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東大と千葉工大など、南鳥島沖の排他的経済水域内の深海底に広大なマンガンノジュール密集域を発見

2016-08-31

南鳥島沖の排他的経済水域内の深海底に広大なマンガンノジュール密集域を発見
〜三種の酸化物海底資源の包括的な成因解明のための手掛かり〜


1.概要
 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAmSTEC」)、国立大学法人東京大学(総長 五神 真)および学校法人千葉工業大学(学長 小宮 一仁)などの研究グループは、平成22年度から平成28年4月にかけての複数の航海により、南鳥島周辺の排他的経済水域(以下「南鳥島EEZ」)(図1)の南部から東部にかけての深海底(水深5,500−5,800m)に広大なマンガンノジュール(※1)の密集域(図2)を発見しました。これまで、我が国のEEZでは海山の緩斜面にコバルトリッチクラスト(※2)に伴って存在する小規模なマンガンノジュールの分布は知られていましたが、深海底に広大なマンガンノジュールの分布が見つかったのは初めてです。
 また、この発見は、平成22年度の研究船を用いたマルチナロービーム音響測深機による海底の後方散乱強度(音波の反射強度)調査がきっかけです。平成28年4月に行った有人潜水調査船「しんかい6500」の潜航調査によって、高い反射強度がマンガンノジュールの存在を示すことを確認し、反射強度分布(図3)に基づいて上記のマンガンノジュール密集域の広がりを推定しました。これにより、音波の反射強度調査(図3)が効率的かつ安価にマンガンノジュールの分布を把握するうえで有効な手段の一つであることが分かりました。
 さらに、南鳥島EEZのマンガンノジュールは、コバルトリッチクラストと共通の鉱物学的・化学的特徴を持ち(図4および図5)、コバルト、ニッケル、銅、モリブデンなどのレアメタルおよびベースメタルが多く含まれること、およびレアアース泥(※3)と分布域が広範囲で重複することを明らかにしました。これは、マンガンノジュールが、化学組成の点でコバルトリッチクラストと関連があり、分布域が重複するという点でレアアース泥と関連があることを意味します。したがって、これまで個別に議論・検討されてきた酸化物を主体とする三種の海底鉱物資源(マンガンノジュール、コバルトリッチクラストレアアース泥)の成因が、マンガンノジュールを手掛かりとすることで包括的に解明できる可能性(図6)があります。今後、採取したマンガンノジュール試料をさらに詳細に分析・解析することによって、日本周辺における三種の酸化物資源の成因解明に関する研究を進める予定です。
 今回の発見のきっかけとなったこれまでの研究成果は、日本地球化学会が発行する学術雑誌「Geochemical Journal」特集号に2編の論文として掲載される予定であり、8月26日付けで電子版に掲載されます。

 タイトル:Geology and geochemistry of ferromanganese nodules in the Japanese Exclusive Economic Zone around minamitorishima Island
 著者:町田嗣樹 1、2、藤永公一郎 2、3、石井輝秋 4、中村謙太郎 5、平野直人 6、加藤泰浩 1、2、3、5

 1. 海洋研究開発機構 海底資源研究開発センター
 2. 東京大学大学院工学系研究科 エネルギー・資源フロンティアセンター
 3. 千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター
 4. 深田地質研究所
 5. 東京大学大学院工学系研究科 システム創成学専攻
 6. 東北大学東北アジア研究センター

 タイトル:Acoustic characterization of pelagic sediments using sub−bottom profiler data: Implications for the distribution of REY−rich mud in the minamitorishima EEZ, western Pacific
 著者:中村謙太郎 1、町田嗣樹 2、3、沖野郷子 4、正木裕香 2、飯島耕一 2、鈴木勝彦 2、加藤泰浩 1、2、3、5

 1. 東京大学大学院工学系研究科 システム創成学専攻
 2. 海洋研究開発機構 海底資源研究開発センター
 3. 東京大学大学院工学系研究科 エネルギー・資源フロンティアセンター
 4. 東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門
 5. 千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター

2.背景と経緯
 世界の深海底には、マンガンノジュール、コバルトリッチクラストレアアース泥、海底熱水鉱床と呼ばれる海底鉱物資源が存在し、有用なベースメタル・レアメタルの供給源として注目されています。これらのうち、マンガンノジュール、コバルトリッチクラストレアアース泥は酸化物を主体としており、現在の酸素に満ちた(酸化的な)環境下で安定に存在する資源です。JAmSTECなどの本研究グループでは、これらの酸化物資源を対象とした科学的な研究を進めています。
 今回の一連の発見は、平成22年に「しんかい6500」の潜航調査(航海番号:YK10−05)を行い、南鳥島の東約300kmの排他的経済水域(EEZ)内に位置する小海山(比高約400m、直径約5,000m)の斜面に大量のマンガンノジュールが密集して分布していることが発見されたことがきっかけです。
 YK10−05航海の結果、「マンガンノジュールの高密集域では海底の後方散乱強度が高い(音波を強く反射する)」という知見が得られました(補足1)。その後、平成25年以降、昨年度までに行われた、深海調査研究船「かいれい」および海洋地球研究船「みらい」による研究航海において、音響調査(マルチナロービーム音響測深機による海底地形・海底後方散乱強度調査(図1)、サブボトムプロファイラーによる浅層地層構造調査(補足2))を行い、EEZ南部から南東部の深海底に広範に高い後方散乱強度域(強反射域)が広がっていることが判明しました(図3b)。そこは、昨年度までの調査に基づいて、堆積物が10m以上堆積し海底下の浅い深度にレアアース泥が存在することが確認された場所と重複します(補足3)。このことから、EEZ南部から南東部の広範な高い反射強度は、堆積物の上にマンガンノジュールが存在することが原因であろうと予想されました。そこで平成28年4月に、音響データによって明らかとなったレアアース泥分布域において、「しんかい6500」を用いた目視観察等で海底のマンガンノジュールの有無および分布状況を確認するとともに、マンガンノジュールおよびその直下の堆積物試料を合わせて採取するための調査(航海番号:YK16−01)を実施しました。

3.成果
 (1)マンガンノジュールの分布状況と密集域の面積
 YK16−01航海における「しんかい6500」の潜航調査は、上記範囲の強反射域を網羅し、かつ地形的な特徴の異なる8地点(図1)で実施しました。その結果、7地点でマンガンノジュールが高い密集度(〜130個/m2)で分布していることを発見し(図2)、当初の予想通り、EEZ南部から南東部にかけての強反射域がマンガンノジュール分布域に対応していることを確認しました。反射強度域の広がり(図3)に基づくと、EEZ南部から東部の深海底の広域(図1)にマンガンノジュール密集域が存在すると考えられ、密集域の総面積は約44,000km2に及ぶと推定されます。従来、我が国のEEZ内では、海山の斜面の一部に小規模に分布するマンガンノジュールは知られていましたが、今回のような海山のない深海底において、非常に広大な分布が発見されたのは初めてです。

 (2)マンガンノジュールの分布と反射強度との関係
 潜航調査では、マンガンノジュール分布と反射強度の強弱および地形の起伏との対応関係を目視により確認し、マンガンノジュールの分布の様子を映像・画像(※4)として記録しました。その結果、反射強度が周囲に比べ相対的に高い場所では、いずれもマンガンノジュールが分布していることが明らかとなりました(補足4および図3、※5)。これにより、マルチナロービーム音響測深機による反射強度調査が、海底にマンガンノジュールが分布するか否かの判別、および分布範囲の特定に有効な手段の一つであるということが分かりました。

 (3)南鳥島EEZ内の他の酸化物資源との関連性
 YK10−05航海およびYK16−01航海において発見・採取されたマンガンノジュールは、その鉱物学的および化学組成の特徴が南鳥島EEZ内の海山(例えば拓洋第5海山)の斜面に形成されているコバルトリッチクラストと共通していることが判明しました。つまり、南鳥島周辺のマンガンノジュールは、コバルトリッチクラストと同様にコバルト、ニッケル、銅、モリブデンなどのベースメタルおよびレアメタルを多く含んでいることが特徴です。以前から存在が確認されているハワイ沖のマンガンノジュール密集域のものとは、特にコバルト、ニッケル、銅の濃度の違いにより明瞭に区別されます(図4)。
 その他に、X線CT等を用いて系統的にマンガンノジュールの内部構造を観察すると、南鳥島沖のマンガンノジュールは大まかに三層構造を成しており(図5)、このような内部構造の特徴もまた、周囲の海山に形成されているコバルトリッチクラストと同様であることがわかりました。このような鉱物学的および化学組成の特徴の類似性は、南鳥島沖海域に分布するマンガンノジュールとコバルトリッチクラストの成因として、共通の物質や機構などが関与している可能性を示唆します。一方、南鳥島EEZ内のマンガンノジュールの分布域は、サブボトムプロファイラーによる浅層地
層構造調査により判明したレアアース泥の分布と、よく一致することが明らかとなりました(補足2および3)。このことは、マンガンノジュールがレアアース泥とも両者の生成に共通する機構や地質学的条件など成因的な関連があることを示していると考えられます。

4.今後の展望
 今回、南鳥島周辺のEEZ内にこれまでの認識を遥かに上回る規模でマンガンノジュールが分布していることを発見したことにより、将来の開発につながることがより一層期待されます。また、本航海によって示されたマルチナロービーム音響測深機による反射強度調査の有効性は、今後、他海域の広大な深海底において、効率的かつ安価にマンガンノジュールを探査するための指針を構築するうえで重要な視点です。
 今回発見されたマンガンノジュールは、コバルトリッチクラストとは鉱物学的・化学的特徴という点で、レアアース泥とは分布域という点でそれぞれ共通性があります。したがって、南鳥島海域に存在するこれら三つの海底鉱物資源には、成因的に何らかの密接な関連性があると考えられ(図6)、マンガンノジュールが、これまで個別に議論・検討されてきた三種の酸化物資源の成因を包括的に解明するための重要な手掛かりとなる海底鉱物資源であると考えることができます。今後は、今回の航海で採取したマンガンノジュール試料について、内側から外側へ細かい空間スケールで化学組成および同位体組成を分析し、マンガンノジュールの詳細な成長履歴を把握したうえで、元素濃集メカニズムを解明します。同時に、コバルトリッチクラストおよびレアアース泥に対する同一同精度の化学分析によって得られる形成年代および化学組成データと照らし合わせ、包括的に解析することにより、三者の成因関係や生成の時間的な前後関係を検証します。
 今回明らかになった海域毎のマンガンノジュールの形や大きさの違いは、核となる物質やその形状の違いを反映していると考えられ、マンガンノジュール密集域の地質環境の差異を表していると予想されます。このことは、マンガンノジュールのみならず、直下に存在するレアアース泥および周囲の海山に分布するコバルトリッチクラストの成因解明のための重要な視点です。さらに、核の種類や形状の違いが、その場所の海底の反射強度にまで影響を与えていると考えられ、探査指針の構築にとっても重要な制約となり得ます。今後、X線CTの計測結果を詳細に解析して核の3次元構造を把握すると同時に、核の化学組成分析も進め、マンガンノジュールの分布を支配する地質学的背景を解明します。

 ※1 マンガンノジュール
 鉄およびマンガンの水酸化物または酸化物が、核(何らかの固いもの、例えば固結した堆積物や岩石の破片、魚の歯など)を中心として同心円状に沈着したもの。海水から鉄およびマンガンが沈着してできる場合と、堆積物の間隙水中に溶けている主にマンガンが沈着してできる場合があると考えられている。マンガン団塊とも呼ばれる。
 ※2 コバルトリッチクラスト
 マンガンノジュールと同様に、鉄およびマンガンの水酸化物または酸化物が、海底の露岩(火山岩
や堆積岩など)の表面に沈着したもの。海水から鉄およびマンガンが沈着してできると考えられている。一般的な名称はマンガンクラストであるが、コバルトに富むことから資源的価値の高さに重きを置き、コバルトリッチクラストと呼ばれている。
 ※3 レアアース泥(でい)
 レアアースを豊富に含んだ暗褐色の泥質遠洋性堆積物。魚類の骨片や歯、微小な鉄マンガン酸化水酸化物が堆積物としての主な構成物であり、それらに海水中のレアアースが濃集していると考えられている。
 ※4 映像・画像
 潜航調査では、4Kビデオカメラ(補足5)を「しんかい6500」の左右2つのサンプルバスケットの間(根元部)に取り付けて海底の様子を撮影した。着底時には海底面上の約20cmという至近距離から撮影し、海底に敷き詰められたマンガンノジュールやその表面の付着物、さらにノジュールの下の堆積物(泥)の表面の様子(細かな穴が多数空いている)など、サンプリング時やその後船上に上げるまでの間に乱されて証拠が残らない海底の様子を、極めて鮮明な映像として記録することに成功した(補足4e)。これらの情報は、マンガンノジュールの成長過程を理解するうえで重要な記録といえる。
 ※5 海底後方散乱強度とマンガンノジュールの分布の関係について
 今回の潜航調査において、地形の起伏と後方散乱強度(反射強度)との関係性が低いことが以下の3つの観察事実により考えられる。[1]地形的高まりは、マンガンノジュール密集域であることが多い(第1207,1459,1460,1465潜航地点など;補足1e,1f,4a,4c,4g)。[2]地形的高まりの中でも、反射強度の低下に伴ってマンガンノジュールの分布密度が低下する(第1459潜航地点など;補足1c,1dおよび補足4a,4b)。[3]窪地であっても、強い反射強度の場所はマンガンノジュールが密集している(第1463および1464潜航地点;図2および補足4e)。
 以上に加えて、反射強度がさほど高くなくても(図3bに示すデータの場合5.0−5.5dB程度)高い密集度でマンガンノジュールが分布している場合があることも確認できた。そのような場所のノジュールは紡錘形や偏平な形をしている(第1462および第1465潜航地点;補足4d,4g)。一方、真球のノジュールが密集する場所(第1207,1459,1464潜航地点;補足1eおよび図2)は非常に高い反射強度を示す(図3bに示すデータの場合6.0dB以上)。
 これらの観察結果から、反射強度が非常に弱い場所(図3bに示すデータの場合4.0dB以下)(例えば第1465潜航地点;補足4f)を除き、それ以上の反射が認められれば、その他の探査データとともに総合的に判断することでマンガンノジュールの密集域であると判断することができる。また、3.成果(1)で示したように反射強度データに基づきマンガンノジュール密集域の範囲を推定することが可能となる。

 *図と補足資料は添付の関連資料を参照




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