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信州大など、ナノ構造制御カーボンの水分離膜をドライプロセスで合成に成功

2016-04-14

高度な脱塩機能を発現するナノ構造制御カーボンの水分離膜をドライプロセスで合成することに成功
〜窒素ドープ(添加)によって分離機能が向上〜


<ポイント>
 ○新規な膜形成手法(ドライプロセス)によって、従来のDiamond−Like Carbon(DLC)膜より柔らかい炭素ベースの水分離膜を新たに開発し、最大96%という高い脱塩性能を達成。添加する窒素の量を調整することにより、脱塩性、透水性、耐塩素性を最適化できることを見出しました。
 ○コンピューターのシミュレーションでもその有効性を確認しており、資源開発など厳しい条件下での水処理膜の実用化が期待できます。
 ○本研究成果は、英科学誌Nature系の専門誌「NPG Asia Materials(*)」に掲載されます(2016年4月1日付で電子版が公開されました)。


 ダイヤモンド構造と炭素構造がハイブリッド化したアモルファス(非晶質)のナノカーボン膜(Diamond−Like Carbon:DLC)は現在、ハードディスク表面や工具類、ペットボトルなどのコーティング材として広範な用途で用いられております。
 今回、信州大学COI拠点の研究グループでは、従来のDLC膜をベースに、ナノ構造を巧みにかつ最適に制御することで、高度な水処理に使用できるナノカーボン製の水分離膜を開発しました。
 具体的には、スパッタ法(注1)により、ターゲットの高純度カーボンにプラズマ化したアルゴン、窒素、メタンを衝突させることでカーボンなどの分子を弾き出し、多孔性高分子膜(ポリサルフォン/PSU)の基材上に付着・堆積させることで、厚さ20−30nmのナノカーボン膜を形成します。添加する窒素量の原子レベルでの制御により、脱塩性、透水性、耐塩素性を最適化でき、さらに窒素ドープ量を増やすことで最大96%という高いNaCl除去率を示すことを見出しました。

 本成果は、石油や非在来型資源開発など厳しい条件下での水処理膜の応用展開が期待されます。
 今回の開発したナノカーボン水分離膜は、多孔性高分子膜(PSU)の基材上に成膜されています(図1)。
 すなわち、多孔性高分子膜の基材上に、犠牲層(ポリビニルピロリドン/PVP)をコーティングし、その上からスパッタ法にてナノカーボン分離膜を成膜し、その後コーティング層を溶かすプロセスにより調製しています。この方法で、多孔質高分子基材上にナノカーボン分離膜が均一に成膜できることは、SEM(走査型電子顕微鏡)およびAFM(原子間力顕微鏡)の画像で確認しました(図2)。得られたナノカーボン分離膜は、従来のDLC膜よりも柔らかく、透水性および脱塩特性を評価した結果、0.2%のNaCl水溶液から最大で96%という高いNaCl除去率を示すことが確認されました ※1)(図3a)。また、殊に添加する窒素ドープ量を制御することにより、脱塩性、透水性、耐塩素性などの特性が最適となる条件を明らかにしました ※2)(図3b)。
さらに、本拠点で導入したスーパーコンピューターを用いたシミュレーションで、アモルファスカーボン(a−C)の窒素ドープ量の違いによるナノ構造モデルを示しました ※3)(図4)。本結果より、a−C中の窒素ドープ量を増やすこと事により、膜中の空隙が減少しており、これが脱塩性、透水性向上に関係していることが確認されました。
 なお、本論文に関する特許は申請済みです。

 ※1)海水淡水化に使われる標準的な逆浸透(RO)膜の脱塩・透水性能よりは劣るが、従来のDLC膜よりも高く、RO膜として実用化できる可能性を示すものと評価できる。

 ※2)NaClO(次亜塩素酸ナトリウム)で洗浄する前後の脱塩性を縦軸、N(窒素)ドープの量を横軸取ると、Nドープが16%(スバッタ法を実施する際のガスの体積比)でピーク値をとり、これ以上、窒素をドープしても脱塩性能が落ちてしまう。

 ※3)シミュレーションにより、窒素ドープ量を増やすと、各所にクラスタを作ることで膜内部の空隙が減ると同時に、窒素クラスタの極性化も影響し、透水性、脱塩性が向上することが裏付けられた。


<発表の背景>
 この研究成果は、科学技術振興機構(JST)が推進するセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラム(**)の「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」の中核拠点として、「活気ある持続可能な社会を構築する」という将来ビジョンに向け、信州大学などが取り組む革新的な造水・水循環システムの構築を目指す研究の一環で得られた成果です。
 プロジェクトチームが、世界的な水不足を解消するために注目したのが、海水、随伴水、かん水(注2)という3つの水源で、これらはすべて塩分を含んでいます。脱塩のためにキーテクノロジーとして取り組んでいるのが、従来のポリアミドに替わるナノカーボンを使った逆浸透(RO)膜の研究開発です。
 遠藤 守信 特別特任教授を中心とする研究グループは、ナノカーボンを使ったRO膜の開発に対し、(1)プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition,化学堆積)法、スパッタ法などの真空中での成膜手法を使って、カーボン結合とダイヤモンド結合を混合した構造を持つDLC(Diamond−Like Carbon)膜、(2)構造を制御した各種のポリマーフィルムの炭化過程でできる緻密性の高いナノカーボン膜、(3)ナノカーボンの物理的・科学的な性質を制御し、テーラーメードで炭素体を調合して作るナノテク利用カーボン膜―という3つのアプローチにより、これまで開発を試みてきました。
 2015年9月7日付けでプレス発表した『カーボンナノチューブ・ポリアミドのナノ複合膜による高性能、多機能性逆浸透(RO)膜の開発に成功〜革新的な造水システムにより地球規模の持続可能性に貢献〜』は(3)の1つであり、今回のプレス発表は(1)にあたります。

 今回の方法で開発されたカーボン膜は、高い脱塩特性と透水性、ロバスト性を併せ持っており、資源開発など厳しい条件下の水処理膜の実用化に寄与できることが期待されます。今後、さらに膜の性能を向上させて次世代の革新的な水分離膜に仕立て、脱塩モジュールの完成(モジュール化)、プラントにおける全体最適(システム化)を経て、「地球上の誰もが十分な水を手に入れられる社会」を実現すべく、産学官の連携により世界各地への社会実装を推進していきます。


*NPG Asia Materials誌
 タイトル:“Nanostructured carbon−based membranes:Nitrogen doping effects on reverse osmosis performance”
 著者名:Josue Ortiz−Medina,Hiroaki Kitano,Aaron Morelos−Gomez,Zhipeng Wang,Takumi Araki,Cheon−Soo Kang,Takuya Hayashi,Kenji Takeuchi,Takeyuki Kawaguchi,Akihiko Tanioka,Rodolfo Cruz−Silva,Mauricio Terrones and Morinobu Endo
 doi:10.1038/am.2016.27

**センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム
 科学技術振興機構(JST)による公募型研究開発プログラム。現在潜在している将来社会のニーズから導き出されるあるべき社会の姿、暮らしの在り方を見据えたビジョンに基づき、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを創出するため、産学連携による研究開発に取り組んでいます。
 信州大学は、ビジョン3・活気あふれる持続可能な社会の構築(ビジョナリーリーダー、住川 雅晴・日立製作所 顧問)の中の「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」の中核機関です。
 ・プロジェクトリーダー(PL)上田 新次郎(日立製作所 技術最高顧問)
 ・サブプロジェクトリーダー(SPL)辺見 昌弘(東レ 理事)
 ・研究リーダー(RL)遠藤 守信(信州大学 特別特任教授)
  ≪中核機関≫信州大学
  ≪中心企業≫日立製作所、東レ、昭和電工
  ≪参画機関≫物質・材料研究機構(NIMS)、理化学研究所、高度情報科学技術研究機構、北川工業、トクラス、長野県
  ≪COI−Sサテライト≫海洋研究開発機構ソニーコンピュータサイエンス研究所、東京大学、中央大学、宇宙航空研究開発機構


<参考図>

 ◇図1〜図4は添付の関連資料を参照


<用語解説>
注1)スパッタ法
 真空中で、不活性ガス(主にアルゴン)をイオン化し、電位差を利用して、ターゲット(プレート状の成膜材料)の表面に高速で衝突させ、成膜材料の粒子(原子・分子)を激しく弾き出し、基材・ 基板の表面に勢いよく付着・堆積させて薄膜を形成する方法。真空蒸着法が困難な高融点金属(カーボンなど)や合金でも成膜が可能となる方法として知られる。

注2)かん水
 湖沼や地下にある塩分を含んだ水のこと。




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