました。このスイッチング磁場が低下する原因を調べるためにコンピュータシミュレーションと比較したところ、磁気渦が運動することによってNi−Fe合金層に過剰な磁気的エネルギーが蓄積され、その余分なエネルギーを低減させるために、FePt合金層において磁化スイッチングが生じるという特徴的なスイッチングプロセスが明らかとなりました。
磁気渦の運動を利用して隣接する磁石の磁化方向をスイッチングさせる研究報告は本研究が初となり、磁気渦の新しい機能が実証されました。今回の成果により、磁気記憶デバイスにおける情報の超高密度化と低消費電力動作の両立に向けた新しい道筋が示されたことになります。
本研究は、科学研究費助成金・若手研究(A)(課題番号:25709056)、基盤研究(S)(課題番号:23226001)、およびJST戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)の研究課題「磁性規則合金を用いた新機能性スピントルク発振素子の創製」(代表:関剛斎)および「スピンを利用したニューロモルフィックシステムの理論設計」(代表:荒井礼子)の一部として行われました。本研究成果は、12月8日付けで米国物理学雑誌「Physical Review B」にてRapid communication(速報版)として公開されます。
※リリース詳細は添付の関連資料を参照