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日本製粉と農研機構、従来よりも柔らかく購入後も硬くなりにくい小麦のでんぷん特性を解明
従来よりも柔らかく購入後も硬くなりにくい
パン作りが可能に
<ポイント>
・通常の小麦から作られたパンよりも柔らかく、かつ、3日経っても硬くなりにくいパンを、シンプルな資材のみを使用して作れる小麦のでんぷんの特性を解明しました。
■概要
1.日本製粉株式会社(代表取締役社長:小寺春樹 本社:東京都渋谷区)と農研機構は、でんぷんを構成する成分「アミロース」(1)と「アミロペクチン」(1)の比率や構造が通常と異なる小麦の研究を共同で行いました。その結果、アミロースの割合が低くアミロペクチンの構造が単純なでんぷんを持つ小麦から通常のパンより柔らかく、かつ、時間がたっても硬くなりにくいパンができることを明らかにしました。
2.現在、このようなでんぷんを持ち、かつ、栽培しやすい小麦品種の育成を進めています。
<関連情報>
予算:運営費交付金(2010〜2015)、農林水産省委託プロジェクト「広域・大規模生産に対応する業務・加工用作物品種の開発(実需者等のニーズに応じた加工適性と広域適性を持つ小麦・大麦品種等の開発)」(2014〜2015)
論文:Takayuki Inokuma,Patricia Vrinten,Tomoya Shimbata,Ai Sunohara,Hiroyuki Ito,Mika Saito,Yoshinori Taniguchi and Toshiki Nakamura(2016)Using the hexaploid nature of wheat to create variability in starch characteristics.Journal of Agricultural and Food Chemistry,64(4),941−947.
■研究の背景と経緯
国産小麦の需要を喚起し、収益性の高い小麦作経営を確立するためには、付加価値が高い製品を開発できる小麦が不可欠と考えられます。このため、農研機構東北農業研究センターは、小麦に含まれるでんぷんがパンやうどん等の食感に影響を及ぼすことに注目し、でんぷんの組成等が通常とは異なる小麦の開発を進めてきました。
今回、でんぷんの成分である「アミロース」の割合が低く「アミロペクチン」の構造が単純なでんぷんを持つ小麦の製パン性を調査しました。その結果、この新しいタイプのでんぷんを持つ小麦から作られたパンは、硬くなることを防止するための資材を使用しないシンプルな配合でも、通常の小麦から作られたパンに比べて大変柔らかく、焼いた3日後でも硬くなりにくいことが分かりました(図2)。常温や低温で保存されるパンは、製造後日が経つと硬くなり品質が落ちます。そのため、美味しさを保つため、ソフトさが長持ちするパン製品の開発が望まれています。今回の成果は、その要望に対応できる小麦品種の育成につながるものです。
■研究の内容・意義
1.でんぷんはアミロースとアミロペクチンという二つの成分からできています(図1)。この新しい小麦のでんぷんは、アミロースの割合が低くなると同時に、アミロペクチンの外側の枝が短い構造になっています。
2.この新しいタイプのでんぷんを持つ小麦の食パンは、通常型の小麦のパンと比べて、焼いた翌日の硬さは半分以下で、3日経っても通常型の焼いた翌日の硬さ以下であることがわかりました(図2)。
3.この研究結果は、硬くなることを抑えるために加えられている資材を使用しないシンプルな配合でもパンが硬くなる問題を改善できることを示しており、国産小麦の需要拡大に寄与できる品種の育成等につながります。
■今後の予定・期待
今回明らかになった知見に基づき、柔らかく、かつ、硬くなりにくいパンが焼ける新しいタイプの小麦品種等の開発が可能です。現在、東北地方に適した栽培特性を持つ系統の品種登録を先行して進めています。また、北海道や西日本に適した新しいでん粉を持つ品種の育成を進めています。
■用語の解説
1)でんぷんとアミロース及びアミロペクチン
でんぷんは、アミロースとアミロペクチンと呼ばれる2種類の成分が混ざったものです。アミロースは糖の一種であるブドウ糖が直鎖状に結びついた成分、アミロペクチンはブドウ糖が樹状に結びついた成分(図1)で、両者の割合やアミロペクチンの「枝」の数や長さによってでんぷんの特性が変わることが知られています。
※図1・2は添付の関連資料を参照