イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

北海道大学、随意行動を準備する脳内神経活動をザリガニで発見

2011-04-20

随意行動を準備する脳内神経活動をザリガニで発見



<研究成果のポイント>
 ・随意行動開始を数秒前に予告する活動(準備活動)を示す脳内神経細胞をアメリカザリガニで発見。
 ・単一の準備活動細胞からシナプス活動の記録に世界ではじめて成功。
 ・準備活動が細胞自身ではなく神経ネットワークから自発的に生じる可能性を示した。


<研究成果の概要>
 動物はどのように自分の「意志」に従って行動を開始するのでしょうか? そもそもヒト以外の動物に「意志」はあるのでしょうか?
 神経科学の研究でこの問題解決の鍵と考えられている現象が,それぞれの動物の脳内にある特定部位で起こる準備活動と呼ばれる神経活動です。準備活動は動物が自発的に行動を開始するのに先行して起こります。本研究はアメリカザリガニで準備活動を示す神経細胞を発見し,その活動が逐次的なシナプス興奮と抑制によって生成されることを示しました。さらに,この細胞の活動が,脳内の他の細胞の活動を介して自分自身に回帰する可能性を示しました。このような神経回路は外部からの感覚刺激なしに準備活動を自発的に生じさせるのに適していると考えられます。
 本研究は動物の脳内で起こる準備活動の生成機構をはじめて明らかにしたことが評価され,米国の科学雑誌「Science」のオンライン版(http://www.sciencemag.org/content/332/6027/365.abstract)で2011年4月15日(金)午前3時(米国東部時間4月14日(木)午後2時)に公表されました。


<論文発表の概要>
 研究論文名:Sequential Synaptic Excitation and Inhibition Shapes Readiness Discharge for Voluntary Behavior(逐次的なシナプス興奮・抑制によって随意行動の準備活動が形成される)
 著者:氏名(所属)Katsushi Kagaya [加賀谷 勝史], Masakazu Takahata[高畑 雅一](北海道大学大学院理学研究院)
 公表雑誌:Science
 公表日:日本時間(現地時間)2011年4月15日(金)午前3時(米国東部時間4月14日(木)午後2時)


<研究成果の概要>

(背景)
 随意行動開始に先行して脳内特定領域で準備活動が起きることが知られています。準備活動はヒトを含む脊椎動物で主に記録・解析されてきました。特にヒトでは「意志」と関連づけて長い間議論されてきました。しかし,単一細胞レベルでの準備活動の生成機構は不明でした。
 準備活動が「意志」と関連づけられるかという問題にはまだ答えられません。しかし,準備活動がどのような神経細胞および神経ネットワークで自発的に生成されるのか,という問題なら,適切な動物を用いて実験で明らかにすることができます。
 実は,準備活動はザリガニの随意(自発性)歩行でも記録されます。脊椎動物では困難な単一細胞の活動を,ザリガニでは行動遂行中でも比較的容易に記録・解析できます。

(研究手法)
 ガラス管微小電極という,神経活動をダイレクトに記録できる方法を用いて,歩行中のザリガニの脳内神経細胞から活動を記録しました。さらにこの電極にあらかじめ充填した蛍光色素で細胞を染色して,細胞の3次元的な形を詳細に調べました。

(研究成果)
 ザリガニが自発的に歩き始めるよりも1,2秒先行して活動が変化する神経細胞を発見しました(図参照)。さらに,この細胞は,歩き始めるより前は他の細胞から興奮性の入力を受けて活動が増加し,歩き始めると他の細胞から抑制性の入力を受けて活動が減少することが分かりました。

※図は、添付の関連資料を参照

 通常,神経細胞同士は,シナプスによって接続されるネットワークを形成します。今回の結果は,脳内の特定の細胞にシナプスを介して伝えられる信号によって,準備活動が生成されるということを示しています。つまり,この細胞自身が自発的に活動しているのではなく,この細胞を含む神経ネットワークが自発性の活動を生成しているのです。また,この準備活動細胞は歩行を実行する胸部以外に,脳内にも出力部位と考えられる突起を持っていました。この出力を複数のシナプスを介して受けて活動すると考えられる神経細胞も多数見つかりました。このことからも,ひとつひとつが自発的に活動を示すのではなく,神経ネットワークが秩序立って活動し,準備活動が生成されるという仮説が支持されます。

(今後への期待)
 本研究の成果は,「意志」の仕組みを解明したわけでも,ザリガニの準備活動がヒトと共通していることを示したわけでも,決してありません。しかし,ザリガニにもザリガニなりの「思いどおりに行動する」仕組みがあり,その解明の鍵と考えられる準備活動の生成機構を明らかにしました。
 本研究の成果が,動きが「思いどおりにならない」病気や障害の解明,自律的に行動するロボットづくりなどに生かされることが期待されます。さらに,この成果が『行動する動物が何を「考えている」か?』という,きっと皆が一度は不思議に思う謎を解明する手掛かりになることが期待されます。

Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版