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理研と横浜市立大と東北大、軸性脊椎骨幹端異形成症の原因遺伝子を発見

2016-03-19

軸性脊椎骨幹端異形成症の原因遺伝子を発見
−網膜色素変性症、骨系統疾患の発症機構解明や新治療法の開発に道−


<要旨>
 理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームの池川志郎チームリーダー、王■(ワン・ゼン)研究員、飯田有俊上級研究員、横浜市立大学学術院医学群の松本直通教授、東北大学大学院医学系研究科の 西口康二准教授らの共同研究グループ(※)は、遺伝性の難病である軸性脊椎骨幹端異形成症の原因遺伝子「C21orf2」を発見しました。C21orf2遺伝子の機能喪失により、網膜視細胞や成長軟骨細胞の繊毛の機能不全が起こり、同疾患を発症するメカニズムを解明しました。

 ※■印の文字の正式表記は添付の関連資料を参照

 軸性脊椎骨幹端異形成症は、網膜色素変性症[1]の発症と骨格の形成異常を特徴とする常染色体劣性遺伝病[2]です。多くの患者は、網膜の視細胞が変性するため幼児期に視力を失います。また、肋骨の短縮による胸郭の狭小化・変形、脊椎の変形、四肢関節の異常など多様な骨格異常をきたす難病です。そのため、発症原因の解明、予防・治療法の確立が待ち望まれています。
 共同研究グループは世界各地の研究者・医師の協力により軸性脊椎骨幹端異形成症の患者とその両親のデータとDNAを計9家系分収集しました。そして、次世代シーケンサー[3]を用いたエクソーム解析[4]でDNAを調べた結果、6家系にC21orf2遺伝子の変異を5種類発見しました。発見した5種類の変異は、いずれも遺伝子機能の低下・喪失をきたす変異でした。C21orf2遺伝子は最近の研究で、繊毛の機能に関係することが明らかになっています。そこで、網膜でのC21orf2タンパク質の局在を調べたところ、視細胞の結合繊毛に存在することを発見しました。また、ヒト培養軟骨細胞のC21orf2遺伝子を欠損させた実験で、同遺伝子が軟骨の分化に重要な役割を果たすことも発見しました。今回の原因遺伝子の発見により、軸性脊椎骨幹端異形成症の遺伝子診断、保因者診断が可能になりました。また、C21orf2遺伝子の機能解析を通じて、網膜や骨格の形成メカニズム、および視細胞や軟骨の代謝について理解が進み、軸性脊椎骨幹端異形成症やそれに類する網膜の変性疾患、骨格異常症に対する有効な治療法の開発につながると期待できます。
 本研究は日本医療研究開発機構の難治性疾患実用化研究事業のプロジェクト、『遺伝性難治疾患の網羅的遺伝子解析拠点研究』の一環として行われました。成果は、米国のオンライン科学雑誌『PLOS ONE』(3月14日付け:日本時間3月15日)に掲載されます。


1.背景
 骨・関節には非常に多くの遺伝性疾患が存在します。現在、はっきりと病像が確認され、国際分類に含まれているものだけでも、436疾患が知られています。また、すべての遺伝性疾患のうち3割近くに骨・関節の異常が見られると言われています。その多くが、有効な治療法がない希少難病です。
 池川志郎チームリーダーらは、これまでに20種以上の遺伝性疾患の原因遺伝子を発見しています注1)。2014年度からは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構の難治性疾患実用化研究事業のプロジェクト『遺伝性難治疾患の網羅的遺伝子解析拠点研究』(班長:横浜市立大学遺伝学松本直通教授)に参加し、ゲノム科学の基礎研究を医療現場へ見える形で還元することを目指して、遺伝性の骨関節の難病の大規模シーケンス解析に取り組んでいます。
 骨関節の遺伝性疾患は、各疾患により特徴的なパターンの病像を示し、そのパターンにより42のグループに分けられています。今回、研究対象とした「軸性脊椎骨幹端異形成症(axial spondylometaphyseal dysplaia)」は、主に脊椎と長管骨の骨幹端に異常をきたす疾患のグループである脊椎骨幹端異形成症のグループに属する疾患で、網膜色素変性症と骨格の形成異常を特徴とする常染色体劣性遺伝病です。肋骨の短縮による胸郭の狭小化・変形、脊椎の変形、骨盤の発達障害、四肢関節の異常など多様な骨格異常をきたす難病です(図1)。“軸性”の名は、病変が体の軸の部分(体幹部)に主にみられることに由来します。網膜視細胞の変性による視力低下(夜盲、失明)、胸郭変形による疼痛(とうつう)、呼吸障害、四肢関節、特に股関節の異常による疼痛、歩行障害等の症状が、患者を苦しめており、発症原因の解明、予防・治療法の確立が待ち望まれています。


 ※図1は添付の関連資料を参照


 池川チームリーダーらは、これまでに次世代シーケンサーによるエクソーム解析により短体幹症注2)、Beighton型脊椎骨端骨幹端異形成症注3)など、多くの骨関節の遺伝性疾患の原因遺伝子を世界に先駆けて発見しています。


 注1)骨関節疾患研究チームホームページ http://www.riken.jp/lab-www/OA-team/link.html
 注2)プレスリリース 2012年7月13日「難治性の骨疾患「短体幹症」の原因遺伝子を発見」
  http://www.riken.jp/pr/press/2012/20120713/
 注3)プレスリリース 2013年5月10日「骨・関節、皮膚を広範に犯す難病の原因遺伝子を発見」
 http://www.riken.jp/pr/press/2013/20130510_1/


2.研究手法と成果
 共同研究グループは、池川チームリーダーが創設した骨系統疾患のより良い医療、研究のためのボランティアのネットワーク「骨系統疾患コンソーシアム[5]」と、諸外国(サウジアラビア、韓国、フランス、ノルウェー、スエーデン、イギリス)の骨系統疾患の研究者・医師の協力により、9家系13例の軸性脊椎骨幹端異形成症の患者のデータとDNAを収集しました。家系内での病気の伝わり方を詳細に調べたところ、常染色体劣性遺伝の遺伝形式として矛盾がないことを確認しました。
 共同研究グループは、エクソーム解析を用いて、患者と両親のゲノムを広範囲に調べました。被検者の遺伝子とその遺伝子周辺のゲノムの塩基配列を次世代シーケンサーで決定し、公開されているビッグデータを利用して、病気と無関係で無害な遺伝子多型[6]を除外し、原因遺伝子変異の候補となる遺伝子の塩基の変化を絞り込みました。
 軸性脊椎骨幹端異形成症は常染色体劣性遺伝病のため、患者は2つ、両親は1つの原因遺伝子の変異を持っていることになります。共同研究グループは各家系につき、条件に見合う遺伝子の塩基変化を調べたところ、6家系の患者において、C21orf2遺伝子に変異をそれぞれ2つ持つことを発見しました。最近の研究でこの遺伝子は、常染色体の21番染色体上に存在し、繊毛の機能に関係し、網膜視細胞の代謝に重要な役割を果たすことが分かっています。
 今回、発見したC21orf2遺伝子の変異は5種類で、3種類がミスセンス変異(タンパク質を構成するアミノ酸の配列に変化を起こす変異)、2種類が遺伝子のスプライシング[7]に関係する塩基の変異でした。いずれの遺伝子変異も、各家系内で常染色体劣性の遺伝形式に矛盾がない伝達をしていることを確認しました。3種類のミスセンス変異について変異の機能評価プログラムを用いて評価したところ、すべての変異がC21orf2タンパク質の機能に障害をきたすと予測されました。また、2種類のスプライシング異常をきたす変異について、患者と両親から得たリンパ球を用いてメッセンジャーRNA(mRNA)の発現を調べたところ、正常よりはるかにアミノ酸配列の短いC21orf2タンパク質が生じるスプライシング異常を起こしていることを確認しました。これにより、いずれの遺伝子変異も、C21orf2タンパク質の機能障害を引き起こすと考えられました。ミスセンス変異「c.218G>C」は2つのヨーロッパ人家系に、スプライシング変異「c.643−23A>T」は2つのサウジアラビア人家系に共通して見つかりました。これらの人種には、多くの軸性脊椎骨幹端異形成症の保因者(遺伝病の原因遺伝子を持っているが発症していない人)が存在する可能性があります。C21orf2遺伝子が繊毛の機能に関係し、網膜視細胞の代謝に重要な役割を果たすことが明らかになっていることから、共同研究グループは、マウスの網膜視細胞(光受容体細胞)を用いてC21orf2タンパク質の局在を調べました。その結果、C21orf2タンパク質は2種類の視細胞、捍体細胞(かんたいさいぼう)[8]と錐体細胞(すいたいさいぼう)[8]の結合繊毛に存在することを発見しました。さらに共同研究グループは、ヒトの培養軟骨細胞を用いたsiRNAによる遺伝子ノックダウン実験で、成長軟骨の分化に対するC21orf2遺伝子の影響を調べました(図2)。2種類の短いRNA(siRNA−1,2)を用いてC21orf2遺伝子の発現を阻害したところ、II型コラーゲンやアグリカンなど、軟骨の分化マーカー遺伝子(軟骨の分化に伴って発現が上昇する遺伝子)の発現が低下しました。このことから、C21orf2遺伝子は、軟骨の分化に必要であることが分かりました。以上のデータから、軸性脊椎骨幹端異形成症は、C21orf2遺伝子の機能喪失変異により、網膜視細胞や成長軟骨細胞に繊毛の機能不全が起こり、その結果、発症すると考えられました。


 ※図2は添付の関連資料を参照


 共同研究グループは、エクソーム解析でC21orf2遺伝子の変異が見つからなかった3家系4例のC21orf2遺伝子の変異をサンガー法[9]で調べましたが変異は見つかりませんでした。これらの患者の表現型を確認したところ、臨床像、X線像にC21orf2遺伝子の変異が見つかった6家系との差はありませんでした。また、3家系の1つである韓国人家系で、両親と患者兄妹のC21orf2遺伝子領域のハプロタイプ(染色体上の各遺伝子座位にある対立遺伝子の組合せ)の解析を行ったところ、患者兄妹は、両親から異なったC21orf2遺伝子領域を受け継いでおり(図3)、C21orf2遺伝子は、彼らの疾患の原因遺伝子ではあり得ないことが分りました。これらのデータは軸性脊椎骨幹端異形成症にはC21orf2遺伝子以外の原因遺伝子が存在することを示しています。


 ※図3は添付の関連資料を参照


3.今後の期待
 C21orf2遺伝子が軸性脊椎骨幹端異形成症の原因遺伝子であると分かったことにより、遺伝子解析による同疾患の遺伝子診断、保因者診断が可能になりました。これにより、これまで不明瞭だった脊椎骨幹端異形成症グループの疾患の分類・整理が進み、臨床診断が容易になると期待できます。
 今後、共同研究グループは、C21orf2遺伝子の機能解析を通じて、軸性脊椎骨幹端異形成症の発症機構・病態の解明、および、骨格、網膜の形成機構、視細胞、軟骨細胞の代謝機構の解明を目指します。これらが解明されると軸性脊椎骨幹端異形成症やその類縁疾患の画期的な治療法の開発が可能になると考えられます。また、これらの研究から得られる知見は、C21orf2遺伝子の変異によって起こる網膜色素変性だけでなく、他の原因による網膜色素変性症にも適用できると期待できます。


4.論文情報
<タイトル>
 Axial Spondylometaphyseal Dysplasia Is Caused by C21orf2 Mutations.
<著者名>
 Zheng Wang,Aritoshi Iida,Noriko Miyake,Koji M.Nishiguchi,Kosuke Fujita,Toru Nakazawa,Abdulrahman Alswaid,Mohammed A.Albalwi,Ok−Hwa Kim,Tae−Joon Cho,Gye−Yeon Lim,Bertrand Isidor,Albert David,Cecilie F.Rustad,Else Merckoll,Jostein Westvik,Eva−Lena Stattin,Giedre Grigelioniene,Ikuyo Kou,Masahiro Nakajima,Hirohumi Ohashi,Sarah Smithson,Naomichi Matsumoto,Gen Nishimura,Shiro Ikegawa.
<雑誌>
 PLOS ONE


 *補足説明・共同研究グループは添付の関連資料を参照




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