イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

名古屋大学、アセノスフェアの密度構造を推定する手法を開発

2011-04-20

アセノスフェアの密度構造を推定する手法を世界で初めて開発

プレートテクトニクスの成因への解明に期待−


【ポイント】 
 プレート直下にあるアセノスフェアの弾性率と密度構造を推定する手法を世界で初めて開発しました。GPSのデータを用いて潮汐による地球の変形を精密に推定しました。そのデータを用いて解析することにより、従来220kmの深さにあると思われていた地震波速度構造の不連続の大きさが小さいこと、またアセノスフェアにおいて約50kg/m3の低密度層が確認されました。
 
【背景】 
 地震波を用いた地下の構造探査では地震波伝搬の不均質を検出することにより、地下構造を推定します。しかし、これらの方法では地球の基本的な物性値である弾性率や密度を直接推定することは原理的に不可能です。一方、より周期の長い地球の振動現象を解析することにより、密度構造も含めたグローバルな構造の推定は従来から可能でしたが、空間的な解像度が乏しいため、数100km以下の空間スケールの弾性率と密度構造は多くの謎に包まれていました。

【研究の内容】
 近年のGPS解析技術の改良により、固体地球潮汐や海洋潮汐に起因する周期的な変形を高精度に観測する事ができるようになりました。通常これらの周期的な地殻の変形は典型的な地下構造を仮定して補正し、潮汐に起因する周期的な変形を含まない高精度な地殻変動を計測します。 本研究では地殻変動解析には使わない情報を効率的かつ高精度に解析することで、海洋潮汐に起因する周期的な変形を各分潮毎に取り出すことに成功しました(図1)。この解析から得られた海洋潮汐に起因する各分潮の地殻の変形のパターンを解析し、測地学、地震学、海洋物理学などの知見に基づきモデル化を行い、アセノスフェアの弾性率および密度構造を推定しました。その結果、深さ約150km付近に約50kg/m3の低密度層があることを発見しました(図2)。この低密度層は地震波速度などの解析から示唆はされていましたが、定量的な推定ができたのは世界で初めてです。この低密度異常を温度異常に換算すると約300℃となり、プレートテクトニクスの成因に重要な役割を果たすアセノスフェアの基本的な性質の解明に期待ができます。なお、これらの解析にはカリフォルニア工科大学のスーパーコンピュータを用いて約2万CPU時間を費やして計算されました。 

【成果の意義】
 本研究で開発された手法は3次元の物性値トモグラフィーができる可能性を秘めており、今後の地下構造探査手法の可能性を広げます。また今後、より多くの(周期の長い)分潮を解析することにより、基本的な物性値の構造だけでなく、減衰構造も明らかになるかもしれません。現段階では空間解像度の問題で難しいですが、将来的には火山や地震発生層の成因を明らかにする可能性を秘めています。 


【用語説明】

 アセノスフェア:地球のマントルを力学的性質で分類した比較的柔らかい層。深度は100km〜300km程度で地域により異なる。
弾性率:変形のしにくさを表す物性値。弾性率の中には、せん断力に対する変形の度合いを示す剛性率や静水圧に対する変形の度合いを示す体積弾性率などがある。

 GPS:Global Positioning Systemの略で車のカーナビなどで馴染みは深い。測地用のGPSは民生用よりも高精度であり、条件によってはミリメートル単位で場所の特定が可能。

 潮汐:主に他の天体の引力によって引き起こされる、天体(地球)の変形現象。これらの変形には固体地球潮汐と海洋潮汐の2種類がある。

 固体地球潮汐:潮汐現象のうち、固体(地球)部分の変形現象で、一日に50cm程度の振幅を持つ周期的な変形が観測される。

 海洋潮汐:潮汐現象のうち、海洋部分の水の流動によって引き起こされる現象で、一般に潮の干潮に相当する。

 分潮:潮汐の分類でそれぞれは決まった周期を持っており、正弦波として表現できる。


【論文名】 

Science,
 Probing asthenospheric density, temperature and elastic moduli below the Western United States, Takeo Ito and Mark Simons

 本研究の成果の一部は、日本学術振興会 海外特別研究員として2年間(平成21年2月〜23年2月)米国のカリフォルニア工科大学への留学した際に行った研究であり、科学研究費補助金 若手研究B (平成20年度〜22年度)の補助を受けて行われたものです。
 

※ 関連資料参照
 図1:GPSによって観測された海洋潮汐応答(M2分潮:約12時間25分周期)の空間変動分布。色は変動量を表し、形が変動の動きを表している。
 図2: PBO−1D/Mが本研究で求めた地下構造モデル。A:剛性率B:密度構造C:減衰構造 
 

Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版