イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

九大、癌細胞の浸潤や転移に関わる細胞運動の仕組みを解明

2016-03-19

癌細胞の浸潤や転移に関わる細胞運動の仕組みを解明


○概要
 九州大学大学院理学研究院の池ノ内順一准教授らの研究グループは、癌細胞の浸潤や転移に関わるブレブ(Bleb)と呼ばれる細胞膜の突起構造の形成に関わる分子メカニズムを明らかにすることに成功しました。
 悪性度の高い癌細胞は浸潤や転移を起こします。このような癌細胞の運動様式として、ブレブと呼ばれる細胞膜の突起構造の形成が重要であることが近年の研究で明らかになってきました。ブレブの形成メカニズムの解明は、癌細胞の浸潤や転移を抑制する新たな治療法の開発に繋がることが期待できます。
 本研究成果は、2016年3月14日(月)午後3時(米国東部時間)に、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences USA」Early Editionでオンライン公開されます。


■背景
 ヒトの悪性腫瘍の90%以上は上皮細胞という細胞同士が接着する細胞に由来します。上皮細胞が悪性腫瘍になると互いの細胞接着が壊れて、高い運動性を獲得し他の臓器へ転移します。癌細胞が高い運動性を示す原因として、癌細胞はブレブ(Bleb)と呼ばれる細胞膜の突出を使った移動方法を利用していることが近年の研究で明らかになりました。
 我々の体を構成している細胞を取り囲む細胞膜は、恒常的にアクチン細胞骨格(※1)と呼ばれる線維状のタンパク質によって裏打ちされていますが、ブレブを形成している癌細胞では、何らかの理由によりアクチン細胞骨格が細胞膜から離れて細胞膜が突出し、細胞外マトリックス(※2)と呼ばれる細胞外のタンパク質の網目の中をかいくぐるようにして動き回ります。このようなブレブの形成に関する分子機構については、これまであまり詳細なメカニズムの解明が行われていませんでした。


■内容
 研究グループは、ヒト大腸癌由来培養上皮細胞 DLD−1細胞(※3)を細胞外マトリックス上に播種したときに、ブレブが活発に形成されることを見出しました。この実験系を用いて、2008年にノーベル化学賞を受賞された下村脩博士によって発見された緑色蛍光タンパク質(GFP)を様々な遺伝子と融合し、ブレブに特異的に集積する遺伝子の探索とその機能解析を行いました。
 実験の結果、ブレブが拡張する時期には、Rnd3と呼ばれる低分子量 Gタンパク質(※4)が重要な働きをすること、逆にブレブが退縮する時期には、別の低分子量 Gタンパク質のRhoAが重要な働きをすることがわかりました。Rnd3は先行研究によって、p190RhoGAP(※5)と呼ばれるRhoAの働きを抑える分子を活性化することが知られています。逆にRhoAはROCKと呼ばれるタンパク質リン酸化酵素(※6)を活性化し、ROCKはRnd3をリン酸化することによってその機能を低下させることが知られています。これらの知見を纏めると、ブレブの拡張期にはRnd3−p190RhoGAP経路が優位となりRhoAの活性化を抑えているのに対し、ブレブの退縮期にはRhoA−ROCK経路が優位となりRnd3の活性化を抑えています。Rnd3とRhoAが交互に優位になることによって、持続的な細胞運動に必要なブレブの形成と退縮のサイクルが成り立っていることを初めて明らかにしました。さらにRhoAは、EzrinとEps8というタンパク質を活性化することにより、突出した細胞膜にアクチン細胞骨格を再び構築させることでブレブの退縮を促すことがわかりました。実際に、ブレブの形成退縮に関わる遺伝子をノックアウトしたDLD1細胞では細胞の移動能が顕著に低下することを見出しました。

 *参考画像は添付の関連資料を参照


■効果および今後の展開
 本研究の結果から、癌細胞は自分自身が置かれた環境(細胞外マトリックス)を感知し、Rnd3とRhoAによるブレブ形成機構のスイッチを入れて、早い運動モードに切り替えていることがわかりました。ブレブに関わる具体的な分子ネットワークが明らかになったことにより、将来的に本成果を基にした癌の浸潤や転移に対する新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。


■本研究について
 本研究は、文部科学省科学研究費補助金、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業「さきがけ」(細胞の構成的理解と制御)、日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業「AMED−PRIME」(画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明)、民間財団の研究助成等の支援を受けて、九州大学大学院システム情報科学研究院の内田誠一教授の研究グループと共同で行われたものです。


■用語解説
 (※1)アクチン細胞骨格:細胞膜を裏打ちしている繊維状のタンパク質で細胞の形を決めます。
 (※2)細胞外マトリックス:上皮細胞の下に存在する、コラーゲンなどのタンパク質のネットワークで、上皮細胞が癌化すると細胞外マトリックスのネットワークの隙間をぬって移動していきます。
 (※3)DLD−1細胞:ヒトの大腸癌から樹立された継代培養可能な上皮細胞の細胞株。
 (※4)低分子量 Gタンパク質:細胞の中で起こる様々な過程のスイッチとして働くタンパク質
 (※5)p190RhoGAP:RhoAと呼ばれる低分子量 Gタンパク質を不活性化するタンパク質
 (※6)タンパク質リン酸化酵素:標的タンパク質の特定のアミノ酸残基をリン酸化することで、標的タンパク質の構造や活性を変化させる酵素。



Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版