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NTTと東京理科大、アト秒時間で振動する半導体の電子運動観測に初めて成功

2016-04-16

アト秒時間で振動する半導体の電子運動観測に初めて成功
〜ペタヘルツ高周波現象を利用した半導体の新機能実現に向けて〜


 日本電信電話株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦博夫、以下 NTT)と東京理科大学(東京都新宿区、学長:藤嶋昭)は、窒化ガリウム半導体において、アト秒(10-18秒:as)周期で振動する電子の動きを観測することに初めて成功しました。その振動現象は、世界最短級の時間幅(パルス幅)を持つ単一アト秒パルス光源を用いた時間分解計測により捉えることができます。アト秒パルスとは、100京分の1秒の極短時間で煌めく閃光を指します。本研究にて観測された電子振動の周期は860asに達し、周波数は1.16ペタヘルツ(1015Hz:PHz)に相当します。これは、過去に固体物質中で観測された振動現象としては最高の周波数を有します。半導体電子系が有する超高周波応答は、将来の時間領域における信号処理技術の高速化に応用できる可能性が有り、また半導体の新たな光機能性を実現する上で重要な知見になると考えられます。
 本成果は2016年4月11日(英国時間)に英国科学誌「ネイチャー・フィジックス」にて公開されるとともに、同誌の“News&View”欄でも解説される予定です。
 本研究の一部は、JSPS科研費「25706027」の助成を受けて行われました。


1.研究の背景
 現代の高度情報化社会において半導体が担う役割は極めて大きく、コンピュータから光通信まであらゆる情報処理デバイスにおける基幹材料として広く活用されています。半導体デバイスの動作原理は、電界によって引き起こされる半導体電子系の高速の物理現象を基に構築されています。半導体に光を照射した場合、本来、電子の応答はとても速く、その運動はアト秒の時間領域にまで達します。しかしながら、現在、利用されている半導体電子系の操作時間はピコ秒(10-12秒)程度であり、より高速な電子の動きを制御することは、半導体の新たな機能性を引き出す可能性があります。
 この電子の高速運動を「止まって見える」ように観測できるかは、いかに速いシャッタースピード(=時間分解能)を実現できるかにかかっています。物質中に存在する電子の「動き」は、「一瞬だけ輝く」レーザー光(光パルス)をカメラのストロボのように使ってコマ撮りをします。この時、光パルスの時間幅(パルス幅)が短ければ短いほど、高速な現象を捉えることができます。NTT物性科学基礎研究所(以下、NTT物性研)では、世界最短級のパルス幅を持つ単一アト秒パルス光源(※1)を開発し、高速な電子物性を解明する研究を進めています。


2.研究の成果
 本研究では、単一アト秒パルスを用いて窒化ガリウム半導体(※2)内部の光誘起に伴う電子の振動現象(双極子振動(※3))を計測することに成功しました。時間分解計測により観測された振動周期は860asに達し、周波数は1.16PHzに相当します。これは、過去に固体物質において観測された振動現象の中で、最も高い周波数です。

■行った実験の説明

 <1>近赤外領域のフェムト秒パルス(10-15秒:fs)を励起光源として、窒化ガリウム半導体中の電子を価電子帯から伝導帯へと遷移させます(図1)。この遷移に伴い生じる「分極※4」と呼ばれる現象は、電子の振動(双極子振動)を引き起こします。単一アト秒パルスを時間掃引することにより、双極子振動をコマ撮りの様に観測します。本実験では過渡吸収分光法※5(図2)を用いて、双極子振動により変化するアト秒パルスの吸光度(吸収率)を測定します(図3)。計測された振動周期は860asに達し、相当する周波数は1.16PHzに到達します(図4)。

 <2>単一アト秒パルス発生には、Double Optical Gate(DOG)法を用います[H.Mashiko et al.,PRL 100,103906(2008)](図5)。DOG法は、2波長(近赤外と紫外)の基本波を利用した二色合成ゲート法と、楕円偏光ゲート法を融合した手法です。本手法の特徴は、単一アト秒パルスを様々な波長帯域において選択的に発生させることが可能であり、物性調査に適した技術です。本実験では、アルゴンガスを相互作用媒質として発生した真空紫外領域(中心光子エネルギー:20eV)単一アト秒パルスを、過渡吸収分光法に用います。アト秒ストリーク法※6により計測されたパルス幅は660asです(図6)。


3.技術のポイント

(1)単一アト秒パルスを用いた過渡吸収分光法(NTT物性研・東京理科大学
 電子の遷移するエネルギーが大きいほど、双極子の振動周期は短くなります。窒化ガリウム半導体が持つバンドギャップ(価電子帯と伝導帯間のエネルギーギャップ)は大きいため、誘起される分極はアト秒時間の振動にまで達します。単一アト秒パルスをプローブ光(検査光)として用いる過渡吸収分光法は、高速な電子運動に起因して生じる吸収の変化を計測する手法です。

(2)DOG法による波長可変型単一アト秒パルス発生(NTT物性研)
 光パルスは構成する光の波長が短ければ短いほど、パルスの時間幅を短くできる特性があります。しかしながら、本実験では窒化ガリウム半導体の価電子帯と伝導帯間で生じる双極子振動を最適に捉えるため、アト秒パルスの光子エネルギーを低く(波長を短く)抑える必要があります。ここでは、最適な実験条件を満たすため、DOG法を用いて双極子の振動周期(860as)よりもパルス幅を短く、また光子エネルギーを低くした真空紫外領域(中心光子エネルギー:20eV、波長:60nm)の単一アト秒パルス(660as)を用いました。


4.今後の展開
 半導体電子系の超高周波応答の電子振動は、将来のデバイス動作の基礎原理に繋がる可能性があり、さらなる解析を行う予定です。また、本研究において計測した「分極」に伴う電子振動は、反射・吸収・屈折・回折・光電流・光放射といった多種の物理現象を引き起こします。これらは半導体の機能として重要であり、新たな応用に向けた研究開発を続けていく予定です。


■論文掲載情報
 H.Mashiko,K.Oguri,T.Yamaguchi,A.Suda and H.Gotoh,“Petahertz optical drive with wide−bandgap semiconductor”Nature Physics(2016)


 ※用語解説・図1〜図6は添付の関連資料を参照




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