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東大、自然界に豊富に存在する糖類の直接的な連結法を開発
自然界に豊富に存在する糖類の直接的な連結法の開発
〜医薬分子の合成に変革をもたらす新戦略〜
1.発表者:
枡田健吾(東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻 博士課程修了生)
長友優典(東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻 助教)
井上将行(東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻 教授)
2.発表のポイント:
◆グルコース(ブドウ糖)などの糖類は、自然界に豊富に存在し、容易に入手できる。本研究では、糖類の分子間ラジカル−ラジカル連結反応により、生物活性を持つ天然物などの複雑な構造を、直接的に合成する方法を開発した。
◆本研究成果により、今まで必要だった段階的な合成反応を経ずに、糖類の構造情報を保ったままで分子骨格の複雑化が一挙に可能になり、合成が圧倒的に効率化した。
◆本反応は、医薬分子等の合成を革新しうる成果であるだけでなく、合成の短工程化や廃棄物の低減、それに伴うコスト削減など、現代社会に求められる要求を高いレベルで満たす方法である。
3.発表概要:
東京大学大学院薬学系研究科の井上将行教授の研究グループは、ポリオール構造を簡便かつ迅速に構築できる新たな糖類の連結方法を開発しました。
ヒドロキシ基(注1)が連なったポリオール構造は、天然物や医薬品などの有機分子によく見られる構造単位であり、それらの薬理作用に重要な役割を果たしています。このため、ポリオール構造を含むさまざまな有機分子の構築法が数多く開発されてきました。従来、この構造単位の構築には、炭素鎖の伸長と酸化を段階的に繰り返す方法が用いられてきました。しかし、この逐次的合成戦略では合成工程数の増大を回避できず、必然的に効率的な合成は困難であったため、新たな反応の開発が望まれていました。
本研究グループは、自然界に豊富に存在するグルコースなどの糖類から調製した、アルコキシアシルテルリド(注2)から炭素ラジカル種(注3)を発生させる手法を新たに見出しました。この炭素ラジカル種を用いることで、8から12個の酸素官能基を有する炭素鎖を選択的に合成することに成功しました。本反応は、これまで合成が困難であった天然物や医薬品の分子構築の効率化を可能とします。
本研究成果は、英国商業誌「Nature Chemistry」の電子版で日本時間11月1日に公開されます。
※発表内容などリリース詳細は添付の関連資料を参照