イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

農業生物研、イネの防御物質生産の鍵となるタンパク質を発見

2016-03-14

イネの防御物質生産の鍵となるタンパク質を発見
−ストレスに強いイネの育成へ−


<ポイント>
 ・イネがストレスに対して生産するファイトアレキシン(1)の生産をほぼ一括して調節するタンパク質を発見しました。
 ・ストレスを受ける前から常にファイトアレキシンを生産する、ストレスに強いイネの育成が期待されます。


<概要>
 1.国立研究開発法人農業生物資源研究所(生物研)は、東京大学生物生産工学研究センター、東京理科大学理工学部帝京大学バイオサイエンス学科と共同で、イネが様々なストレスに対して生産する複数のファイトアレキシンという化合物の生産量の調節に、1つのタンパク質(DPF)が大きな役割を果たしていることを発見しました。

 2.イネは、病原菌、雑草などさまざまなストレスに対して、抗菌活性や雑草抑制効果をもつファイトアレキシンを何種類も生産します。それぞれのファイトアレキシンの合成経路は複雑で、各々のファイトアレキシンについて少なくとも4段階の化学反応が必要であり、それぞれの反応には異なる酵素が働いて生産されるため、植物体における生産量を人為的に調節することは難しいと考えられていました。

 3.DPFは、10種類以上あるジテルペン系ファイトアレキシンのうち7種類の合成を担う全ての既知の酵素の量を調節していました。また、DPFは少なくともこの7種類のファイトアレキシンの生産を一括して調節する司令塔として働くことが分かりました。

 4.DPFを作る遺伝子(DPF遺伝子)の働きを強くしたイネでは、ストレスに対して生産される7種類のファイトアレキシンの量が数百倍〜数千倍に増産されたことから、このイネはストレスに強いと予測され、今後、DPF遺伝子を活用したストレスに強いイネの育成が可能になると期待されます。


 予算:JSPS科研費25292032「病害応答における低酸素ストレス応答との拮抗制御の分子機構に関する研究」(平成25−26年度)
生研センター 新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業「植物ホルモン関連新規遺伝子のイネにおける機能解明と有用性の検討」(平成19−23年度)


<研究の背景>
 イネの収量は、日照、気温、降水量等の環境ストレスや病原菌、雑草など他の生物によるストレスなど、さまざまなストレスにより低下します。このうち、病原菌や雑草によるストレスは、抗菌剤や除草剤等の農薬の使用により軽減することができます。
 しかし、農薬の使用は生産コストの増加につながることから、農薬に頼らない、強いイネ品種が求められています。また、減農薬は、環境負荷を低減するためにも必要です。


<研究の経緯>
 ファイトアレキシンは、抗菌作用や雑草抑制効果を示す、イネが本来持っている低分子の化合物です。ファイトアレキシンは数段階の化学反応を経て生産され、各段階にそれぞれ異なる酵素が働くことから、ファイトアレキシンの生産量を高くするためには、各酵素を作る遺伝子の働きを一斉に強くする必要があると考えました。そこで、生物研がこれまで蓄積してきたイネのゲノム情報等を利用して、ファイトアレキシン生産に関わる酵素を作る遺伝子を調節する仕組みの解明に取り組みました。


<研究の内容・意義>
 1.イネには、ジテルペン系とよばれるファイトアレキシンが10種類以上あり、病原菌に対する抵抗性などに関わることが分かっています。このうち、7種類のファイトアレキシンの合成過程に働く、10種以上の酵素のうち、発見されていた10個の酵素については、それら酵素を作る遺伝子はすでに明らかにされていました。そこで、これら10個の遺伝子の調節に関わる遺伝子を探索し、転写因子(2)であるDPFを作る遺伝子(DPF遺伝子)を見つけました。探索には、生物研が公開している複数の遺伝子同士の協調関係をまとめたデータベース Rice FREND(http://ricefrend.dna.affrc.go.jp)を使用しました。
 2.DPF遺伝子は、病原菌の感染などのストレスによりこれらのファイトアレキシンの合成が高まるとき、同時に働きが強くなることが分かりました。

 3.DPF遺伝子の働きを抑制した場合、ストレスの有無に関わらず根で蓄積している7種類のファイトアレキシンすべての生産量が著しく減少しました。また、DPF遺伝子の働きを強化したところ、ストレスが無くても、7種類のファイトアレキシンの生産量が、通常はほとんど生産されない葉において、著しく(480〜3600倍)増大しました(図1、2)。


<今後の予定・期待>
 今後、DPF遺伝子を強化したイネのストレス抵抗性を最適に向上させる研究を行う予定です。現在まず、DPF遺伝子を適切に働かせ、葉の健康を損なわない量のファイトアレキシンを生産するための研究を進めています。また、今回、DPFは7種類のファイトアレキシンすべての生産を高める役割があることが明らかになりましたが、ファイトアレキシンの蓄積量が多くなりすぎると、葉の一部が褐色に変化し、光合成能力が落ちてしまうため、今後、葉の変色を抑制することが必要です。ある程度のファイトアレキシンを常時葉に生産させることで、病気にかかりにくい等のストレスに強いイネの育成が期待されます。


<発表論文>
 Yamamura C,Mizutani E,Okada K,Nakagawa H,Fukushima S,Tanaka A,Maeda S,Kamakura T,Yamane H,Takatsuji H,Mori M(2015)DiterpenoidPhytoalexin Factor,a bHLH transcription factor,plays a central role in thebiosynthesis of diterpenoid phytoalexins in rice The Plant Journal 84,1100−1113:doi:10.1111/tpj.13065


<用語の解説>
1)ファイトアレキシン
 ファイトアレキシンは、植物が様々なストレスに応じて生産する化合物。植物種毎に様々な種類の化合物が存在する。イネのファイトアレキシンは化学構造や生合成経路の違いから、ジテルペン系のモミラクトン類、ファイトカサン類とフラボノイド系のサクラネチンに分類される。今回研究の対象としたファイトアレキシンはジテルペン系。

2)転写因子
 遺伝子の周辺の特定の塩基配列に作用することによって、その遺伝子の働きを活性化したり不活化したりする、遺伝子の調節タンパク質。ひとつの生物の中には様々な種類の転写因子が存在する。


<参考図>

 ※図1〜図2は添付の関連資料を参照





Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版