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東北大など、ZnOコーティングによる高性能ベアリングを開発

2016-06-14

ZnOコーティングによる高性能ベアリングの開発に成功
〜摩擦を約3分の2に低減し、災害時用小型ジェットエンジン発電機を実現〜


■概要
 1.国立研究開発法人 物質・材料研究機構、エネルギー・環境材料研究拠点の後藤 真宏 主席研究員、情報統合型物質・材料研究拠点の佐々木 道子NIMSポスドク研究員、構造材料研究拠点の土佐 正弘グループリーダー、ならびに、東北大学 多元物質科学研究所の栗原 和枝 教授、粕谷 素洋 助教らは、NIMSが独自に開発した 1)環境に優しい低摩擦材料である酸化亜鉛(ZnO)について、その低摩擦特性を保持したままベアリングボールにコーティングする技術を開発し、ベアリングの摩擦係数を約2/3に低減させることに成功しました。また、このベアリングを小型ジェットエンジンに搭載することにより燃料消費量を1%削減し、FOXコーポレーションと共同で、災害時用の小型ジェットエンジン発電機を開発しました。

 2.地球環境・エネルギー問題が深刻化するなか、エンジンなどの駆動機構で発生する摩擦を低減することは、省エネルギー化につながるため重要な技術です。一方、エンジンの中の駆動部は高温環境に曝されることから、耐熱性が要求されます。研究グループは、摩擦低減効果と耐熱性を併せ持つ酸化亜鉛(ZnO)に注目し、ZnOの低摩擦現象が発現する仕組みをナノレベルで解明し 2)、結晶配向性を制御することにより低摩擦のZnOコーティングを作製する基盤技術を構築してきました。

 3.今回、これら基礎技術の実用化を目指して、市販されているベアリングのさらなる低摩擦化に挑みました。籠状のサンプルホルダーにベアリングボールを入れて回転させることで、結晶配向性を制御しながら球状のベアリングボール上にZnOをコーティングする技術を開発し、市販の高性能ベアリングの摩擦係数を約2/3に低減することに成功しました。このベアリングを小型のジェットエンジンに組み込んで性能評価を行なった結果、燃料消費量が1%低減されました。そこで燃料の調達が困難な災害時用発電機の小型化に取り組み、ZnOコーティングしたベアリングを搭載した小型ジェットエンジン発電機の開発にも成功しました。重量は40kg程度と大人2人で運ぶことができる程度の重さながら、およそ家庭2軒分の消費電力にあたる8000Wの出力を取り出すことができ、今後、災害時の非常用電源として展開予定です。

 4.今回開発した低摩擦ZnOコーティングは、常温から高温まで、かつ、油中、真空中、大気中において幅広く使用できるため、ベアリングへの応用だけに留まらず、低摩擦化が必要なあらゆる駆動部への応用が期待できます。今後、自動車などの多くの駆動部にこの技術を適用することにより、さまざまな分野での省エネルギー化の実現が期待されます。

 5.本成果は、文部科学省大学発グリーンイノベーション創出事業「グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス」(GRENE)事業先進環境材料分野の「グリーントライボ・イノベーション・ネットワーク」プロジェクト(代表研究者:東北大学 栗原 和枝 教授)により得られました。本成果は、2016年8月5日、京都で開催されるPRICM−9国際学会にて発表される予定です。


■研究の背景
 地球環境・エネルギー問題が深刻化するなか、摩擦力の低減によって省エネルギーを実現する研究が進められています。例えば、自動車には百数十箇所の駆動部分があるとされており、それら全てを低摩擦化できれば省エネルギー効果が期待できます。また、発電機などの装置内部にも、多数の駆動部が存在し、それらの各所において摩擦によるエネルギーロスが発生します。これらも駆動部の低摩擦化で抑制することが可能であると考えられます。一方、摩擦力の低減だけでなく、環境に優しい材料の利用も環境問題には重要です。環境負荷の低いZnOなどの酸化物材料は、一般的に摩擦係数が大きく低摩擦材料としての利用は困難とされていましたが、研究グループはこれまでの研究で、結晶配向性を制御することで、この摩擦係数を油中、真空中共に大幅に低減できることを発見していました。しかし、この発見はあくまでも実験室レベルであり、実機への応用は未知数でした。


■研究成果の内容
 今回、研究グループは、摩擦の低減が特に重要となるベアリングに注目し、ZnOの低摩擦化に有効な結晶配向性を維持したまま、球状のベアリングボールにコーティングを行なう技術の開発を行いました。当初、板状の基板にコーティングする通常の方法を用いて、低摩擦特性が得られるコーティング条件で球状のベアリングボールへコーティングを行いましたが、良質なコーティングは得られませんでした(図1左)。そこで、籠状のサンプルホルダーにベアリングボールを入れて回転させ、サンプルとスパッタターゲット間の距離や籠の大きさ、回転速度などを調整することにより、良質なZnOコーティングボールを得ることに成功しました(図1右)。
 さらに小型ジェットエンジンに標準で搭載されている市販のベアリング(GMN社製のHY S6000、図2)を用いて、低摩擦性能の実証試験を行いました。その結果、コーティング無しのベアリングに対して、結晶配向性が最適化されたZnOコーティングのベアリングは、その摩擦係数が約2/3に低減していることが明らかとなりました(図3)。低摩擦性能が良好なベアリングボールの表層部を観察したところ、ZnOの柱状結晶が成長していることを確認しました(図4)。これらの結果は、結晶配向性を制御したZnOコーティングが、ベアリング性能の向上につながることを示しています。実際に小型ジェットエンジンに組み込んで性能試験を行なった結果、通常のベアリングを組み込んだ場合と比較して、その燃料消費量が約1%低下することが明らかとなりました。

 さらに、FOXコーポレーション社と共同で、ZnOコーティングを施したベアリング搭載を用いて災害用の小型ジェットエンジン発電機を開発しました(図5)。この発電機は、総重量が約40kgで、大人2名で運搬可能な重さですが、発電量は最大で8000Wもあり、通常の家庭2軒分の消費電力を賄うことが可能です。燃料には、災害時にも入手しやすい灯油(6%の潤滑油を添加)を使用しています。また、廃熱を利用して、温水作りや熱電変換素子による発電を行うなど、省エネルギー化を徹底しています。さらに、起動時にバッテリー電源が必要ですが、災害時にはバッテリーの充電が困難なケースも想定されるため、太陽電池でバッテリーを充電する機能も有しています。今後、FOXコーポレーション社により、災害用小型ジェットエンジン発電機として展開する予定です。


■波及効果と今後の展開
 今回、研究グループは、NIMSでナノレベルの現象として発見されたZnOの低摩擦効果を実社会に適用する目的で、ベアリングへ応用し、その性能の向上に成功すると共に、小型ジェットエンジンに組み込んで燃費向上を実現しました。さらに、産業界と連携して、高性能化した小型ジェットエンジンを用いた災害用の小型発電機の開発にも成功しました。このように、ナノレベルの材料開発を実社会で使われる実機の一つである小型ジェットエンジンに利用できることを証明しました。現在、排気ガスの流れを利用して風力発電を行い、電気エネルギーとして回収するといった、さらなる省エネルギー化に挑んでいます。また、このZnOコーティング技術は、小型ジェットエンジンに留まらず、様々な駆動部分に応用可能なため、多方面の産業界と連携を深め、様々な分野で低摩擦化を通じた省エネルギーを実現したいと考えています。


【引用文献】
 1)M.Goto,A.Kasahara,and M.Tosa:Tribol.Lett.43(2011) 155.
 2)M.Goto,et al.:Jpn.J.Appl.Phys.42(2003) 4834.


 ※図1〜5は添付の関連資料を参照



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