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東大など、複数のさい帯血ユニットを利用した新規移植法の開発へと結びつく成果を報告

2016-08-16

複数のさい帯血ユニットを利用する新規移植法の開発へ


1.発表者:
 大津 真(東京大学医科学研究所 幹細胞プロセシング分野/ステムセルバンク 准教授)

2.発表のポイント:
 ◆ひとつのユニットだけでは造血細胞数が不足する「さい帯血移植」の問題点を、複数ユニットの組み合わせ移植で克服し得る事を実験的に証明し、新たな移植法開発の可能性を示した。
 ◆遺伝背景の異なる造血幹/前駆細胞であっても、組み合わせの移植により協調して早期の造血回復に寄与することから、移植の補助製剤としての使用が可能となることを初めて実証した。
 ◆本成果を元に新規移植法が開発され、移植後早期の合併症リスクの軽減によって、多くの患者がより安全にさい帯血移植を受けられるようになることが期待される。

3.発表概要:
 東京大学医科学研究所の石田 隆客員研究員(当時:北里大学大学院医療系研究科・博士課程在籍、現:同大学医学部血液内科学助教)、高橋 聡准教授、大津 真准教授らは、同所の中内 啓光教授、北里大学の東原 正明教授らと共同で、複数のさい帯血ユニットを利用した新規移植法の開発へと結びつく、画期的な成果を報告した。
 白血病等の治療に用いられるさい帯血移植においては、ひとつのユニットに含まれる細胞数が不足し生着(注1)が遅れることが臨床上の問題となっている(図1)。ふたつのユニットの移植では細胞数の不足を補うには十分ではなく、また先行する臨床研究において3つ以上の混合ではむしろ副反応が前面に出ることが示されている。
 本共同研究チームは、個々のユニットに含まれる免疫細胞(注2)を排除し、血液の幹細胞を多く含む細胞集団(造血幹/前駆細胞、注3)にすることで、複数混合して移植した後も干渉しあうことなく協調して血液細胞を産生し、レシピエント(注4)の早期回復を助けることを実験的に証明した。さらに臨床応用に向けて、ヒト凍結さい帯血最大9ユニットの混合物から造血幹/前駆細胞を効率よく回収する技術もあわせて確立した。
 これらはより安全な移植医療の確立に寄与する成果と期待される。本研究成果は2016年8月8日(米国東部時間)、Journal of Experimental Medicineオンライン版で公開される。本研究は、橋渡し研究加速ネットワークプログラム(文部科学省、現在は日本医療研究開発機構へ移管)の一環として行われた。

4.発表内容:
(1)研究の背景
 移植ソースとしてのさい帯血は、多くの利点から需要が年々増加する一方、生着不全の割合が高いことが常に臨床上の問題となっている。この生着不全の最大の原因の一つが、ひとつのユニットに含まれる細胞数の不足である。細胞数不足の懸念から、欧米では2ユニットを移植する方法が実施されているが、近年の臨床試験においてその有用性については否定的な見解が出されている。また、3ユニット以上のさい帯血を混合する移植も試行されたが、期待されるメリットよりも、予期せぬデメリットが前面に出る結果となり、以降追試はされていない。これらの移植はいずれも、個々のユニットにリンパ球等の免疫細胞を含んだまま混合され施行されており、ユニット間で生じる複雑な免疫反応が結果に影響している可能性が示唆されるものの、実験的な確証は得られていなかった。
 白血病等の移植においては、がん細胞の根絶を目的に通常、抗がん剤/放射線照射等の強い治療が行われる。そのため移植後は、感染症から体を守るための好中球、出血を防ぐための血小板の1日でも早い回復が必要とされ、この遅れがしばしば患者を生命の危険に晒すこととなる(図1)。そこで本共同研究チームは、好中球、血小板を早期に回復させる目的においては、移植するさい帯血ユニット中のリンパ球は不要であり、免疫細胞はむしろ余剰かも知れないと考えた。すなわち、細胞数不足を克服するために行う複数さい帯血ユニットの混合には、免疫細胞を除去した「造血幹/前駆細胞」を用いることで十分であり、かつ複雑な免疫反応を回避することにもつながると考えた。しかしながら、遺伝背景の異なる造血幹/前駆細胞がはたして移植後に期待どおり「足し算」の効果を発揮し、好中球、血小板の早期回復を可能にするのであろうか?
 本研究は、この単純ではあるが、未だ実験的に検証されてこなかった疑問に答えるべく実施された。

(2)研究内容
 研究は主にさい帯血のモデルとしてマウスの骨髄細胞を用いて行われた。マウス骨髄細胞の使用は、造血幹細胞、前駆細胞、免疫細胞等の細かい分画法が確立している点、複数の「他人」実験用マウスが利用可能である点、複数種を混合して移植した後でもフローサイトメトリー法(注5)により個々の細胞を正確に区別して解析できる点等、多くの利点を有する。さまざまな混合移植実験を繰り返した結果、以下の点が明らかとなった。1)「他人」マウスの細胞であっても造血幹/前駆細胞として複数種を混ぜて移植することで、強い放射線照射により死亡する運命のレシピエントマウスを救命できる事、2)それらのマウスにおいては混合細胞が早期に好中球、血小板となって血液中に現れる事、3)ひとつのユニットにTリンパ球(注6)を含ませると最終的にそのユニット由来の血液細胞が単独でレシピエントの造血を維持する事、である。
 これらの結果は、互いに遺伝背景の異なる複数のさい帯血であっても、造血幹/前駆細胞の形であわせて移植することで、混合物として好中球、血小板の回復に寄与しうる可能性を支持するものである(図2)。この知見を臨床に応用するべく、本共同研究チームは日本赤十字社関東甲信越さい帯血バンクの協力を得て、凍結さい帯血から造血幹/前駆細胞の混合ユニットを移植可能な形で作製する技術開発を試行した。凍結さい帯血からの細胞回収は従来、死細胞を多く生むことが避けられない困難な作業として認識されていたが、本共同研究チームはMiltenyi Biotech社のCliniMACS Prodigy(注7)を用いることでその問題を解決し、最大9ユニットの凍結さい帯血を同時処理する技術を確立した。この方法で得られた造血幹/前駆細胞は、免疫不全マウスへの移植によって早期造血への貢献が示され、臨床応用されるに十分な造血能力を有することが証明された。

(3)社会的意義・今後の予定等
 本研究成果を活用し新規移植法が確立されることで、現行のさい帯血移植が抱える問題を解決し、移植の適応拡大とより安全な移植医療の実現に貢献することが期待される。さらに、さい帯血バンクに保存されているユニットのうち、移植に足る細胞数を含まず従来使用されてこなかった多数のユニット(一定期間の後に移植不可となることからデッドストックとよばれる)についても、造血幹/前駆細胞の形で混合することで移植補助製剤としての有効活用が可能となり、医療経済効果も期待される。

5.発表雑誌:
 雑誌名:Journal of Experimental Medicine(8月8日オンライン版)
 論文タイトル:Multiple allogeneic progenitors in combination function as a unit to support early transient hematopoiesis in transplantation
 著者:Takashi Ishida(*),Satoshi Takahashi,Chen−Yi Lai,Masanori Nojima,Ryo Yamamoto,Emiko Takeuchi,Yasuo Takeuchi,Masaaki Higashihara,Hiromitsu Nakauchi,and Makoto Otsu(*)
 DOI番号:10.1084/jem.20151493
 アブストラクトURL:http://www.jem.org/cgi/doi/10.1084/jem.20151493

 ※用語解説・添付資料(図1・2)は添付の関連資料を参照



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