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東北大など、量子雑音ストリーム暗号と量子鍵配送を組み合わせた高速・大容量秘匿光通信システムを世界で初めて実現

2016-09-26

量子雑音ストリーム暗号と量子鍵配送を組み合わせた高速・
大容量秘匿光通信システムを世界で初めて実現


【概要】
 インターネット、携帯電話、光通信などのICT技術の発展と共に、高速・大容量な通信システムがグローバルに運用されています。そのような中で情報量は益々増え、やり取りする情報の安全性を確保することが極めて重要になってきています。
 東北大学電気通信研究所の中沢正隆教授と学習院大学の平野琢也教授のグループは、QAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交振幅変調)と呼ばれるコヒーレントな多値信号を量子雑音の中に隠すQAM量子雑音暗号伝送技術(QAM/QNSC:QAM/Quantum NoiseStream Cipher)と、単一フォトンに近い極めて微弱なレーザー光で暗号の生成と解読のための鍵を安全に配信する量子鍵配送(QKD:Quantum Key Distribution)技術を組み合わせることにより、極めて安全でかつ高速・大容量な秘匿光通信システムを世界で初めて実現しました。量子暗号伝送において世界最速の単一チャンネル70Gbit/sのデータ速度で100kmの伝送に成功し、その有用性を実証しました。周波数利用効率も10.3bit/s/Hzと極めて高いものです。この新暗号技術は9月21日にドイツ Dusseldorf で開催されるヨーロッパ光通信国際会議(ECOC)で発表されます。

【背景】
 情報化社会の発展と共に、インターネット上での安全な商取引、個人情報の保護、機密情報の漏洩防止など、ネットワークのセキュリティに対する要求が益々高まっています。現在は安全性の高い通信方式としてAES(Advanced Encryption Standard)や公開鍵暗号のように解読に膨大な計算量を要する数理暗号(ソフトウェア暗号)が用いられています。今日の大容量通信の主流は光ファイバ通信ですが、光ファイバ通信にも高い秘匿性が求められています。しかし、光ファイバは極端な曲げを与えると光が漏洩することから、数理暗号で秘匿化しても今後コンピュータの計算能力が飛躍的に向上すると短時間で解読されてしまう恐れがあります。そのため最近では、原理的に解読を不可能にする物理的暗号化方式(ハードウェア暗号)あるいは秘密鍵を安全に配信する技術(受信した信号の振幅分布の形状変化から盗聴を見破る技術)の研究開発が世界各国で進められています。

【従来の技術】
 盗聴者が絶対に解読することの出来ない完全秘匿暗号方式として、今までにBB84(1984年に提案されている)を代表とする量子鍵配送(QKD:Quantum Key Distribution)が提案されています。QKDでは、量子力学の原理(不確定性原理)を利用してまず盗聴を検出できる通信チャンネルを作製し、そのうえで鍵の情報を送受信します。もし、盗聴が検出された場合には、その鍵を破棄して、違うタイミングで再度新たな鍵を送付します。ひとたび送受信者間で安全な鍵が共有出来れば、使い捨て鍵暗号(One time pad暗号)方式を用いて絶対に安全な暗号通信が可能となります。このQKDシステムにおいて、送信者は単一光子あるいは微弱なコヒーレント光の直交する偏光や位相に鍵の情報を乗せて正規受信者へ送付します。例として鍵配送に位相を用いる場合の鍵の割り振り方を図1に示します。送信者は、IとQの直交関係にある2つの振幅情報(以降、モードと呼ぶ)のいずれかをランダムに選択し、Iモードでは、0度でビット情報“1”、180度で“0”を送り、Qモードでは、90度で“1”、270度で“0”を送ります。もしIモードだけで鍵を送付した場合、Iモードと同位相の関係にある局発光信号とのホモダイン検出により、鍵が“0”であるか“1”であるか容易に検出することができます。しかし、直交関係にあるQモードの光子が混在する場合には、そのQモードで送付された信号をIモードと同位相の局発光信号で検出すると、Qモードの位相を検出出来ないため、その検出結果は確率1/2でランダムに“0”または“1”となります。このような検出の誤りが発生する要因は、直交するIとQモード間の不確定性にあり、この不確定性の関係が成り立つ2つのモードを利用して鍵の情報を送付することで安全な鍵配送を実現しています。さらに、盗聴により単一光子の位相を測定し、測定後になりすまして単一光子を送り出しても、受信時の不確定性により同じ位相を配送することが出来ません。即ち、万が一盗聴されても必ず位相の分布にその痕跡が残り、盗聴されていることを見破ることが出来ます。(このQKDの原理の詳細な説明は補足に譲ります。)これまでに多種類のQKD方式が報告されていますが、中でも単一光子に近い微弱なレーザー光に4値の位相変調を与えて鍵情報を送信し、受信側で強い強度の局発光を用いて量子雑音限界のホモダイン検波を行う4値QKD方式は、光通信用の一般的な素子を用いることが出来る実用性の高い方式です。しかしながら、このQKDと使い捨て鍵暗号を用いた量子暗号方式は大変強力なものである一方で、元の通信文と同じ長さの使い捨ての共通鍵を受信者に配送する必要があり、このため量子暗号の速度は鍵配送の速度(数100kbit/s)で制限されてしまう欠点がありました。

 ※図1は添付の関連資料を参照

 これに対し、東北大学では光信号の位相および振幅を同時に多値で変調するQAM(Quadrature Amplitude Modulation)方式のデータを量子雑音の中に埋もれさせて暗号化する量子雑音暗号(QNSC:Quantum Noise Stream Cipher)伝送方式を2013年に提案しています。この方式は送信者はあらかじめ用意した共通鍵により生成した擬似乱数を用いて光信号の位相と振幅の両方を多値変調します。そして、そのデータ信号を光の量子揺らぎの中に埋め込むことにより、盗聴者がデータを正確に受信出来なくしています。一方、正規受信者は共通鍵を保有しているため数学的な処理を施すことにより誤りなく情報を受信で出来ます。伝送時にはQAM変調の多値度を大きくして信号間の位相差および振幅差を小さくすることにより、通信システムの量子雑音がそれらより極めて大きくなるように設定してデータを雑音に埋もれさせ、極めて高い安全性を実現しています。
 その一例として16QAMデータを暗号化する様子を図2に示します。送信者は送りたいデータおよび鍵をシンボルごとに2つのブロックに分け、片側をIチャネル、もう片側をQチャネルに割り当てます(図2の例では緑色がI、青色がQに対応)。そしてIとQを90度位相をずらして足し合わせ、QAM信号を生成します。この信号にレーザーや光増幅器からの量子雑音が付加されると、信号がI,Q両方向、即ち2次元的に乱されます。正規受信者はI,Q両方の鍵をあらかじめ持っていますので、信号処理によりI,Qそれぞれを正しく受信しデータを完全に復元出来ます。しかし、盗聴者は鍵を持っていないためデータを復元出来ません。

 ※図2は添付の関連資料を参照

 QAM型QNSC方式では、データ信号として2NQAMを用いることで、1つの信号でNビットの情報を送ることが出来る利点があります。従って、多値度を増やすことによって周波数の利用効率が大幅に拡大し、伝送容量を大幅に増大出来ます。このためQAM方式は今日のデジタルコヒーレント通信の主流となっています。これまでに我々はQNSC方式により10〜40Gbit/sのデータ速度で480kmの伝送を実現しています。QNSC方式は共通鍵を送受信者間で予め共有する方式です。しかし、この鍵を最初から共有するとその管理も含め盗難などの問題がないわけではありません。
 そこで今回、QAM/QNSC方式においてこの共通鍵のみをQKD方式でOn−line伝送することにより絶対に盗聴されない安全な鍵をある時間に持ち合うことにより、安全性を飛躍的に向上させる方式を考案しました。

【今回の成果】
 具体的には、今まで東北大学中沢研究室で開発してきたQAM型QNSC方式と、学習院大学平野研究室で開発してきた4値QKD方式を組み合わせることにより、高速・大容量かつ極めて安全な秘匿光通信システムを世界で初めて実現しました。そして、共通鍵を1秒毎に更新しながら単一チャンネル70Gbit/sの高速暗号データを100km伝送することに成功しました。この研究成果は2016年9月に開催されるヨーロッパ光通信国際会議で発表される予定です。今回開発した秘匿光通信システムの特徴は以下の通りです。
(1)既存の光通信システムを利用している
 19インチラックサイズの可搬なQAM型QNSC装置および4値QKD装置を開発し、それらを組み合わせて伝送速度70Gbit/s、伝送距離100kmの秘匿光通信システムを構築しました。そのシステム構成およびシステム全体の概観写真を図3(a)および(b)に示します。図3(a)においてQAM型QNSC装置と4値QKD装置にはいずれも送信用光源としてコヒーレント光源を配置し、受信部では局発光とのホモダイン検波回路を用いています。本システムは市販の一般的な光通信用デバイスを用いているため、既存の光通信システムと同等に取り扱えます。

 ※図3、リリース詳細は添付の関連資料を参照




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