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東工大と東北大など、酸化ハフニウム基強誘電体の基礎特性を解明

2016-09-14

酸化ハフニウム基強誘電体の基礎特性を解明
―超高密度で高速動作する不揮発性メモリー実現に道―


【概要】
 東京工業大学元素戦略研究センター(センター長 細野秀雄教授)の清水荘雄特任助教と物質理工学院兼同センターの舟窪浩教授、東北大学金属材料研究所の今野豊彦教授と木口賢紀准教授、物質・材料研究機構 技術開発・共用部門坂田修身ステーション長らの研究グループは、スマホやパソコンのトランジスタ(スイッチ)に使われている酸化ハフニウムを基本組成とした、強誘電体の電源を切った時に貯められる電気の量や、使用可能な温度範囲といった基礎特性を解明した。
 結晶方位を制御した単結晶薄膜を電極上に作製することにより、これまで明らかになっていなかった特性の解明に成功した。その結果、酸化ハフニウム基の強誘電体が従来使用されてきた強誘電体に匹敵する特性を有することが明らかになった。強誘電体を用いたメモリーは、交通機関の定期券等に使用されている非接触式ICカード(電子マネー)として実用化されている。今回の成果によって明らかになった優れた特性と、これまでの物質では不可能であった薄膜化しても特性が劣化しない特性を活用すれば、メモリーの飛躍的な高密度化が期待できる。
 今回の研究成果はネイチャー誌の姉妹誌である学術誌「サイエンティフィックレポート(Scientific Reports)」オンライン版に9月9日付で掲載される。

●研究の背景
 強誘電体は電源を切っても電圧をかけた方向によって2つの安定した状態が実現するため、電力を消費せずにデータが保存できるメモリーとして鉄道のICカードなどで広く使われている。しかし、その用途は特殊なものに限定されており、USBメモリーのような汎用性の高いメモリーとしては使われていなかった。用途が限定されている最大の理由は、これまでの強誘電体は薄くしていくと、特性が低下する“サイズ効果”があり、メモリーの高密度化が実現できないためである。5年前に、極微細なトランジスタ(スイッチ)の絶縁体として広く使われている酸化ハフニウム基の物質で、これまで不可能と考えられていた薄くても強誘電性が発現できることが報告され、大きな注目を集めた。しかし、これまで作製されてきた薄膜はさまざまな方位を向いた粒の集合体(多結晶)であり、不純物相も一緒に存在するため、酸化ハフニウム基強誘電体の基本的な性質はほとんど明らかになっておらず、実用化のための最大の問題であった。

●研究手法・成果
 東工大の清水特任助教らのグループは、強誘電体膜の組成を状態図から再度検討して最適化した酸化イットリウム(Y2O3)を置換した酸化ハフニウム(HfO2)を選択するとともに、薄膜を成長させる基材の結晶構造およびその格子の長さを工夫することで、15ナノメートル(nm、100万分の15ミリ)まで薄くても特性が劣化しない強誘電体単結晶膜の作製に成功した。さらに結晶構造が類似しているインジウム・スズの酸化物(ITO)の薄膜を電極として用い、酸化イットリウム結晶の方向を制御した単結晶膜を、電極上に作製することに成功した。
 電極上に作製した、単結晶膜を用いることで、強誘電体相が400℃以上の高温まで安定に存在することを明らかにした(図1)。この結果から、広い温度範囲での使用が可能であることが分かった。

 ※図1〜3は添付の関連資料を参照

●期待される波及効果
 今回の研究成果は、以下のような波及効果が期待される。
 a)“夢のメモリー”強誘電体メモリーの高容量化の実現
  強誘電体メモリーはUSBメモリーのように電源を切ってもデータが保存でき、USBメモリーより高速で動作できることから“夢のメモリー”としてICカードなどで実用化されている。しかし多くの情報を入力して管理することを可能にする大容量のメモリーは現在までできていない。今回の研究成果で、酸化ハフニウム基強誘電体を用いて、電源を切ってもデータが保持でき、高速動作できる“夢のメモリー”の高密度化の実現が期待できる。
 b)新規デバイスの実現
  強誘電体はこれまで薄くすると特性が劣化する“サイズ効果”によって、薄膜を用いたデバイスが非常に困難であった。しかし極薄膜で結晶方位の揃った強誘電体単結晶膜が得られたことで、以下のデバイスの実現が期待できる。
  [1]超高密度新規メモリー
   抵抗変化型メモリー(Resistive Random Access Memory、ReRAM、用語1)は、消費電力が少なく、大容量化が期待できるとして、さまざまな物質が検討されてきたが、安定した動作と信頼性の確保が難しいことから、本格的な普及には至っていない。
   強誘電体は電源を切った時に2つの状態が実現し、抵抗値も異なる。強誘電体を用いた抵抗変化型メモリーの基本アイデアはノーベル賞を受賞した江崎博士によって50年以上前に提案されていた。しかし強誘電体を用いた抵抗変化型メモリーを実現するには、非常に薄い強誘電体層が必要なため、ほとんど検討されてこなかった。
   今回の成果により、強誘電体抵抗変化メモリーの実用化研究が始まる。
  [2]高性能で電池の寿命が飛躍的に延びたスマートフォン
   現在のスマートフォンやノートパソコンなどは、性能を重視すると、電池の消費量が大きくなるため、電池をもたせて数時間使えるように性能を落として使用している。そのため低消費電力でも高速で動作する新しい演算素子が必要とされている。
   極薄膜でも安定した強誘電性が得られると、高性能で使用しても消費電力が低く、電池の持ちの良い新タイプのトランジスタを作製することが可能となる。これによって、高性能で電池の寿命が飛躍的に延びたスマートフォンやノートパソコンが実現できる。

【用語説明】
 (1)ReRAM(抵抗変化型メモリー、Resistance Random Access Memory)は、電圧の印加による電気抵抗の変化を利用した半導体メモリー。低消費電力、高密度化が可能で、読み出し速度が速いのが特徴。現在、多くの方式、多くの物質が検討されており、実用化も始まっている。

【論文情報】
 題名:The demonstration of significant ferroelectricity in epitaxial Y−doped HfO2 film
 日本語訳:Y添加 HfO2 エピタキシャル薄膜の強誘電性の実証
 著者:Takao Shimizu,Kiliha Katayama,Takanori Kiguchi,Akihiro Akama,Toyohiko JKonno,Osami Sakata,and Hiroshi Funakubo
 ジャーナル名:Scientific Reports
 掲載日:2016年9月9日
 DOI:10.1038/srep32931

【特記事項】
 今回の研究は、文部科学省元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>電子材料領域「東工大元素戦略拠点」、日本学術振興会の科学研究費、文部科学省の科学研究費、文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(東北大学 微細構造解析プラットフォーム)の一環として行われた。また構造解析は物質・材料研究機構のSPring8のビームラインで行われた。



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