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東大、褐色脂肪細胞の機能制御機構を解明

2016-04-12

褐色脂肪細胞の機能制御機構を解明
−新たなシグナル伝達経路による褐色脂肪細胞成熟化の制御−


1.発表者:
 一條秀憲(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 教授)
 服部一輝(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 助教


2.発表のポイント:
 ◆褐色脂肪細胞はエネルギーを消費する能力を持つが、その分化過程におけるシグナル伝達因子の挙動に関してはほとんど明らかになっていなかった。
 ◆PKA−ASK1−p38というシグナル伝達機構が活性化することが、褐色脂肪細胞の熱産生機能に重要であることを見出した。
 ◆本研究により明らかにしたシグナル経路を人為的に操作することによって、褐色脂肪細胞の機能を制御できる可能性があり、新規治療薬開発のひとつの戦略として期待される。

3.発表概要:
 生体のエネルギーバランスを維持するためのひとつの要素として褐色脂肪細胞に最近注目が集まっている。長年、成人においては活性のある褐色脂肪細胞は存在しないと考えられてきたが、近年その存在が証明され、代謝性疾患などのひとつのターゲットになっている。
 この度、東京大学大学院薬学系研究科の一條秀憲教授と服部一輝助教らの研究グループは、褐色脂肪細胞に発現するASK1というタンパク質がUcp1などの体熱産生に関わる遺伝子の発現を制御することで、熱産生やエネルギー消費に寄与していることを明らかにした。さらに、褐色脂肪細胞が分化する過程でPKA−ASK1−p38というシグナル伝達経路(注1)が活性化することが褐色脂肪細胞の機能に重要であるということも示した。
 本研究成果により褐色脂肪細胞における新たなシグナル伝達機構の存在が示され、褐色脂肪細胞機能制御メカニズムの一端が明らかとなった。この新たなメカニズムを元に、褐色脂肪細胞をターゲットとする治療戦略の進展が期待される。
 本研究成果は、2016年4月5日に、英国の科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版に公開されました。なお、本研究は、科学研究費補助金などの助成を受けて行われました。


4.発表内容:
<研究の背景>
 ヒトの体内に存在する脂肪細胞は大きく分けて二種類あり、その一つは白色脂肪細胞である。これは、中性脂肪という形でエネルギーを貯蔵する細胞であり、“脂肪”と聞いてまずイメージするものである。もう一方は褐色脂肪細胞であり、Ucp1という分子が特異的に発現していることで、熱産生を伴いながらエネルギーを消費することができる細胞である。近年、ヒトにおいても活性のある褐色脂肪細胞の存在が証明されたため、褐色脂肪細胞を活性化することやその細胞数を増加させることによって、肥満などの疾患に対抗しようという戦略が考えられている。このような背景の元、褐色脂肪細胞内で引き起こされているシグナル伝達機構を解明することは非常に重要であるが、その詳細に関しては不明な点が多く残されていた。


<研究の詳細>
 本研究グループは、ASK1というタンパク質が脂肪組織において多く発現していることに注目し、脂肪細胞の機能に対するASK1の寄与を調べた。その結果、ASK1を欠損したマウスの褐色脂肪組織においては、Ucp1をはじめとする体熱産生に関与する遺伝子の発現が低下していることを見出した。またASK1欠損マウスは、褐色脂肪細胞活性化刺激時の応答性が悪く、エネルギー消費が抑制されていた。すなわち、褐色脂肪細胞におけるエネルギー消費にASK1が重要な働きをしているということである。

 それではどのようにしてASK1は褐色脂肪細胞の機能を制御しているのであろうか。褐色脂肪細胞は未分化な細胞が各種刺激を受けることによって作られる。その中でもβアドレナリン受容体経路がUcp1の発現に重要であることが既に知られていた。前述の通り、Ucp1は褐色脂肪細胞で熱を作り出す分子の実体である。そのため、βアドレナリン受容体経路におけるASK1の機能を詳細に調べたところ、βアドレナリン受容体に刺激が負荷されるとASK1が活性化することが明らかとなった。さらに、ASK1の上流ではPKAというリン酸化酵素が、下流ではp38 MAPKというリン酸化酵素が活性化されることでUcp1の発現を導いているということを見出した。すなわち、未分化な細胞から褐色脂肪細胞へと分化する過程において、PKA−ASK1−p38経路が活性化することでUcp1の発現を誘導し、褐色脂肪細胞の機能を完全なものにするということである(図1)。ASK1を欠損した細胞においては、この経路が破綻し、Ucp1をはじめとするいくつかの遺伝子発現レベルが低下していた。その結果、ASK1欠損褐色脂肪細胞では熱産生能が低下したと考えられる。

 前述のとおり、脂肪細胞は大きく分けて二種類あるが、最近、第三の脂肪細胞としてベージュ脂肪細胞に注目が集まっている。なぜなら、ヒトにおけるUcp1を発現している脂肪細胞は、いわゆる“褐色脂肪細胞”と“ベージュ脂肪細胞”が混在しているという報告がなされたためである。治療戦略という観点からいうと、このベージュ脂肪細胞に関する検討も非常に重要であるといえる。本研究グループはこの観点でのASK1の関与も調べ、その結果、褐色脂肪細胞と同様に、ベージュ脂肪細胞におけるUcp1発現に対してもPKA−ASK1−p38経路が寄与していることが示され、さらなるASK1の重要性が明らかとなった(図1)。


<社会的意義・今後の期待>
 本研究グループは、褐色/ベージュ脂肪細胞の機能に対する重要な因子としてASK1というタンパク質を見出し、このタンパク質が活性化することで正常な褐色/ベージュ脂肪細胞が作られ、熱産生やエネルギー消費に寄与することを明らかにした。肥満をはじめとする代謝性疾患の根幹にある要素のひとつとして“エネルギーのアンバランス”が挙げられる。褐色/ベージュ脂肪細胞の活性レベルおよびその細胞数を人為的に操作することでこれら疾患に対する治療となる可能性が示唆されており、本研究結果がそのためのひとつの重要な情報となることが期待される。


5.発表雑誌:
 雑誌名:Nature Communications
 論文タイトル:ASK1 signaling regulates brown and beige adipocyte function
 著者:Kazuki Hattori,Isao Naguro,Kohki Okabe,Takashi Funatsu,Shotaro Furutani,Kohsuke Takeda and Hidenori Ichijo(*)


■用語解説:
 (注1)シグナル伝達経路:特別な生理応答を引き起こすために、細胞内で特定のタンパク質が別のタンパク質に情報を受け渡す経路。様々な生理応答を誘導するために、非常に多くのシグナル伝達経路が存在する。


■添付資料:

 ※添付の関連資料を参照



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