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東北大、舌下免疫療法の仕組みを解明

2016-05-18

舌下免疫療法の仕組みを解明
−口腔(こうくう)樹状細胞の関与を発見、アレルギー治療への応用に期待−


【概要】
 日本学術振興会特別研究員(PD)の田中志典(たなか ゆきのり)博士と東北大学大学院歯学研究科口腔分子制御学分野の菅原俊二(すがわら しゅんじ)教授らのグループは、花粉症などアレルギー疾患の根本的な治療法として注目されている舌下免疫療法の仕組みを明らかにしました。
 舌下免疫療法は舌の下の粘膜からアレルギーの原因物質(抗原)を吸収させ症状の改善を図るアレルギー治療法ですが、その詳しい仕組みは分かっていませんでした。本研究では、口の中の粘膜に存在する抗原提示細胞の一種である樹状細胞が、舌の下に入れた抗原をリンパ節まで運んで、免疫を抑える働きをもつ制御性T細胞を誘導し、アレルギー症状を抑制することを明らかにしました。本研究は、舌下免疫療法の効果を増強するための重要な基礎研究であり、今後の応用が期待されます。
 本研究成果は平成28年5月11日に国際粘膜免疫学会学術誌Mucosal Immunology電子版に掲載されました。


【研究のポイント】
 ・口の中の粘膜に、制御性T細胞を効率的に誘導できる樹状細胞を発見した。
 ・この樹状細胞は舌下に入れた抗原をリンパ節まで運び、アレルギーを抑制する制御性T細胞を誘導した。
 ・この樹状細胞の機能を高めることにより、舌下免疫療法の効果を増強できるかもしれない。

 ※画像有(図1〜5)


【研究内容】
 口の中の表面(口腔粘膜)は常在菌や食べ物に常にさらされていますが、これらに対するアレルギーや炎症反応は通常起きません。舌下免疫療法(注1)はこの現象を利用して考案されたアレルギーの治療法であり、抗ヒスタミン薬などによる対症療法(注2)と異なり、体質を改善することによる根本的な治療法ですが、その詳しい仕組みは分かっていませんでした。
 私たちは、実験動物(マウス)の舌下に抗原を入れると、所属リンパ節である顎下リンパ節で制御性T細胞(注3)が誘導されることを発見しました。そこで、口腔粘膜の抗原提示細胞(注4)に着目し精査すると、口腔粘膜の抗原提示細胞は、マクロファージ、樹状細胞(注5)およびランゲルハンス細胞に分類され、この中で樹状細胞がレチノイン酸(注6)とTGF−β(注7)依存性に、制御性T細胞を誘導する能力をもつことを見出しました(図1、2)。さらに、舌下に入れた抗原の行方を追跡したところ、まず口腔粘膜のマクロファージが抗原を取り込み、次いで樹状細胞が抗原を顎下リンパ節に運搬し、そこで抗原提示を行い、制御性T細胞を誘導することが分かりました。
 これまで、舌下免疫療法は花粉症などのアレルギー性鼻炎や喘息に有効であることが示されていました。しかし、舌下免疫療法により制御性T細胞が誘導されるのであれば、他のアレルギー疾患の抑制にも有効である可能性があります。この点について検討したところ、舌下免疫療法が遅延型アレルギー(注8)の抑制にも有効であることが分かりました(図3)。さらに、舌下免疫療法を施したマウスの顎下リンパ節から制御性T細胞を取り出し、舌下免疫療法を行っていない別のマウスに移入したところ、そのマウスでも遅延型アレルギーの発症が抑制されることが分かりました(図4)。これらの実験により、舌下免疫療法によって顎下リンパ節に誘導された制御性T細胞が実際にアレルギーを抑制する機能をもつことが証明されました。
 本研究によって明らかになった舌下免疫療法の仕組みを図5にまとめます。本研究は、舌下免疫療法を有効かつ強力にするための重要な基礎研究であり、制御性T細胞を誘導する樹状細胞の機能を高めるなど、今後の応用が期待されます。なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金の助成を受けて行われました。


【用語説明】
 注1.舌下免疫療法:舌の下の粘膜からアレルギー原因物質(例えば、スギ花粉症の場合、スギ花粉抗原)を吸収させて、体をアレルギー原因物質に慣れさせることにより症状の改善を図る、根本的なアレルギー治療法。

 注2.対症療法:疾患の原因に対する根本的な治療ではなく、表に現れた症状を軽減するために行われる治療法。例として、発熱に対する解熱剤の服用。

 注3.制御性T細胞:免疫を抑える働きをもつT細胞。

 注4.抗原提示細胞:抗原をT細胞に提示し、T細胞を活性化させる細胞。主なものとして樹状細胞とマクロファージが挙げられる。皮膚や口腔粘膜の上皮内にいるランゲルハンス細胞も抗原提示細胞の一種である。抗原提示を受けて活性化されたT細胞が炎症性になるか制御性になるかは抗原提示細胞の性質や周囲の環境による。

 注5.樹状細胞:抗原提示細胞の中でもT細胞を活性化する力が特に強い細胞。

 注6.レチノイン酸:ビタミンAの代謝産物。様々な生理活性をもち、制御性T細胞の誘導を促進する作用もある。

 注7.TGF−β:トランスフォーミング増殖因子−β。主に免疫抑制的に作用するサイトカインで、制御性T細胞を強力に誘導する。

 注8.遅延型アレルギー:アレルギー原因物質に曝露されてから半日〜数日後に症状が出るアレルギー。ツベルクリン反応、接触性皮膚炎、金属アレルギーなど。


【論文題目】
 Oral CD103-CD11b+ classical dendritic cells present sublingual antigen and induce Foxp3+ regulatory T cells in draining lymph nodes
 「口腔CD103-CD11b+古典的樹状細胞は所属リンパ節で舌下抗原を提示しFoxp3+制御性T細胞を誘導する」

 著者名:Y Tanaka, H Nagashima, K Bando, L Lu, A Ozaki, Y Morita, S Fukumoto, N Ishii, and S Sugawara
 掲載雑誌:Mucosal Immunology


 *図1〜5は添付の関連資料を参照





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