イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

東大、リボソーム生合成を標的にした新規低分子阻害剤リボジノインドールの同定に成功

2016-09-27

リボソーム生合成を標的にした新規低分子阻害剤ribozinoindoleの同定に成功


1.発表者:
 川島茂裕(東京大学大学院薬学系研究科 特任研究員)
 Tarun M. Kapoor(Rockefeller University 教授)

2.発表のポイント:
 ◆リボソーム生合成に必須なAAA+タンパク質ミダシンの低分子阻害剤リボジノインドール(ribozinoindole)の同定に成功した。
 ◆ribozinoindoleはミダシンのATPase活性の可逆的阻害剤であり、リボソーム生合成の分子機構の理解に大きな進展をもたらす化合物であると期待される。
 ◆本研究成果により、リボソーム生合成、およびAAA+タンパク質を標的にした新たな創薬展開が期待される。

3.発表概要:
 東京大学大学院薬学系研究科の川島茂裕特任研究員らの研究グループは、アメリカ
Rockefeller UniversityのTarun M. Kapoor教授らの研究グループとの共同研究により、リボソーム生合成に必須なAAA+タンパク質(注1)ミダシンの特異的かつ可逆的低分子阻害剤の同定に初めて成功しました。
 細胞内の全てのタンパク質リボソームと呼ばれる巨大RNA・タンパク質複合体により合成されます。そのため、細胞は莫大なエネルギーを費やして、毎分1000以上のリボソームを合成しています。また、細胞はこのリボソーム生合成を素早くかつ正確に行う必要があり、もしこの過程に異常が生じると、リボソーム病(注2)などの疾患につながる可能性が考えられています。さらに、リボソーム生合成の亢進はがん化にも関連することが知られています。よって、リボソーム生合成の分子機構を理解すること、およびリボソーム生合成を標的とした低分子阻害剤を同定することは、基礎生物学的観点、医学・薬学的観点の両面において非常に重要な課題であると考えられています。しかし、リボソームの阻害剤が数多く同定されてきたのと対照的に、リボソーム生合成を標的とした低分子化合物はこれまでほとんど報告がありませんでした。
 本研究グループは、独自に開発した薬剤感受性分裂酵母(注3)を用いることにより、効率的なケミカルスクリーニング系を構築してきました。本研究では、約1万化合物を含むケミカルライブラリーをスクリーニングした結果、リボソーム生合成に必須なAAA+タンパク質ミダシンの選択的阻害剤を同定し、ribozinoindoleと名付けました。さらにribozinoindoleを用いた詳細な解析から、ミダシンのリボソーム生合成における新たな機能を見い出しました。
 ミダシンは酵母からヒトまで真核生物において広く保存されたタンパク質です。本成果は、真核生物において保存されたリボソーム生合成の根源的な分子機構の理解に大きな進展をもたらすことが期待されます。また、本成果により、リボソーム生合成、およびAAA+タンパク質を標的にした新たな創薬展開が期待されます。
 本成果は、「Cell」にオンラインで公開されます。

4.発表内容:
<研究の背景>
 細胞内の全てのタンパク質リボソームと呼ばれる巨大RNA・タンパク質複合体により合成されます。そのため、細胞は莫大なエネルギーを費やして、毎分1000以上のリボソームを合成しています。また、細胞はこのリボソーム生合成を素早くかつ正確に行う必要があり、もしこの過程に異常が生じると、リボソーム病などの疾患につながる可能性が考えられています。さらに、リボソーム生合成の亢進はがん化にも関連することが知られています。よって、リボソーム生合成の分子機構を理解すること、およびリボソーム生合成を標的とした低分子阻害剤を同定することは、基礎生物学的観点、医学・薬学的観点の両面において非常に重要な課題であると言えます。しかし、リボソームの阻害剤が数多く同定されてきたのと対照的に、リボソーム生合成を標的とした低分子化合物はこれまでほとんど報告がありませんでした。

<研究の内容>
 本研究グループは、リボソーム生合成を標的にした新規低分子阻害剤ribozinoindoleの同定に成功しました。
 本研究では、独自に開発した薬剤感受性分裂酵母を用いた化学遺伝学的スクリーニングを約1万化合物を含むケミカルライブラリーを用いて行い、ミダシンの機能が部分的に低下した変異体に対して合成致死となる新規化合物ribozinoindoleを見い出しました。遺伝学および生化学的手法を用いてribozinoindoleの標的探索を行い、リボソーム生合成に必須なAAA+タンパク質ミダシンがribozinoindoleの標的であることを明らかにしました。
 ミダシンは真核生物において高度に保存された重要なタンパク質であるものの、その大きさが約550 kDaと真核生物において最も大きいタンパク質の1つであるため、その生化学的解析がこれまで困難でした。本研究では全長のミダシンタンパク質の精製、およびそのATP加水分解活性(注4)の検出に初めて成功しました。さらにribozinoindoleがミダシンのATP加水分解活性を阻害することを見い出しました。
 リボソーム生合成は真核生物では200以上の制御タンパク質(ミダシンもそのうちの1つ)が関与する複雑でダイナミックな過程であることが知られています。このような細胞内の複雑な系の解析において、標的タンパク質の機能を数秒から数分という非常に早いタイムスケールで阻害できる低分子阻害剤は、古典的な遺伝的アプローチ(例えば、遺伝子欠損)と比べて、非常に優れた研究ツールとなります。実際、ribozinoindoleは細胞内のミダシンの機能を数分で不活性化しました。さらに、化合物を培地から除くことによりミダシンの機能を再活性化できたことから、ribozinoindoleは可逆的な阻害剤であることもわかりました。これらの利点を活かしたribozinoindoleを用いた詳細な経時的解析から、ミダシンのリボソーム生合成における新たな機能を見い出すことに成功しました(図1)。

<今後の展開>
 ミダシンは酵母からヒトまで真核生物において広く保存されたタンパク質です。本成果は、真核生物において保存されたリボソーム生合成の根源的な分子機構の理解に大きな進展をもたらすことが期待されます。また、本成果により、リボソーム生合成、およびAAA+タンパク質を標的にした新たな創薬展開が期待されます。

5.発表雑誌:
 雑誌名:「Cell」
 論文タイトル:Potent, reversible and specific chemical inhibitors of eukaryotic ribosome biogenesis
 著者:Shigehiro A. Kawashima(*)、(**), Zhen Chen*, Yuki Aoi, Anupam Patgiri, Yuki Kobayashi, Paul Nurse and Tarun M. Kapoor(**)
 (*Equal contribution, **Co−corresponding authors)
 DOI番号:10.1016/j.cell.2016.08.070
 アブストラクトURL:http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2016.08.070

■用語解説:
 注1)AAA+タンパク質
  AAAはATPases Associated with diverse cellular Activitiesの略称であり、その名の通り、タンパク質の分解,タンパク質複合体の解離,膜融合、DNA組換えなど,非常に多岐にわたる細胞機能を担うタンパク質のファミリーである。

 注2)リボソーム
  リボソーム生合成に関与する遺伝子の変異・機能低下が原因で引き起こされる疾患の総称。例としては、ダイアモンド・ブラックファン貧血や先天性角化不全症などが知られている。

 注3)薬剤感受性分裂酵母
  分裂酵母をはじめとする真菌は薬剤に対する強固な耐性機構を保持している。本研究グループはこれまでに分裂酵母において薬剤耐性機構に必要な様々な因子を同定し、そのうち7つの遺伝子を遺伝子破壊または変異によって不活性化した薬剤感受性分裂酵母の作製に成功した。

 注4)ATP加水分解活性
  ATP(アデノシン三リン酸)に水が反応し、ADP(アデノシン二リン酸)とリン酸が生成する反応を触媒する活性のこと。

■添付資料:

 ※図1は添付の関連資料を参照





Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版