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産総研、光照射で効率的に発熱するナノコイル状の新素材を開発

2016-03-14

光照射で効率的に発熱するナノコイル状の新素材を開発
−近赤外レーザーによるがん光熱療法への応用に期待−


■ポイント
 ・生体透過性の近赤外レーザーで効率的に発熱するナノコイル状の新素材を簡便に合成
 ・培養したがん細胞へ添加し、レーザー照射すると、6割以上の細胞が死滅
 ・近赤外レーザーを用いた生体深部のがん治療への応用に期待


■概要
 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)機能化学研究部門【研究部門長 北本 大】界面材料グループ 丁 武孝 研究員とナノ材料研究部門【研究部門長 佐々木 毅】CNT機能制御グループ 都 英次郎 主任研究員らは、優れた光発熱効果を示すナノコイル状の新素材を開発した。

 この素材は、有機ナノチューブの表面に、ポリドーパミン(PDA)がコイル状に結合したもので、生体透過性の高い近赤外レーザーを照射すると、高効率で発熱する。培養したがん細胞に少量添加し、レーザー照射すると、60%以上の細胞が死滅した。近赤外レーザーを利用した生体深部のがん治療用材料への応用が期待される(図1)。

 なお、この研究の詳細は、ドイツ化学誌Chemistry−A European Journalに2016年2月5日(日本時間)オンライン掲載された。また、2016年3月24日〜27日に同志社大学京田辺キャンパス(京都府京田辺市)で開催される日本化学会第96春季年会で発表される。

 ※図1は添付の関連資料を参照


■開発の社会的背景
 がんの三大療法は手術療法、化学療法、放射線療法であるが、さらに安全で患者への負担の少ない新たな治療法が切望されている。このため第四の治療法として、正常細胞に比べて、相対的に熱に弱いがん細胞だけを死滅させるために、がん細胞近くでの光発熱効果を利用した温熱療法(光熱療法)が、注目を集めている。この治療法の実用化のため、生体深部まで透過できる近赤外光を吸収し、少量でも効果的に発熱する安全な材料が望まれてきた。代表的な材料として、これまでにカーボンナノチューブ、金ナノロッド、インドシアニングリーン、ポルフィリン誘導体、PDAなどが開発されてきた。特に、体内分泌物質であるドーパミンが自発的に重合してできるPDAは、優れた生体適合性を示し、簡便に量産できるため、次世代の光熱療法に向けた有力材料と考えられている。しかし、PDAは他の材料に比べて光発熱効果が低いことが課題であった。


■研究の経緯
 ある種の無機導電材料では、形状を粒子状からコイル状に変えることで、電磁波や光を効果的に吸収して発熱することが知られている。そこで、PDAの形状を従来の粒子状からコイル状へと変換すれば、光発熱効果を改善できるのではと考え、研究に着手した。

 これまで、産総研では、ナノサイズの中空シリンダー構造を持つ各種の有機ナノチューブを開発し、徐放性カプセル材料などへの用途展開を進めてきた。今回、PDAが吸着しやすい有機ナノチューブを選択し、コイルの「鋳型」として用いてナノコイル状のPDAを作成することに取り組んだ。

 なお今回の研究開発の一部は、独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費助成事業「挑戦的萌芽研究(平成27年度)」、「若手研究(A)(平成25〜27年度))」、公益財団法人 新世代研究所の2014年度研究助成による支援を受けて行った。


■研究の内容
 電荷を持たない有機ナノチューブドーパミン水溶液に添加してドーパミンを重合させても、コイル状のPDA(ナノコイル状PDA)は得られなかった。そのため、負電荷を持つ分子が少量混入した有機ナノチューブ(外径約190nm、内径約70nm、長さ800nm〜4μm)を鋳型としたところ、ドーパミンが有機ナノチューブ表面に吸着して重合が進行し、PDA(太さ約100nm)が有機ナノチューブにコイル状に巻き付いたナノコイル状PDAが作製できた(図2)。有機ナノチューブの外表面では負電荷がらせん状に局在化しており、そこにある割合で正電荷を帯びたドーパミンが吸着しながら重合が選択的に進行するためと考えられる。

 ナノコイル状PDAとの特性比較のため、幅約7.5nmのナノファイバー状のPDA(外径約17nm、長さ3μmのナノチューブに内包されたもの)や、ナノ粒子状のPDA(粒径約400nm)も同時に作製した(図2)。

 ※図2は添付の関連資料を参照


 光発熱性能を比較するためナノコイル状PDA、ナノファイバー状PDA、ナノ粒子状PDAをそれぞれ含む水分散液0.3ml(PDA濃度:0.08wt%)に、波長785nmの近赤外レーザーを10分間照射した。照射後、ナノコイル状PDAの分散液では、ナノファイバー状やナノ粒子状に比べて、2倍以上の温度上昇が見られた(図3A)。このナノコイル状PDAの顕著な温度上昇は、コイル形状のPDAがアンテナの役割をすることで、ファイバー状あるいは粒子状に比べてより効果的に近赤外光を吸収し、発熱するためと考えている。さらに、ナノコイル状PDAを、培養したヒト子宮頸部(けいぶ)がん細胞(HeLa)に添加し近赤外レーザーを照射すると、約65%の細胞が死滅した(図3B)。ナノコイル状PDAが細胞表面に多数吸着し、細胞の近くが高温になることで、がん細胞が死滅したと考えられる。有機ナノチューブだけでは、細胞の死滅率が低いことから、ナノコイル状PDAが優れた光発熱効果を示すことがわかった。

 ※図3は添付の関連資料を参照


■今後の予定
 今後は、光発熱効果の効率向上や、各種のがん細胞に選択的に吸着させるための最適化とともに、正常細胞への安全性評価なども進める。また、今回発見したナノコイル状PDAの優れた光熱変換効果を活用し、太陽電池などの省エネルギー分野への応用も検討していく。


■用語の説明

 ※添付の関連資料を参照



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