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NEDO、高温高圧フロー型マイクロ波応用有機合成装置を開発
高温高圧フロー型マイクロ波応用有機合成装置を開発
―(株)サイダ・FDSが販売開始―
NEDOプロジェクトで、(株)サイダ・FDSは初原料と薬の間にある製品(医薬中間体)・特殊化成品の有機合成を目的とする高温高圧フロー型マイクロ波応用有機合成装置を開発しました。
開発した装置は、マイクロ波を用いることにより、圧倒的な収量アップに加え、難合成を高速・高収率で実施できるようになり、基礎研究から生産規模まで対応可能な装置のラインアップがこのほど完成、9月1日から販売を開始しました。
なお、静岡県医療健康産業研究開発センターで、9月1日から随時、モデルラボを設営し、装置の試用、勉強会、セミナーを実施します。
*図1は添付の関連資料を参照
1.概要
NEDOは、ベンチャー・中小企業等が保有している潜在的技術シーズを活用した技術開発について、その技術面や事業化の面での優位性や独自性等の観点から有望案件を選抜・育成し、事業化を見据えた支援策として、「ベンチャー企業への実用化助成事業」を実施しています。
その事業の中で株式会社サイダ・FDS(本社:静岡県焼津市、代表者:斎田 久人 代表取締役社長)は、2013年から2014年までの間、医薬中間体(※1)・特殊化成品の有機合成を主たる目的として、「高温高圧フロー型マイクロ波応用有機合成技術のプロセス生産展開」に取り組み、一日当たり収量で世界トップクラスを行く医薬中間体生産収量に加えて、難合成の高速・高収率を実証してきました。2014年以降は公益財団法人静岡県産業振興財団の助成、株式会社日本政策金融公庫からの制度融資(NEDOと日本政策金融公庫による初の連携支援)を活用し、国立研究開発法人産業技術総合研究所、静岡県公立大学法人静岡県立大学、国立大学法人静岡大学、岐阜薬科大学との産学官連携による共同開発を進め、装置の高度化とその応用可能性の研究を活用し、高温高圧フロー型マイクロ波応用有機合成装置(※2)を開発しました。
この装置は基礎研究から生産規模まで同一技術での展開を可能とし、市場導入までの時間を大幅に短縮することが期待されています。なお、株式会社サイダ・FDSは、マイクロ波出力50W、100W、200Wの装置のラインアップを完成させ、9月1日から販売を開始しました。今年中には、国際認証取得を完了した100W装置から、海外市場導入を進めます。
なお、9月1日に開所された静岡県医療健康産業研究開発センター内において、モデルラボを設営し、高温高圧フロー型マイクロ波応用有機合成装置の試用、マイクロ波やフロー化学に関する勉強会/セミナーを実施します。
2.今回の成果
フロー合成を行う場合、従来はメタルチューブリアクター(※3)を用いていました。装置は簡単、安全で小型の上、リアルタイムモニタリングで反応の最適化が行えるなどの利点がありましたが、反面、細い流路、低い信頼性のため収量増が困難でした。このたび開発した高温高圧フロー型マイクロ波応用有機合成装置は、マイクロ波を用いることにより、医薬中間体としての有機合成においては、従来目標(1kg/日)の収量を大幅に上回る収量約3kg/日、特殊化成品用途では、約6kg/日の収量を、卓上設置可能な小型装置で実証、それに加え、瞬間的な加熱条件の変更、温度制御が可能なことから、フローモニターと数理統計学との統合連動により、合成条件最適化をきわめて高速でできることを実証しました。瞬間的な加熱時間の温度制御やウルトラファインバブル(※4)による気液混相反応(※5)への展開も可能です。このため、複雑かつ危険な有機合成が容易にかつ安全に収量アップが可能となり、生産コストを下げることができました。
*図2・図3は添付の関連資料を参照
高温高圧フロー型マイクロ波応用有機合成装置の主な特徴は以下の通りです。
・耐圧保障 2.5MPa
・耐熱保障 230℃(到達温度は試液による)
・連続的試験条件変更(グラディエント処理)
・評価系接続によるリアルタイムモニター
・研究から生産工程へのスムーズな展開
・低沸点溶媒活用高温合成から精製分離容易
・高い安全性
・小型机上サイズ
【用語解説】
※1 医薬中間体
薬そのものではなく、現在、使われる薬は、何段階もの工程を踏んで作られていて、初原料と薬の間にある製品のことを医薬中間体と呼びます。世界に通用する新薬が製品化までこぎつける確率は数千分の一とも言われ、その開発にかかる期間は10年以上、費用は数百億円もかかります。このため、大手製薬会社、特に海外の企業は経営資源を研究・開発に集中し、実際の製造は外部へ委託するケースが多くあります。
※2 高温高圧フロー型マイクロ波応用有機合成装置
試液を加圧送液することにより、試液の大気圧下での沸点以上に、試液温度を大幅に上昇させる機能を有するマイクロ波を応用した有機合成用装置で、特に試液を流通できることを特徴とした装置。
※3 メタルチューブリアクター
外径1mmφ程度の極細い金属製のチューブをコイルアップし、その内部に試液を流通させ、チューブ外部からヒートブロックやオイルバスのような加熱装置を用いて、熱エネルギーを試液に熱伝導し、合成・反応を促進させる装置。金属管としては、SUS管が広く用いられているが、腐食などの問題が発生する場合には、より強度のあるハステロイなどが使用されます。より低温の場合には、ポリマーチューブを利用する場合もあります。
※4 ウルトラファインバブル
液中に気体がミクロン以下のサイズであるバブル状態で高濃度に溶存している状態をいいます。
※5 気液混相反応
気体が高濃度に溶存した試液を用いて行う化学反応。空気や酸素を液中に溶存させて酸化反応や水素を溶存させて水素添加反応に用いることなどが応用例として挙げられます。特に固定化触媒とセットにした、気体液体固体の3できる相の領域は、先端的研究領域として現在注目されています。