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新潟大、新たな細胞内遺伝子制御システムを発見し構造基盤を解明

2016-06-28

新たな細胞内遺伝子制御システムの
発見と構造基盤の解明


 光合成細菌のArgonaute(RsAgo)と呼ばれるタンパク質がRNAの配列情報を使ってDNAに結合し、DNA機能を抑制することを初めて立証し、その仕組みを分子・原子分解能レベルで解明しました。遺伝子ノックアウト法、RNA干渉(RNAi)に続く新しい遺伝子解析技術として基礎生命科学や先端医療研究への活用・展開が期待されます。


【本研究成果のポイント】
 ・RNAをガイド分子として、相補的DNAの機能を抑制する新型遺伝子制御システムを発見
 ・標的DNAが結合したRsAgo・ガイドRNA複合体の立体構造を解明
 ・RsAgoタンパク質の核酸結合・認識メカニズムを解明
 ・新しい遺伝子解析技術として、基礎・先端医療研究への展開が期待される


I.研究の背景
 今日、遺伝子操作技術の進歩やゲノム情報の蓄積により、様々な生命現象を引き起こす遺伝子や疾患に対する原因遺伝子が明らかになりつつある。よって、細胞中の特定遺伝子を標的として人工的な発現制御を行う技術は、基礎生命科学の諸分野だけではなく、医・薬学分野にも普及し広く利用されている。特定遺伝子のはたらきを探る技術として、1987年に開発されたマウスを利用した遺伝子ノックアウト法では動物の発生初期の胚の段階で特定遺伝子を削除して、その効果を生まれてくる動物から解析する方法がある。また、1998年に発表されたRNA干渉(RNAi)法では、特定mRNAからのタンパク質発現をmRNAと結合性を有する2本鎖RNAを添加して抑制する方法である。Argonauteは、このRNA干渉で中心的役割を担うタンパク質として最初に発見された。両技術とも個々の遺伝子のはたらきを探る有効な手法であり、それぞれの技術にノーベル生理学・医学賞が与えられており、現代生命科学において遺伝子の解析技術がいかに重要視されているかがわかる。とくにRNA干渉法では、ガイドRNAの塩基配列依存的に標的mRNAを選別するメカニズムであり、特異性が非常に高いことから、細胞中の特定の遺伝子の発現を制御するために利用され、さらにこのシステムを利用した創薬開発も進められている(図1)。
 しかしながら上述の二つの技術には欠点もある。遺伝子ノックアウト法は遺伝子を確実に破壊する点は利点であるが、ノックアウト動物を得るまでに長期期間と高額の経費を要すること、さらに削除する遺伝子が極めて重要なはたらきを保持している場合、ノックアウト動物が早期に死に至り遺伝子機能の解析が困難な場合もある。一方、RNA干渉ではRNA:RNA間の特異性が高いこと、比較的短時間に安価に実験が行える利点があるが、標的がDNA遺伝子ではなくmRNAであるため、標的となるmRNAに対する2本鎖RNAの作用持続性に限界がある点である。したがってRNA干渉の中枢を担うArgonauteを用いて、mRNAの元となるDNAに直接作用する新技術の開発が待たれていた(図1)。

 ※図1は添付の関連資料を参照


II.研究の概要及び成果
 RNA干渉の中枢を担う真核型Argonauteは、約20塩基長の小分子RNAをガイド分子として、その塩基配列特異的にmRNAに結合し、標的mRNAの機能抑制を行う。一方、原核生物のArgonauteのはたらきに関しては、謎に包まれていた。
 本研究グループは、放射性同位体を用いた核酸の電気泳動法により、R.sphaeroides(光合成細菌)のArgonaute(RsAgo)が、ガイド分子をRNAとし、その標的をDNA分子とすることを明らかにした。この結果から、RsAgoがRNA干渉で機能する真核型Argonauteとは異なり、DNAに直接作用することが明らかになった。さらに、この新規生体分子システムの構造基盤を明らかにするために、RsAgo・ガイドRNA・標的DNAによって構成される複合体を結晶化し、本学のX線回折装置および高エネルギー加速器研究機構においてX線回折データを取得し、結晶構造解析によって立体構造を決定した(図2)。さらに、この構造情報をもとにした生化学的解析を行い、RsAgo・ガイドRNAシステムにおけるガイドRNAの結合メカニズムと、標的DNAの結合性安定化メカニズムを明らかにした。また、当システムは、核酸の副溝(らせん構造の狭い方の溝)の構造を認識することによって、標的核酸の種類(RNA/DNA)を識別していることを示した。以上の結果から、DNAを標的とする新規遺伝子制御システムの発見と機能解析に成功し、新しい遺伝子解析技術の基盤となる多くの知見を得ることができた。

 ※図2は添付の関連資料を参照


III.今後の展開
 本研究で明らかにした“RsAgo・ガイドRNA”システムは、塩基配列依存的に標的DNA遺伝子に作用する。今後、その作用システムの全貌を生化学的手法により解明する他、様々なガイドRNAを用いて標的遺伝子への広汎かつ特異的作用を確認し、このシステムを特定の遺伝子の発現抑制をもたらす解析系として確立する。RsAgo・ガイドRNAシステムは、標的に対する高い特異性の他、作用の持続性も期待できるので、RNA干渉の弱点を補う新規解析システムとして基礎生命科学や先端医療研究への導入と展開が期待される。


IV.研究成果の公表
 これらの研究成果は、”Nature Communications”誌(IMPACT FACTOR 11.47)に平成28年6月21日(火)18:00(日本時間)オンライン掲載されました。


■本件に関するお問い合わせ先
 新潟大学超域学術院研究プロジェクト
 「分子複合体形成の構造生物学的分析による新たな生命機能の探索」

 代表 内海利男(理学部教授)
     Tel:025−262−7792
     E−mail:uchiumi@bio.sc.niigata-u.ac.jp

     三好智博(超域学術院助教)
     Tel:025−262−7792
     E−mail:miyoshi@bio.sc.niigata-u.ac.jp

     伊東孝祐(理学部助教)
     Tel:025−262−7029
     E−mail:k-ito@bio.sc.niigata-u.ac.jp

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