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東大、超薄板ガラスとキャリアガラスの常温接合と剥離技術の開発に成功

2016-04-07

超薄板ガラスとキャリアガラスの常温接合と剥離技術の開発に成功


■発表のポイント
 ◆ガラス基板同士を常温接合し、高温の加熱処理後に常温で剥離する新しい技術を開発しました。
 ◆超薄型ガラスをキャリアガラス基板に接合し、液晶パネルの組み立て後、接合したガラスを基板から分離できるため、現在薄型液晶パネルの製造工程に採用されている高コスト高環境負荷のプロセス(フッ酸による化学研磨:スリミング工程)が必要なくなりました。
 ◆この技術により、50μm(マイクロメータ)の超薄型液晶ディスプレイが実現し、製造プロセスの環境負荷も大幅に改善されることが期待されます。


■発表概要:
 東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻 須賀唯知教授、竹内魁大学院生らの研究グループは、ランテクニカルサービス株式会社(代表取締役社長 松本好家)と共同で、接着剤を用いず超薄型ガラスとキャリアガラス基板を常温で接合(注1)し、これさらに高温加熱処理した後でも、常温でガラス基板から超薄型ガラスを剥離できる新しい技術を開発しました。
 ウエアラブルの時代を迎えて、すべてのディスプレイには薄型化が求められ、さらにフレキシブルなディスプレイに期待が寄せられています。現在のスマートフォンに使われている液晶のガラスの厚さは200μm(マイクロメータ)が主流ですが、すでに、100μmから50μmの超薄型ガラスが要求されています。そこで大きな問題になっているのは、その液晶の製造工程における超薄型ガラスの搬送方法です。現在の製造で使われているガラス基板のサイズは、第6世代と呼ばれる縦横1000x1500mmのものですが、この大きさで厚さ200μmのガラスは、薄いためにたわみやすく、ロボットで搬送するのは不可能です。そこで現在の製造工程では、まず、400〜500μmの厚めのガラス基板を使い、一旦その上に液晶表示素子を形成した後、このガラスをフッ酸に浸漬して厚さ200μmまで化学研磨(スリミング)することで薄型化を実現させています。しかし、この方法による薄型化は100μm厚が限界といわれており、また、そもそも毒性の高いフッ酸を使わざるを得ないというということから環境コスト面においても大きな負荷があります。
 本来であれば、薄板ガラスを搬送用のガラス基板に接合し、液晶製造工程後に基板から剥離するのが最も理想的な工程です。ところが、実際の液晶製造工程には最高で550℃で数十分加熱するアニール工程があり、従来のガラスの接合技術では、加熱処理によって接合強度が上昇するため、このような高温の製造工程後に搬送ガラス基板から薄型ガラスを剥離することはできませんでした。
 今回、本研究グループは、ガラスとガラスの常温接合およびその剥離技術の開発に成功しました。これにより液晶ディスプレイの製造工程が大きく変革し、超薄型液晶ディスプレイが実現できるとともに、フッ酸を使用したスリミングの工程の削減により、環境問題にも大きく貢献することが期待されます。


■発表内容:
[概要]
 東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻 須賀唯知教授、竹内魁大学院生らの研究グループは、ランテクニカルサービス株式会社(代表取締役社長 松本好家)と共同で、接着剤を用いず超薄型ガラス基板とキャリアガラス基板を常温で接合し、さらに高温加熱処理した後でも、常温で剥離できる新しい技術を開発しました。
 この技術は、1)ガラス表面の片面にイオンビームによってシリコンの薄膜を数ナノメータ形成する、2)このガラス表面を、いったん水を含む窒素雰囲気中に露出させる、3)その後、ガラスを真空中ないしはドライな窒素雰囲気中に戻し、その中で両者を押し付けることにより、常温接合させる、4)接合後の剥離は、接合面にき裂を入れることにより機械的に破断させる、というものです。
 この方法によって、500℃で90分の加熱処理を行っても強度が増加することなく、高温加熱処理後であっても機械的な剥離が可能です。この理由として、ガラス表面に形成したシリコン薄膜が窒素中の水分を反応して水酸基を形成し、これが接着剤の役割を果たすとともに、高温加熱処理によって、この水酸基が分解して水素が発生し、これが接合界面に微細なボイド(泡状の空隙)を多数形成するため、接合界面が弱くなって機械的な剥離が可能となるということがわかりました。


[背景]
 ウエアラブルの時代を迎えて、すべてのディスプレイには薄型化が求められ、さらにフレキシブルなディスプレイに期待が寄せられています。そのためには、ガラスを極限まで薄くした液晶ディスプレイが必要となっています。
 現在のスマートフォンに使われている液晶のガラスの厚さは200μmが主流ですが、すでに、100μmから50μmの超薄型ガラスが要求されています。そこで大きな問題になっているのは、その製造工程における超薄型ガラスの搬送方法です。現在の製造で使われているガラス基板のサイズは、第6世代と呼ばれる縦横1000x1500mmのものですが、この大きさでは厚さ200μmであってもたわみやすく、ロボットで搬送するのは不可能です。そこで現在の製造工程では、厚いガラス基板上に液晶デバイスを形成した後、このガラスをフッ酸に浸漬して化学研磨(スリミング)することで薄型化を実現させています。しかし、この方法による薄型化は100μmが限界といわれており、次の50μmの超薄型ガラスに対応することはできません。また、そもそも毒性の高いフッ酸を使わざるを得ないというということから環境コスト面においても大きな負荷があり、ディスプレイの薄型化は限界に至っています。


[従来の技術・問題点]
 前述のように、薄型液晶デバイスの製造工程で薄型ガラスの搬送が難しいため、現在、下記のような手法が採用されています。
 1)扱いやすい400〜500μm厚さのガラス基板をプロセスに投入する。
 2)350−550℃程度の高温プロセスによりガラス基板上に薄膜トランジスタ(TFT、注2)を含む液晶デバイスを作成する。
 3)封止工程を経たのち、このガラス基板をフッ酸に浸漬して化学研磨(スリミング)することにより厚さ200μmまで薄くする。
 しかしスリミングではガラスの薄型化は100μmが限界であり、またフッ酸の毒性から環境コスト面でも問題の大きい工程です。
 コストや実現性を考えると、薄板ガラスを搬送ガラス基板に貼り付け、TFT製造工程、カラーフィルタ製造工程、封止工程を経た後、剥離するというプロセスが理想的です。しかし現実には、搬送ガラス基板に薄板ガラスを直接貼り付け、さらに高温のTFT製造工程を経た後、搬送ガラス基板から剥離できるような技術は存在しませんでした。
 従来のガラスの接合では、たとえば接着剤による接合では、300℃以上の加熱には耐えることができず、また接着剤を使わない直接接合では400℃以上の加熱加圧が必要で、またその後の加熱処理によってかえって強度が増してしまうため、接合後の剥離は困難です。そのため、高コスト高環境負荷のスリミング工程が現在でも使われています。


[社会的意義・将来の展望]
 今回開発したガラスの常温接合、および加熱後の常温剥離技術により、薄板ガラスを搬送ガラス基板に直接接合し、ディスプレイデバイス形成プロセス後に剥離することで、扱いが難しい薄板ガラスを製造プロセス中に直接使用することができるようになります。この技術により、フレキシブルディスプレイをはじめとした薄型ディスプレイの製造工程に画期的変化がもたらされるとともに、環境負荷低減にも大きな貢献があると期待されます。
 接合という技術は、溶接やはんだ付けといった古い技術と見られがちですが、常温接合など先端テクノロジに使われる例が増えてきました。今回開発した、つけはずしが自由にできる可逆的な接合が、これからの製造技術を大きく変革すると期待されます。


■用語解説:
 (注1)常温接合
  従来の接合技術は、溶接やはんだ付けのように温度を上げて、場合によっては接合部を溶かし、高温での反応により接合していた。上記のウエハ接合も従来の方法では加熱が必要であった。常温接合は、これに対して接触のみで固体材料を常温で接合するものである。標準的には、超高真空などの非常にクリーンな雰囲気で、材料表面についている酸化膜やよごれをアルゴンなどのイオン照射により除去し、非常に活性な表面を露出させて、接合する方法であるが、本技術ではこれにさらに、シリコン薄膜を成膜してから接合するという手法を組み合わせている。

 (注2)薄膜トランジスタ
  薄膜トランジスタ(TFT)は、ガラス基板やフィルム基板の上にアモルファスシリコンなどの半導体の薄膜を作り、そのなかに電界効果トランジスタを作り込んだものである。液晶ディスプレイ有機ELディスプレイでは、このトランジスタにより、画面を構成するドットごとの表示を制御している。このため、均一でムラのない表示、高速の応答速度、高いコントラストが可能で、大画面ディスプレイには必須の技術である。



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