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東北大、ナノアンテナで発光波長の精密制御する技術を開発

2016-09-16

ナノアンテナで発光波長の精密制御
低損失な光メタマテリアルで可能に


<概要>
 金森義明(東北大学大学院工学研究科 准教授)、森竹勇斗(現・理化学研究所 研究員)、羽根一博(東北大学大学院工学研究科 教授)の研究グループは、ナノアンテナとして人工光学物質メタマテリアル(1)を用いて量子ドットの発光波長を精密に制御する技術を開発しました。
 本研究グループは、光の波長より小さな金属構造で構成される人工光学物質メタマテリアルに注目し、非対称型ダブルバー(ADB)メタマテリアル(2)を開発しました。周期450nmで二次元配列されたADBメタマテリアル・アレイ上に配置された量子ドットからの発光は、ADBメタマテリアルのFano 共鳴(3)と光学的に結合して外部に放射されます。低損失で狭帯域な光学特性が得られるFano共鳴を利用して、量子ドットだけの発光特性と比べ波長選択性の向上と発光強度の増強に成功しました。発光波長はADBメタマテリアルの構造に強く依存するため、今回、10nmの精度で寸法制御されたADBメタマテリアルを発光中心波長1366nmの量子ドットと組み合わせ、1350〜1376nmの範囲で発光中心波長を精密制御することに成功しました。ディスプレイ、量子情報通信用微小光源、生化学バイオマーカーなどへの応用が期待されます。
 この研究成果は、2016年9月13日付(英国時間)で、英国科学誌ネイチャー(Nature)姉妹紙のオンラインジャーナル「Scientific Reports」に掲載されました。

<研究の背景>
 量子ドットは新しい発光物質として注目されており、光源として実用化するために精密な発光制御技術の確立が切望されています。これまで、金属ナノギャップ構造を用いた発光材料からの発光増強が知られていましたが、発光波長の精密制御は困難でした。近年、自然界の物質には無い光学特性を実現できる新たな人工光学物質としてメタマテリアルが注目されており、メタマテリアルの概念を用いて設計された分割リング共振器など新たな光共振器が提案されていますが、光学損失が大きいことが問題でした。
 研究グループは、量子ドットの発光と光結合できる低損失な光メタマテリアルを開発し、形状を10nmの精度で寸法制御することで量子ドットの発光波長を精密制御することに成功しました。

<研究のポイント

 図1に、ADBメタマテリアルの基本構造を示します。長さの異なる2本の平行な金属棒構造で形成されており、金属には金が使われています。このようなADBメタマテリアルが周期450nmで石英基板上に二次元配列されています。
 本研究では、発光中心波長1366nmのPbS量子ドットを発光体として用いました。量子ドットはポリマー薄膜中に分散しており、図2に示すようにADBメタマテリアル上に配置されています。ADBメタマテリアルのFano共鳴とポリマー中の量子ドットからの発光を光結合させるために、Fano共鳴波長が量子ドットの発光波長と一致するようにADBメタマテリアルの寸法を設計しました。励起光として波長532nmのレーザー光をADBメタマテリアル上面から照射し、ADBメタマテリアル上面の発光スペクトルを観察しました。
 図3に、製作したADBメタマテリアルの上面電子顕微鏡像を示します。光学特性はADBメタマテリアルの形状で制御することができ、今回、10nmの精度で寸法制御されたADBメタマテリアルを発光中心波長1366nmの量子ドットと組み合わせ、1350〜1376nmの範囲で発光中心波長を精密制御することに成功しました。発光波長の変化の傾向は、解析結果でもよく再現することが出来ました。また、量子ドットだけ(ADBメタマテリアル無し)の発光特性と比べ、4倍の発光増強と強い偏光依存性を観測しました。これは量子ドットからの発光とFano共鳴との強い光結合が起きていることを裏付ける結果となります。

<波及効果>
 メタマテリアルによる光共振器は単位構造で動作するため、周期性が必要なフォトニック結晶よりも小さな光共振器が実現できます。また、半導体リソグラフィー技術によるパターン形成により、任意形状の光共振器を決められた位置に大量一括製作することができます。これらの利点を活かし、ディスプレイ、量子情報通信用単一光子源、生化学バイオマーカーなどへの応用が期待されます。また、光メタマテリアルのジュール損失を量子ドットの光利得で補償できるため、光領域における負の屈折率、透明マント(クローキング)、完全レンズの実用化に向けて重要な技術になると期待されます。

【論文情報】
 発表論文名:Emission wavelength tuning of fluorescence by fine structural control of optical metamaterials with Fano resonance
 著者名:Yuto Moritake,Yoshiaki Kanamori,and Kazuhiro Hane
 発表雑誌名:Scientific Reports
 DOI:10.1038/srep33208

【用語説明】
1)光メタマテリアル
 光の波長(動作波長)より小さな単位構造で構成され、自然界には無いような電磁波応答を示す人工光学物質である。光の周波数領域で透磁率は一定であるという慣例を破り、誘電率と透磁率の両方の操作を可能とした光制御の新しい概念である。光学特性はメタマテリアルの形状で変化させることができる。負の屈折率、透明マント(クローキング)、完全レンズなどの実現の可能性が示されている。これらはメタマテリアルの共振波長で動作することから、メタマテリアルの単位構造は光共振器と見なせる。今回の研究成果では、メタマテリアルを光共振器として利用した。


2)非対称型ダブルバー(ADB)メタマテリアル
 長さの異なる2本の平行な金属棒構造を基本構造とし、構造の単純さからメタマテリアルを用いた光領域で動作する光共振器に適している。その中でも、ADBメタマテリアルを用いた光共振器で発生できるFano効果による共鳴干渉を利用すると、光共振器からの放射損失が抑制され、光閉じ込め特性の高い光共振器が実現できる。ADBはAsymmetric Double Barの略称。

3)Fano共鳴
 メタマテリアルにおけるFano共鳴は、空間中の電磁波と直接的にエネルギーの受け渡しが可能な放射モードと、不可能な非放射モードが光学干渉することで生じる共鳴現象。Fano共鳴が生じると、両モード間で位相が打ち消し合う状態で干渉が起こるため放射損失が低減する。

 ※図1〜図3は添付の関連資料を参照




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