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東大、材料強度の源の直接観察に成功
材料強度の源の直接観察に成功!
〜転位と粒界の相互作用のリアルタイム観察〜
1.発表者
幾原雄一(東京大学大学院工学系研究科総合研究機構 教授)
柴田直哉(東京大学大学院工学系研究科総合研究機構 准教授)
近藤隼(京都大学構造材料元素戦略研究拠点 特定研究員)
2.発表のポイント
◆透過電子顕微鏡(TEM)を用いた応力印加その場観察法(注1)により、変形を担う転位(注2)と結晶粒界(注3)が相互作用する様子をリアルタイム観察することに成功し、その動的過程やメカニズムが粒界の種類によって大きく変化することを突き止めた。
◆粒界における結晶粒方位の変化に起因して、転位伝播する粒界と転位の障壁となる粒界が存在することを見出した。後者の場合、転位はその粒界で堆積し、材料強度を大きく向上させることが分かった。
◆転位―粒界相互作用は、粒界の構造と方位に大きく依存することが分かった。これは粒界毎に材料強度に与える影響が異なることを示唆しており、粒界方位・構造を制御することによって高強度材料が創製できることを意味している。
3.発表概要
材料の強度は結晶粒径が小さいほど向上することが知られており、変形を担う転位の伝播が粒界により阻害されるためであると考えられています。粒界における転位の伝播阻害過程はナノスケールかつ動的に進行する現象のため、これまでその様子を直接観察することが困難であり、粒界が転位伝播を阻害する起源は明らかになっていませんでした。しかし、このような材料強度の結晶粒径依存性は構造材料において普遍的に見られる現象であり、今後の高強度材料創製のためには、粒界の存在が転位運動、さらには材料強度に与える影響を明らかにすることが不可欠です。
東京大学大学院工学系研究科総合研究機構の幾原雄一教授、柴田直哉准教授、及び京都大学構造材料元素戦略研究拠点の近藤隼特定研究員のグループは、TEMを用いたナノスケールの応力印加その場観察(注1、図1)を行うことで、運動する転位と粒界の動的相互作用をリアルタイムで可視化することに成功しました(図2)。従来、転位の伝播阻害は粒界において結晶方位が変化することに起因すると考えられており、粒界は転位運動に対する障壁として振舞っていると考えられてきました。しかし、粒界における転位の伝播阻害過程を詳細に解析した結果、上記に加えて粒界はその特異な原子構造により転位を粒界面上で安定化させ、転位をトラップすることが明らかとなりました。そして、このようなトラッピングの効果により転位の伝播が妨げられることが分かりました。また、構造が異なる粒界に対して伝播阻害過程を観察したところ、異なる粒界では転位の伝播阻害の度合いも大きく異なることが明らかとなりました(図2)。この結果は、粒界毎に材料強度に与える影響が異なることを示唆しています。本研究成果は粒界の材料強度特性への影響に関して基礎的知見を与え、今後、粒界制御により同一材料でも高強度な構造材料を創製するための設計指針に繋がる重要な成果です。
本研究は、文部科学省元素戦略プロジェクト構造材料元素戦略研究拠点(ESISM)の助成のもと東京大学と京都大学の共同で行った研究成果であり日本時間11月12日(土)午前4時(米国東部時間:11日(金)午後2時)に米国科学誌「Science Advances」(電子版)で公開されます。
※発表内容などリリース詳細は添付の関連資料を参照