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東北大学、細胞分裂装置が形成される新たなしくみを解明

2011-05-18

細胞分裂装置が形成される新たなしくみを解明

線虫胚の分子イメージング解析から発見


<概要>

 細胞が分裂する際には「紡錘体」とよばれる細胞内装置のはたらきによって遺伝情報の担い手である染色体が娘細胞に均等に分配されます。今回、東北大学大学院生命科学研究科 杉本亜砂子教授と理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 戸谷美夏研究員らは線虫胚をモデル系とした分子イメージング解析から、オーロラA (Aurora A)というタンパク質が紡錘体の主要な構成成分である微小管を安定化することが紡錘体形成に重要であることを見いだしました。この発見は癌治療法の開発にもつながると期待されます。本研究成果は、2011年5月15日付けで英科学専門誌「ネイチャー・セル・バイオロジー (Nature Cell Biology)」誌の電子版に掲載されます。


<研究内容の詳細>

【背景】
 遺伝情報が次世代に引き継がれていくためには、細胞分裂が行われる毎に遺伝情報の担い手である染色体が娘細胞に均等に分配されていくことが必要です。この重要な役割を司っているのが紡錘体という細胞内装置です。紡錘体は主に微小管という繊維状のタンパク質複合体から構成されていますが、微小管が細胞分裂期に形成されるしくみについては不明な点が多く残されています。

【研究内容】
 東北大学生命科学研究科の杉本亜砂子教授と理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターの戸谷美夏研究員らのグループは、線虫の初期胚をモデル系として用いて細胞分裂期の微小管形成の動態を詳細に解析することにより、オーロラA (Aurora A)というタンパク質が紡錘体微小管の形成に重要な役割を果たしていることを見いだしました。 
 これまで微小管形成にはγ−チューブリンというタンパク質が重要であるとされていましたが、杉本教授らのグループはそれとは独立にオーロラAが関わる微小管形成機構が存在することを以前の研究から明らかにしていました(茂木ほか、Developmental Cell誌、2006年)。今回、線虫の初期胚を用いて、微小管を蛍光タンパク質で標識することで可視化して分子イメージング解析を行うことにより、オーロラAは細胞分裂期に凝縮した染色体の周辺で形成される微小管の安定化に必要であることがわかりました。
 オーロラAは線虫からヒトまで進化的に広く保存されており、タンパク質をリン酸化する酵素であることが知られていました。従来はこの酵素活性はオーロラAの生体内機能に必須だと考えられてきましたが、線虫胚でこの酵素活性を持たないように改変したオーロラAを発現させたところ、微小管の安定化には影響が見られなかったことから、オーロラAによる微小管安定化にはタンパク質リン酸化酵素としての活性は必要ないことがわかりました。一方、オーロラAのもう一つの役割として知られていた中心体成熟(中心体の微小管形成能の増大)にはリン酸化酵素活性が必要であることもわかりました。つまり、オーロラAはリン酸化酵素活性依存的な役割(中心体成熟)と非依存的な役割(微小管安定化)を持っており、それらを細胞内で使い分けながら細胞分裂期の紡錘体形成に寄与していることが明らかとなったのです(図1)。
 
図1:オーロラタンパク質の細胞内局在
線虫胚第一分裂期のオーロラタンパク質は中心体と紡錘体微小管上に見られる。一方、タンパク質リン酸化酵素活性を持つ(活性化された)オーロラAは中心体の中央部にしか存在しない。

【研究のインパクト】
 これまでタンパク質リン酸化酵素酵素活性を持つ時にのみ働いていると考えられてきましたが、今回の研究から酵素が不活化されている場合でも別の役割を果たし得ることが示されました。このような例はこれまでほとんど知られていませんでしたが、今回の研究をきっかけとして酵素タンパク質の多面的な機能という新たな観点からの研究が進展すると考えられます。
 また、オーロラAは多くの癌細胞で過剰に発現されていることが知られており、本研究の成果は癌治療薬の開発にも貢献することが期待されます。

【論文題目】
 A kinase−independent role for Aurora A in the assembly of mitotic spindle microtubules in Caenorhabditis elegans embryos.
 (線虫胚の紡錘体微小管形成におけるキナーゼ活性非依存的なAurora Aの役割)
 Mika Toya, Masahiro Terasawa, Kayo Nagata, Yumi Iida and Asako Sugimoto
 (戸谷美夏、寺澤匡博、長田香代、飯田裕美、杉本亜砂子)
 Nature Cell Biology誌に掲載(電子版2011年5月15日)


※ 図は、関連資料参照

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