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東大、感染から体を守るためには骨を作る細胞が重要など研究成果を発表

2016-06-21

骨が免疫力を高める
〜感染から体を守るためには骨を作る細胞が重要〜


1.発表者:
 寺島 明日香(研究当時:東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学分野 研究員現所属:東京大学大学院医学系研究科 骨免疫学寄付講座 特任助教)
 岡本 一男(研究当時:東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学分野 助教
  現所属:東京大学大学院医学系研究科 骨免疫学寄付講座 特任准教授)
 高柳 広(東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学分野 教授)

2.発表のポイント:
 ◆炎症によって骨髄内の骨芽細胞(注1)が障害を受けることが、敗血症後に生じる免疫細胞数減少の要因であることが判明しました。
 ◆敗血症では炎症反応により骨芽細胞が障害を受けるため、サイトカイン(注2)の一つであるインターロイキン7(IL−7)(注3)の量が減少し、リンパ球(注4)の産生が減ることで、免疫力が低下した状態に陥ることが分かりました。
 ◆免疫力を高めるための、骨芽細胞を標的とした新しい治療法開発の可能性を提示しました。

3.発表概要:
 敗血症は細菌感染により引き起こされる全身に及ぶ炎症状態です。発症早期には体を守るために免疫細胞から炎症性サイトカインが大量に放出されますが、その時期を過ぎると新たな感染症にかかりやすくなります。その原因として、末梢血中の一部の免疫細胞が減少するため免疫力低下により感染しやすい状態が長期間続くことが考えられます。従って、発症早期の治療に加えて、発症後の免疫力低下のメカニズムを解明し、新たな治療法を開発することで、生存率の大幅な改善が期待できます。
 このたび、東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学分野の寺島 明日香研究員(当時)と、岡本 一男助教(当時)、高柳 広教授らの研究グループは、敗血症のモデルマウスを用いて、急性炎症反応によって免疫抑制状態が生じるメカニズムを検討しました。その結果、敗血症モデルマウスでは急激に骨量が減少しており、骨髄におけるリンパ球の初期分化が障害されていることを見出しました。骨を作る役割を持つ骨芽細胞は、免疫細胞分化に重要なサイトカインIL−7を産生し、T細胞やB細胞のもととなるリンパ球共通前駆細胞(注5)を維持することが分かりました。敗血症では、感染症の防御に重要なリンパ球を維持する骨芽細胞が減少するため、免疫力低下につながると考えられます。
 本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業「高柳オステオネットワークプロジェクト」(研究総括:高柳 広)などの一環で行なわれました。
 本研究成果は2016年6月14日(米国東部夏時間)に国際科学誌「Immunity」オンライン版で公開されます。

4.発表内容:
 敗血症は、細菌の感染が引き金となり、血液中に病原体が入り込むことで全身に急性炎症反応が生じる疾患です。臓器の機能不全、血圧低下、体温低下などの重篤な症状が現れます。世界では年間約2700万人が敗血症を発症し、その多くを発展途上国の乳幼児が占めています。
 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの、先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています。発症早期には、全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になりますが、炎症が治まった後には免疫力が低下します。その原因の一つに、T細胞やB細胞などを含むリンパ球と呼ばれる免疫細胞が少なくなることが考えられています。成人では、リンパ球、マクロファージ、好中球、赤血球、血小板など免疫細胞を含むすべての血球系細胞は造血幹細胞(注6)から分化します。造血幹細胞は骨髄で維持されており、生体の状況に応じて分化や自己複製を調整し、必要な細胞を供給しています。近年の研究から、造血幹細胞の維持には骨髄中の骨を構成する細胞(骨を作る骨芽細胞や骨を吸収する破骨細胞)や血管内皮細胞、神経細胞などが重要な役割を果たしていることが明らかとなっています。発症後期に起きる免疫力低下の原因を解明するため、リンパ球数の減少に着目し、リンパ球のもとになる細胞を維持している骨髄の解析を進めました。
 今回、盲腸結紮穿刺(注7)により敗血症を誘導したモデルマウスを用いて、免疫細胞を観察すると、リンパ球数の減少とともに、骨量が短期間で劇的に低下することが見出されました(図1)。発症時にはマウスの末梢血中のリンパ球数減少も観察されたので、免疫反応が弱まっている、すなわち免疫抑制の状態になっていると推察されました。骨髄を詳細に観察したところ、発症時の骨量減少は骨芽細胞数の激減によること、また骨髄ではリンパ球のもととなるリンパ球共通前駆細胞数が減少していることが明らかとなりました。
 次に発症時の骨髄中のサイトカインを測定したところ、リンパ球共通前駆細胞の維持に重要と考えられるIL−7が低下していることが分かりました。そこで、骨芽細胞から産生されるIL−7の役割を明らかにするため、骨芽細胞だけがIL−7を産生できない遺伝子改変マウスを解析しました。すると、この遺伝子改変マウスでは敗血症モデルマウスで観察されたようなリンパ球数減少が起きました。以上の結果から、定常状態では骨芽細胞がリンパ球細胞分化を維持していますが、敗血症のような全身性炎症を発症すると、炎症性サイトカインにより骨芽細胞が減少し、その結果リンパ球数も減少してしまうことが明らかとなりました。リンパ球数が定常状態より少ないと、十分な免疫反応が困難になると考えられます(図2)。実際に薬剤投与によって骨芽細胞を活性化させるとリンパ球数が回復しました。一方、骨芽細胞を除去したマウスでは敗血症予後が悪化することも見出しました(図3)。
 本研究により、マウスの敗血症発症後の免疫抑制の原因の一つは、全身性炎症による骨芽細胞の消失が引き起こすリンパ球共通前駆細胞数減少であることが明らかとなりました。従来の発症早期の治療法と併せて、骨芽細胞を標的として発症後期の免疫力低下のコントロールを目指す新しい治療法開発の可能性を提示しました。

5.発表雑誌:
 雑誌名:「Immunity」(2016年6月14日オンライン版)
 論文タイトル:Sepsis−induced osteoblast ablation causes immunodeficiency
 著者:Asuka Terashima,Kazuo Okamoto,Tomoki Nakashima,Shizuo Akira,Koichi Ikuta,and Hiroshi Takayanagi
 DOI番号:10.1016/j.immuni.2016.05.012

■用語解説:
 (注1)骨芽細胞:
  骨の表面に存在する、骨を作り出す細胞。

 (注2)サイトカイン
  細胞から放出されるたんぱく質のうち、細胞間の情報伝達に関わるものの総称。

 (注3)インターロイキン7(IL−7):
  リンパ球の生存、増殖に重要なサイトカイン

 (注4)リンパ球:
  白血球の一部で、T細胞(他の免疫細胞の機能活性化や、がん細胞などを攻撃する)、B細胞(抗体を作り出す)やNK細胞(ウイルス感染をした細胞やがん細胞を攻撃する)を含む。

 (注5)リンパ球共通前駆細胞
  T細胞やB細胞などのリンパ球に分化する能力を持つ前駆細胞

 (注6)造血幹細胞:
  血球系細胞(白血球、赤血球、血小板、肥満細胞、樹状細胞など)に分化可能な幹細胞のこと。成人では主に骨の中の骨髄に存在している。

 (注7)盲腸結紮穿刺:
  実験的に敗血症を引き起こすモデルマウスの一種。マウスの盲腸を糸で縛って結び、その先端に針で穴を開けて腹腔内に戻す。縛った盲腸から常在菌が腹膜へ漏れ出し、腹膜炎を発症する。その炎症が全身に及んで敗血症に至る。


■添付資料:

 ※図1〜3は添付の関連資料を参照



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