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九大、脊髄ミクログリアに発現するモルヒネ誘発性痛覚過敏の原因分子を同定

2016-06-06

脊髄ミクログリアに発現するモルヒネ誘発性痛覚過敏の原因分子を同定
モルヒネの副作用軽減へ期待〜


<概要>
 九州大学大学院歯学研究院の林 良憲助教、中西 博教授らの研究グループは、脊髄ミクログリア(※1)に特異発現するチャネル分子がモルヒネなどオピオイド鎮痛薬(※2)の長期間使用による痛覚過敏の原因分子であることを同定しました。
 モルヒネなどオピオイド鎮痛薬を長期間投与すると痛みの増強(痛覚過敏)が生じ、臨床的に大きな問題となっています。研究グループはマウスを用いた実験で、モルヒネの連日投与がμオピオイド受容体(※3)を介し、脊髄ミクログリアに特異発現するBKチャネル(※4)α/β3サブタイプを活性化することを発見しました。さらに、このBKチャネルの活性化はミクログリア細胞内で一連のイオン環境変化を引き起こし、最終的に神経伝達を促進する働きをもつ脳由来神経栄養因子(BDNF)(※5)を分泌させ、痛みの神経伝達を増強することを明らかにしました。
 今後、より安全で副作用の少ないモルヒネの使用が可能となるように、BKチャネルα/β3サブタイプに選択的な阻害剤の開発を進めていきます。
 本研究成果は、2016年5月31日(火)午前10時(英国時間)に英国科学誌『Nature Communications』にオンライン掲載されます。


■背景
 モルヒネに代表されるオピオイド鎮痛薬は強力な鎮痛薬として知られています。鎮痛目的で使用されますが、長期間の使用によって、逆に痛みを感じやすくなることがあります。より良い鎮痛効果を得るために薬剤の投与量を増やすと、嘔吐や便秘などの副作用あるいは重篤な場合では呼吸抑制が問題となります。安心してオピオイド鎮痛薬を使用するためにもこのような副作用を軽減させることが必要です。しかし、オピオイド鎮痛薬によって痛覚過敏が起こる原因はこれまで十分に分かっていませんでした。


■内容
 研究グループは、モルヒネを連日投与すると脊髄ミクログリアに発現するBKチャネルα/β3サブタイプが活性化することを発見しました。モルヒネはμオピオイド受容体を介してアラキドン酸(※6)合成を引き起こし、BKチャネルを活性化することが明らかになりました。
 BKチャネルが活性化すると、細胞内K+は細胞外へ排出され、引き続いて細胞外からCa2+が流入します。この細胞内Ca2+濃度の上昇が脳由来神経栄養因子(BDNF)を分泌させ、神経終末からのグルタミン酸放出を促進して痛みの神経伝達を増強することが分かりました(図1)。驚いたことに、脊髄ミクログリアにはBKチャネルα/β3サブタイプが特異的に発現していました。このα/β3サブタイプの発現を低下させると、モルヒネの連日投与によって生じる痛覚過敏は顕著に抑制されました。
 以上の研究結果より、モルヒネの連日投与により脊髄ミクログリアに特異的に発現するBKチャネルα/β3サブタイプを介して神経興奮の原因物質である脳由来神経栄養因子(BDNF)を分泌させ、痛覚過敏を引き起こしていることが明らかになりました。

 *図1は添付の関連資料を参照


■効果・今後の展開
 モルヒネの連日投与は、脊髄ミクログリアに特異的に発現するBKチャネルα/β3サブタイプを活性化することで痛覚過敏を引き起こしているメカニズムが明らかになりました。今後、より安全で副作用の少ないモルヒネの使用が可能となるように、α/β3サブタイプに選択的な阻害剤の開発を進めていきます。


<用語解説>
 (※1)脊髄ミクログリア
  脳脊髄に存在し免疫機能を担うグリア細胞の一種
 (※2)オピオイド鎮痛薬
  麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などの総称
 (※3)μオピオイド受容体
  オピオイド受容体の一種で鎮痛に関与
 (※4)BKチャネル
  細胞内のCa2+によって活性化されるK+チャネルの一種
 (※5)脳由来神経栄養因子(BDNF)
  神経栄養因子の一種でニューロン興奮作用がある
 (※6)アラキドン酸
  細胞膜をつくるリン脂質の重要な構成成分の一種


<論文名>
 “BK channels in microglia are required for morphine−induced hyperalgesia”Nature Communications DOI:10.1038/NCOMMS11697.


<本研究について>
 本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED−CREST):「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」研究開発領域(研究開発総括:宮坂昌之)における研究開発課題「脳内免疫担当細胞ミクログリアを主軸とする慢性難治性疼痛発症メカニズムの解明」(研究開発代表者:井上和秀)の一環で行われました。なお、本研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されたものです。



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