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東北大、血液凝固による糖尿病性腎症の増悪機序を解明
糖尿病性腎症の新規治療標的同定
−血液凝固の関与−
【概要】
東北大学大学院薬学研究科の高橋信行准教授、佐藤博教授、大学院医学系研究科の伊藤貞嘉教授、大江佑治研究員らの研究グループは血液凝固による糖尿病性腎症の増悪機序を明らかにし、新しい治療標的を同定しました。
糖尿病性腎症(注1)患者の血液凝固が亢進していることは広く知られていますが、その病的意義については十分に解明されていませんでした。本研究は、血液凝固(注2)の中枢を担う第X因子とその標的受容体であるプロテアーゼ活性化受容体2(注3)の役割に着目し、その阻害が糖尿病性腎症の進行を抑制することをモデルマウスの解析により明らかにしました。本邦における糖尿病性腎症患者数は、年々増加しており、食事・運動療法や降圧剤をはじめとした既存の治療法では十分とは言えません。本研究の成果が、新規治療の開発につながると期待されます。
本成果は、2016年6月9日(日本時間10日)に米国心臓協会学会誌であるArteriosclerosis、Thrombosis、and Vascular Biology誌(電子版)に掲載されました。
本研究は文部科学省科学研究費補助金、厚生労働省科学研究費補助金、宮城県腎臓協会、日本腎臓財団の支援を受けて行われました。
【研究内容】
糖尿病性腎症に由来する慢性腎不全患者は増加の一途をたどっており、本邦での透析導入の最も多い原因疾患です。また、心血管合併症のリスクも高いことから予後不良であり、その進行や合併症を防ぐ新規治療の開発が急務の課題です。
血液凝固因子は「止血」という生理作用に加えて、プロテアーゼ活性化受容体の活性化を介して、様々な臓器傷害に関与することが知られています。我々はその中で、活性化凝固第X因子−プロテアーゼ活性化受容体2経路の役割に着目しました。まず、凝固第X因子阻害薬を糖尿病性腎症モデルマウスに投与したところ、尿中アルブミン排泄量(注4)や腎臓の組織傷害が改善していることが明らかとなりました。さらにプロテアーゼ活性化受容体2欠損糖尿病性腎症モデルマウスでも、同様の効果を確認しました。培養細胞を用いた検討により、腎症の改善が炎症応答の抑制を介している可能性が示唆されました(図1)。
【今後の期待】
すでに凝固第Xa因子阻害薬は心房細動などによる血栓・塞栓症の予防薬として使用されており、糖尿病性腎症への応用が期待されます。また選択的プロテアーゼ活性化受容体2阻害薬は凝固阻害薬と比較して出血リスクが軽減すると想定され、その創薬研究の発展が期待されます。
※図1は添付の関連資料を参照
【語句説明】
注1)糖尿病性腎症
糖尿病の三大合併症の一つ。蛋白尿や進行性の腎不全を呈する。
注2)血液凝固
血管が損傷し、出血が起こると活性化される一連の分子(凝固因子)による止血作用。代表的な凝固因子として第X因子やトロンビン、フィブリンなどが挙げられる。
注3)プロテアーゼ活性化受容体2
7回膜貫通型受容体で、プロテアーゼ活性化受容体1−4の4種類が同定されている。凝固因子をはじめとしたプロテアーゼによって活性化される。
注4)尿中アルブミン排泄量
糖尿病性腎症においては、蛋白尿に先行して尿中アルブミン量が増加するので、早期診断の指標となる。
【論文題目】
Coagulation factor Xa and PAR2 as novel therapeutic targets for diabeticnephropathy
Authors;Yuji Oe、Sakiko Hayashi、Tomofumi Fushima、Emiko Sato、Kiyomi Kisu、Hiroshi Sato、 Sadayoshi Ito、 and Nobuyuki Takahashi
「血液凝固第X因子−プロテアーゼ活性化受容体2経路は糖尿病性腎症の新規治療標的である」
著者名;大江佑治、林咲貴子、伏間智史、佐藤恵美子、金須清美、佐藤博、伊藤貞嘉、高橋信行
掲載雑誌 「Arteriosclerosis、Thrombosis、and Vascular Biology」