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理化学研究所と東京理科大学、ジルコニウム同位体で変形魔法数を発見
ジルコニウム同位体で変形魔法数を発見
〜変形魔法数が原子核に大きな変形をもたらす〜
<ポイント>
○中性子数が過剰なジルコニウム同位体に広がる大きく変形した領域
○変形魔法数の中性子数64で、ジルコニウム同位体の変形度が最大に
○変形変化の理解から超新星爆発による重元素合成過程の解明へ
東京理科大学(学長 藤嶋昭)理工学部物理学科の炭竃すみかま聡之助教と独立行政法人理化学研究所(理事長 野依良治)仁科加速器研究センターのグループは、国内外の大学・研究機関との国際共同研究(※1)で、中性子過剰なジルコニウム同位体(※2)(原子番号40)において中性子数64が変形魔法数(※3)となる事を発見しました。
陽子数と中性子数が変化すると原子核は様々な形状をとりますが、形状の変化は魔法数(※3)と密接に関係しています。中性子過剰なジルコニウム同位体は、中性子数60を境に急激に形状が変化し、中性子数64まで大きく変形することが知られています。しかしながら、大きな変形をもたらす変形魔法数との関係はわかっていませんでした。
今回、理化学研究所のRIビームファクトリー(※4)で、世界最高強度のジルコニウム同位体およびイットリウム同位体(原子番号39)ビームを生成し、原子核の崩壊に伴い放出されるγ線(※5)を観測しました。その結果、106Zr(ジルコニウム‐106:陽子数40,中性子数66)と108Zr(ジルコニウム‐108:陽子数40,中性子数68)の励起準位のエネルギーを初めて測定し、変形度が104Zr(ジルコニウム‐104:陽子数40,中性子数64)で最大となる事を明らかにしました。モリブデン同位体(原子番号42)との類似性から、中性子数64に存在する変形魔法数が最大の変形度をもたらしている事がわかりました。本研究の成果は、原子核の質量やβ崩壊半減期(※6)などを理論的に再現する際に基礎となる知見であり、超新星爆発(※7)での重元素合成過程(※8)の解明にもつながると期待されます。
*本研究成果はPhysical Review Letter誌(5月13日号)に掲載予定です。
注)※印1〜10:別紙用語解説添付
1.背景
陽子と中性子から構成される原子核は、球形やラグビーボール型に変形した形状など様々な形状をとり、陽子数や中性子数に関する魔法数とも密接に関連しています。良く知られているのが魔法数と球形の関係で、陽子数及び中性子数の一方もしくは両方が2、8、20、28、40、50などの魔法数になると球形となります。変形した形状においても、変形魔法数と呼ばれる魔法数が存在し、陽子数及び中性子数が変形魔法数になると大きく変形した状態で安定化する事が知られています。
自然界に存在する安定なジルコニウム同位体90Zr(ジルコニウム−90)では、陽子数40と中性子数50が魔法数であり、その形状は球形となります(図1)。90Zrに中性子を10個加えて中性子数を60にすると、大変形領域に入って球形は急激に変化し、さらに中性子を加えると中性子数64まで緩やかに変形度が大きくなることが知られています。しかしながら、さらに中性子が多いジルコニウム同位体の励起準位に関する実験的研究は無いため、その先さらに変形度が大きくなるかどうかはわかっておらず、大変形をもたらす理由も解明されていませんでした。
非常に中性子過剰で不安定なジルコニウム同位体は、超新星爆発の際に生成されたのちβ崩壊してしまったとされています。これまで大強度で生成するのは困難でしたが、2007年、理研仁科加速器センターに世界最高強度のRIビーム生成施設であるRIビームファクトリーが完成し、ようやく中性子数64を超えるジルコニウム同位体の変形研究に道が開けました。本研究では、変形度の変化を中性子数68まで調べるため、中性子数が66と68である106Zr、108Zrの励起準位に関する測定を行いました。
*「図1」は添付の関連資料を参照
*以下、リリースの詳細は添付の関連資料を参照