イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

東北大など、微細加工した絶縁体表面で電子の蓄積の観察に成功

2016-06-13

微細加工した絶縁体表面で電子の蓄積の観察に成功
―最先端電磁場計測法である電子線ホログラフィーで可視化―


 東北大学大学院生の築田直也(現:株式会社不二越)、多元物質科学研究所の進藤大輔教授(理化学研究所創発物性科学研究センターチームリーダー)と理化学研究所の新津甲大特別研究員らの研究グループは、各種の絶縁体にイオンビームによる微細加工を施して形態を制御し、電子線照射により帯電した絶縁体試料表面で、放出された2次電子(1)の蓄積を、電子線ホログラフィー(2)により可視化することに成功しました。
 本研究成果は、日本顕微鏡学会 第72回学術講演会,仙台,(2016.6.14−2016.6.16)で発表される予定です。


<研究成果の概要>
 2年前に、進藤教授らの研究グループは、ネズミの坐骨神経の微細線維周辺で、電子の蓄積とその集団運動の様子を電子線ホログラフィーで観察することに初めて成功しています。(東北大学プレスリリース 2014年5月13日【電子の蓄積とその集団的運動の可視化に世界に先駆けて成功】 http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20140513_01.pdf
 その後、同グループは、小脳や腎臓などの他の生体部位の表面でも、同様の電子の挙動に関する実験の再現性を確認する一方、生体以外の試料を用いて、生体と同様の観察ができないか検討を進めてきました。その結果、絶縁性の樹脂や誘電体などに微細加工を施すと、生体での観察と類似の電子の蓄積が生じ、電子線ホログラフィーを用いて電子の動きに伴う電場の乱れを検出することで、電子の蓄積状態を観察することが可能であることを見出しました。今回の研究成果は、一般の絶縁体に微細加工を施すことにより、電子の蓄積や集団運動を制御し観察することが可能であることを示しています。今後、私達の生活に密接に関わりながら、直接見ることのできなかった多様な電子の挙動の観察とその理解が進み、さらに先端デバイスの開発や複雑な量子現象の解明に繋がるものと期待されています。


<研究内容の説明>
1.研究の背景
 私達の身の回りの現象の多くは、電磁気的な相互作用、特に電子の多様な動きによってもたらされています。進藤教授らの研究グループは、これまで電磁場をナノメートル(1メートルの10億分の1)スケールで可視化できる電子線ホログラフィーを用いて、各種先端材料やデバイスの電磁場の観察を行うとともに、これらの特性発現に主要な役割を果たしている電子の挙動の観察に取り組んできました。2年前には、絶縁体で複雑な形態をもつ生体試料の帯電効果を利用することで、次第に電子が蓄積する様子や複雑な電場の中で電子が集団的に運動する様子を、電場の乱れを通して直接観察することに成功しています。こうした複雑で微細な絶縁性の生体試料の観察を踏まえ、今回は、一般の絶縁体にイオンビーム加工を施して形態を制御し、電子線照射により帯電した絶縁体試料表面近傍で、放出された2次電子の蓄積の様子や挙動が電子線ホログラフィーにより観察できないか検討を行いました。


2.研究成果
 図1は、絶縁体のエポキシ樹脂を微細加工した後、エポキシ表面の電子の蓄積を観察した例です。まず、ミクロトームを用いてエポキシ樹脂から切片を切り出し、集束イオンビームによる微細加工を施すことにより、生体の微細線維のY字形状を模した試料を作製しました。電子線ホログラフィーによる帯電状態と2次電子の蓄積の様子の観察には、加速電圧300kVの透過電子顕微鏡(HF−3300S、JEM−3000F)を使用しました。図1aの位相再生(3)像で青色部分は試料です。試料周囲の等高線は、帯電した試料周りの電位分布を示しています。赤と白の二階調化した振幅再生(4)像(図1b)では、電子の動きに伴い局所的に電場の乱れた赤色の領域(矢印)が観察され、この側面部分に電子の蓄積が生じていることを示しています。以前観察したY字型の神経の微細線維の場合には、Y字型の枝に囲まれた上部に電子が蓄積する傾向にありましたが、今回のものは以前とは異なった観察結果となっています。

 ※図1・2は添付の関連資料を参照

 シミュレーションにより得られた位相再生像(図2a)は、観察像(図1a)と良く対応していますが、このシミュレーションに用いた試料表面の電位が図2bに示されています。生体試料では、試料表面がほぼ同電位であったのに対し、今回の絶縁性樹脂試料では、最終段階での微細加工時に試料表面へ導電性物質が付着し、試料上部のY字型の枝部分の電位が低くなっていることがわかります。このため試料から放出された2次電子は、試料上部ではなく、電位のより高いY字型試料の側面部に局在し、蓄積する傾向にあることが理解できました。


3.今後の展望
 一般の絶縁体に微細加工技術を活用してその形態を制御することで、電子線ホログラフィーを用いて、試料から放出される2次電子の絶縁体表面での蓄積を観察することが可能となりました。また、試料表面に導電性物質を付着させることにより、表面電位を制御でき、これにより電子の蓄積領域を変化できることも明らかとなっています。今回の研究成果は、各種の物質やデバイスを用いて、これまで観察出来ないと考えられていた電子の蓄積や複雑な集団運動の直接観察への道を開いたものと言えるでしょう。今回開発した手法を用いて、今後ナノスケールでの電子の挙動が追跡され、先端デバイスの高機能化や複雑な量子現象の解明への広範な応用展開が期待されています。


<付記事項>
 本研究は、科学研究費・基盤研究(A)課題名「電場の可視化と2次電子検出による帯電現象の解明」(課題番号25249093)(代表者:進藤大輔、支援担当機関:(独)日本学術振興会)の助成を受けたものです。


<発表予定>
 本研究成果は、日本顕微鏡学会 第72回学術講演会,仙台,(2016.6.14−2016.6.16)で発表される予定です。


<言葉の説明>
 (1)2次電子
  高エネルギー電子線などを試料に入射させると、入射した電子のエネルギーの一部が試料に与えられ、試料から比較的エネルギーの低い電子(50エレクトロンボルト以下)が放出されます。この際放出される電子を2次電子と呼びます。

 (2)電子線ホログラフィー
  電子の波動性を利用し、物体を通過した波と真空中を通過した波を重ね合わせた干渉縞(ホログラムと呼ばれる)を撮影し、フーリエ変換を用いた演算処理により、物質内外の電磁場の分布をナノメートル(1メートルの10億分の1)スケールで画像化できる最先端の電子顕微鏡法。

 (3)位相再生
  電子線ホログラフィーで、電子波を干渉させて得られるホログラムからフーリエ変換を用いた演算処理を施すことにより、干渉縞に記録された電磁場の情報を抽出し画像化する操作を指します。

 (4)振幅再生
  電子線ホログラフィーにおいて、位相再生がホログラムから電磁場の情報を抽出し画像化する操作を指すのに対し、振幅再生は、電子の動きに伴い電場が乱れる場合のように、ホログラムの撮影のための露出時間内に電磁場が乱れた領域を抽出し画像化する操作を指します。



Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版