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東京商工リサーチ、太洋社に連鎖した書店の倒産・休廃業調査結果を発表

2016-03-18

[特別企画]
太洋社に連鎖した書店の倒産・休廃業調査
〜1社が倒産、16店舗が休廃業〜


 3月15日、出版取次中堅の(株)太洋社(TSR企業コード:290893208、法人番号:9010001049176、千代田区)が東京地裁へ破産申請し同日、破産開始決定を受けた。2月5日に、自主廃業の準備に入った旨の文章を取引先へ送付していたが、売掛債権が予想以上に劣化していたため、債務全額を弁済する目途がつかなかった。
 2月5日時点で300法人・800店舗の書店と取引していた。東京商工リサーチは、2月5日以降の太洋社の一連の動きに連鎖する形で倒産や休廃業した書店を調査した。3月14日までに、倒産は1社、休廃業した書店は14社(個人企業含む)、店舗数は16店舗に及ぶことがわかった。
 3月15日、太洋社は「事業の廃止を決定した書店を除くと(帳合変更がなされた数は)96.5%に及ぶ」と公表したが、「事業の廃止を決定」した書店数は明らかにしていない。
 2月5日以降に倒産した企業は、(株)芳林堂書店(TSR企業コード:291041370、法人番号:9013301011177、豊島区、社名は当時)の1社。
 出版取次では、2015年6月に栗田出版販売(株)(TSR企業コード:290047668、法人番号:9010001145652、千代田区、社名は当時)が東京地裁に民事再生法の適用を申請している。
 2015年の出版社の倒産は38件で、2年連続して前年を上回った。読者ニーズの多様化が進む中で“本離れ”が指摘されて久しいが、中堅以下の出版社(製造)、取次店(流通)、書店(販売)は苦境に陥っている。出版物の販売価格の拘束を容認する再販売価格維持制度(再販制度)や委託販売制度の理念ともいえる「文字・活字文化の振興」、「多様な言説の確保」は、時代の変化と共に正念場を迎えている。

 ※表資料は添付の関連資料「表資料1」を参照


■苦境の出版社、取次、書店
 出版科学研究所によると2015年の出版物の販売額は1兆5,220億円で、11年連続で前年を割り込んだ。出版取次7社(日本出版販売、トーハン、大阪屋、栗田出版販売、日教販、中央社、太洋社)の2010年度(2010年4月期〜2011年3月期)の単体売上高の合計は1兆3,962億円だったが、2014年度(栗田出版販売は2013年度分で算出)の売上高合計は1兆1,885億円に落ち込んでいる。
 また、出版社の倒産は2013年の33件を底に増加傾向をたどり、2015年は38件に達した。
 出版物の販売が落ち込み、「出版不況」が顕著になる中、取次業者が生き残りをかけて他社の帳合書店を奪い合う資金力の競争を繰り広げた。結果、資金力に乏しい太洋社は有力書店の「草刈り場」となり急激な業績不振を招いたといえる。
 今回の調査で、店舗を閉鎖、または休業した書店の多くが地方に所在していることがわかった。太洋社から他の取次業者へ帳合変更の手続きを進めた書店からは、「太洋社ほど柔軟な決済条件の提示はなかった」、「保証金の差し入れを要求された」、「帳合変更で書籍1冊あたりの利益率の低下が避けられない」などの声が聞こえてくる。この中のいくつかの書店は、2月5日以降の太洋社の一連の動きに連鎖して店舗運営を断念している。
 太洋社は、3月1日に通知した「ご報告とお願い」の中で、同日までに帳合変更の目途がたっていない書店について「(当該書店の)財務状況、その他の事情」があると記している。このため、3月15日現在も帳合変更が出来ていない書店を中心に、店舗の閉鎖や休業、倒産がさらに拡大することも危惧される。
 このままでは地域に書店が一店舗もない「書店空白エリア」が拡大する恐れがある。取次業者のパイの奪い合いのしわ寄せは、地域書店と地方の読者が受けることになる。

 ※グラフ資料は添付の関連資料を参照


 2月26日に破産開始決定を受けた芳林堂書店の「破産手続申立書」には、太洋社への買掛金が12億1,111万円計上されていた。太洋社への買掛金の支払いが長期間にわたり延滞していたため、芳林堂書店の売上高規模(2015年8月期:35億8,710万円)からすると、買掛金額は大きく膨らんでいる。太洋社によると、このうち「在庫売却による回収額を除く約8億円が焦げ付くことが確定した」という。
 このため、太洋社の自主廃業に向けた動きから破産の流れは、芳林堂書店の支払い遅延が大きな要因になったとの見方もできる。ただし、出版取次は通常の卸売業と異なり、書店に対する流通やファイナンス機能も兼ね合わせている。ファイナンスでは与信管理が極めて重要な要素だ。取引の戦略上、ある程度の債務履行の延滞を認めざるを得ないケースもあるが、自社の資金繰りに致命傷を与えるまで引き延ばすことは経営判断のミスとの指摘もある。
 太洋社の2月5日以降の一連の動きに伴い、地域の書店が姿を消している。取次としての太洋社の存在は決して小さくない。ただ、太洋社のみの問題だけでなく、委託販売制度を中心とする出版業界独特の仕組みにも留意することが必要だろう。
 今回の調査で書店の閉鎖、休業を公表した企業14社のうち、複数店舗を運営していたのは(株)友朋堂書店(TSR企業コード:282087044、法人番号:3050001016203、つくば市)の1社だけで、残りの13社は1店舗のみの零細事業者だった。14社のうち個人企業は9社(構成比64.2%)で半数以上を占める。また、2015年(1月‐12月)に倒産した出版社38社のうち、従業員が5名未満の零細企業は26社(同68.4%)だった。
 出版業界の再販制度と委託販売制度は、小・零細規模の出版社や書店の経営維持に大きく貢献してきた。文字・活字文化の振興、多様な言説の確保への役割を両制度はしっかり果たしてきたともいえる。だが、出版物の販売が落ち込む時代にあり、小・零細規模の出版社や取次業者、書店の生き残り競争は激しさを増している。そうした中で、多様な言説の担い手であった小・零細の出版社は淘汰され、販売の担い手である地方の書店がなくなっている。インターネットの活用に慣れない人々のニーズにどう対応していくのか、選択肢は多くない。
 両制度が掲げた崇高な理念が、市場原理によって覆い隠されようとしている。長期的には、その状況がさらに進行する可能性を孕んでいる。

 ※表資料は添付の関連資料「表資料2」を参照



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