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東北大など、熱を流すだけで金属が磁石になる現象を発見

2016-07-30

熱を流すだけで金属が磁石になる現象を発見
〜電子の自転「スピン」を使った熱利用技術の発展に貢献〜


<ポイント>
 >磁石の性質は熱の流れとは無関係で、温度を上げても下げても、磁石ではない金属が磁石になることはないと考えられていた。
 >熱を流すだけで、磁石ではない金属が磁石に変わる現象を世界で初めて観測した。
 >新しい磁化測定法として、電子のスピンを使った熱利用技術や省エネ社会の発展に貢献する。

 JST戦略的創造研究推進事業において、東北大学 金属材料研究所のダジ・ホウ研究員、東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(WPI−AIMR)/金属材料研究所の齊藤 英治 教授らは、通常の状態では磁化(注1)(磁石の性質)を持たない金属が、熱を流すだけで磁石の性質を示す現象を発見しました。
 金をはじめとする磁石ではない金属は、温度を上げても下げても磁石になることはないと考えられていました。本研究グループは、イットリウムガーネット(YIG)(注2)という磁石の上に金の薄膜を張り付け、この試料の表と裏の間に温度勾配を作ることで、熱が流れている状態(熱非平衡状態)(注3)にしました。試料に対して垂直に磁場を加えながら、面に沿って金薄膜に電流を流し、電流と直角の方向に付けた電極に生じるホール電圧(注4)を測定しました。その結果、温度勾配に比例した大きさのホール電圧が金薄膜に生じることを発見し、この現象を「非平衡異常ホール効果」と命名しました。これは温度勾配によって金薄膜に磁化が生じている証拠であり、熱を流すだけで金属が磁石になることを世界で初めて観測したことになります。
 この現象は、単位体積あたり100万分の1電磁単位(注5)という極めて微弱な磁化を電気信号として観測できることから、熱非平衡状態での新しい磁化測定法として利用できます。また、熱と磁化との関係の理解が深まることで、熱を利用したスピントロニクス(注6)の研究が進み、日常生活で捨てられている熱を削減および利用する省エネ社会への貢献が期待されます。
 本研究は、東北大学 金属材料研究所/デルフト工科大学のゲリット・バウアー 教授らと共同で行ったものです。
 本研究成果は、2016年7月26日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されます。

 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)
  研究プロジェクト:「齊藤スピン量子整流プロジェクト」
  研究総括:齊藤 英治(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構/金属材料研究所 教授)
  研究期間:平成26年11月〜平成32年3月
 上記研究課題では、電子スピンが持つ整流性に注目し、これを基礎とした物質中のゆらぎの利用原理の構築と、スピンを用いた新たなエネルギー変換方法の開拓を目指します。

<研究の背景と経緯>
 磁性は、物質の持つ基本的な性質の1つであり、長い研究の歴史があります。磁性を持つ物質は磁性体と呼ばれ、特に磁化を持つ物質は磁石と呼ばれます。従来、この磁化の発現は、電子が持つ「スピン」と呼ばれるミクロな自転運動の軸が揃うことにより、マクロな磁気的性質(S極とN極)が生じるからだと理解されてきました(図1a)。回転運動の軸がひとたび揃うと、軸は反転しなくなり、磁性体に特異な現象を引き起こします。
 この特異な現象の例として、異常ホール効果が挙げられます。電流が流れている物質に対して、電流と垂直な方向に外部から磁場を加えると、電子が磁場による一方向の力を感じて曲げられます。その行き着く先に電子がたまることで、電流の流れと磁場の向きの両方に垂直な方向に電圧(起電力)が生じる現象が、ホール効果です。これに対して異常ホール効果では、磁石中の磁化に垂直な方向に電流を流したときに、磁化が外部から加える磁場と同じ働きをすることで、電流の流れと磁化の向きの両方に垂直な方向に起電力が生じます。そのため、磁化の発現を確かめる有用な手法の1つとなっています。
 一方、近年、熱非平衡状態における電子スピンの役割が大きな注目を集めています。齊藤教授らが発見したスピンゼーベック効果(注7)では、磁石ではない金属の薄膜を積んだ磁性体中に温度勾配を作ると、磁性体中をスピンの流れ(スピン流(注8))が伝わって隣り合う金属へ流れ込み、逆スピンホール効果(注9)によって電圧に変換されます(図1b)。この一連の現象は、理論的には、熱非平衡状態で生じる磁化(非平衡磁化)が鍵となって起こると考えられます。しかし、非平衡磁化の存在はこれまで実験で確認されたことがなく、そのための有用な手法もありませんでした。

<研究の内容>
 まず、絶縁性の磁石であるYIG薄膜上に、磁石ではない金属の代表例として、金(Au)薄膜を積んだ試料を用意しました。この試料は、YIG薄膜の側もしくは金薄膜の側を熱することで、温度が低い側から高い側に向かってそれぞれの膜中に温度の分布、すなわち温度勾配が生じます(図2a)。温度勾配が生じると、熱は温度の高い側から低い側に流れます。このように熱が流れている状態で、外部から磁場を加えてYIG薄膜中の磁化を垂直方向に向け、金薄膜に電流を流しました(図3a)。このとき、もし金薄膜中に磁化が生じていれば、異常ホール効果と同様の原理によって、電流と磁化の向きの両方に対して垂直な方向にホール電圧が発生すると予想しました(図2b)。
 実際に、温度勾配の大きさに比例したホール電圧が測定されました(図3b、c)。このホール電圧は、外部磁場に比例して大きさが変化することから、温度勾配によって金薄膜中に磁化が生じることを示しています。つまり、磁石ではない金属中に、温度勾配によって非平衡磁化が生じることを世界で初めて証明しました。
 また、測定したホール電圧から見積もった磁化の大きさは、単位体積当たり100万分の1電磁単位で、極めて微小な磁化を電気信号として検出できることが分かりました。今回観測したホール効果は、磁性体が持つ通常の磁化による異常ホール効果とは異なり、熱非平衡状態で生じた非平衡磁化によるものとして、「非平衡異常ホール効果」と命名しました。

<今後の展開>
 非平衡異常ホール効果は、単位体積あたり100万分の1電磁単位という微小な磁化を電気信号として検出できるので、さまざまな材料における熱非平衡状態での磁化特性を評価および解明する新しい磁化測定法として利用できます。さらに、このような磁化測定法の確立による温度勾配(熱流)と磁化との関係の解明は、熱流を使ったスピントロニクスの研究を加速させ、日常生活で捨てられている熱を削減および利用する省エネ社会の発展に貢献するものと考えられます。

 ※図1〜図3・用語解説は添付の関連資料を参照




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