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京大など、薄膜化により多孔性金属錯体に隠されたゲート開閉機構を発見

2016-03-14

「小さくなると、閉じたゲートが開閉する」多孔性材料:
−薄膜化により多孔性金属錯体に隠されたゲート開閉機構を発見−


<概要>
 国立大学法人京都大学(山極壽一総長)、公益財団法人高輝度光科学研究センター(以下「JASRI」、土肥義治理事長)、国立研究開発法人物質・材料研究機構(以下「NIMS」橋本和仁理事長)、国立研究開発法人理化学研究所(以下「RIKEN」松本紘理事長)の研究グループは、ナノメートルサイズの薄膜化により分子の吸着機能を発現する多孔性材料を発見しました。これは、京都大学の北川宏教授、大坪主弥助教、坂井田俊大学院生、NIMSの坂田修身高輝度放射光ステーション長、RIKENの高田昌樹グループディレクターらによる研究成果です。
 活性炭やゼオライトに代表されるような吸着材は、分子を取り込み吸着する機能を持つ物質であり、物質内部に多数の小さな穴(細孔)を有することから「多孔性材料(注1)」と呼ばれています。最近では、活性炭やゼオライトに比べて高いガス選択吸着性を示す「多孔性金属錯体(MOF)(注2)」が高効率分離・濃縮機能を有する多孔性物質として注目され、活性炭やゼオライトに次ぐ新しい多孔性材料として世界中で積極的に研究開発が進められています。
 今回、本研究グループは、バルク(注3)の結晶状態では分子を取り込む機能を全く示さないMOFが、ナノメートル(注4)サイズの結晶性薄膜になるとゲートが開くような構造変化を伴って分子を取り込むようになることを発見しました。ナノメートルサイズの薄膜の結晶成長や分子の取り込みに伴う構造変化は、大型放射光施設SPring−8(注5)の高輝度X線による精密なX線回折(注6)実験により初めて確認しました。以上の研究成果は、多孔性薄膜材料を用いた新しいガス分離膜、センサー材料や電子デバイスとしての応用に繋がることが期待されます。
 なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の研究領域「ナノ界面技術の基盤構築」における研究課題「錯体プロトニクスの創成と集積機能ナノ界面システムの開発」(研究代表者 京都大学 北川宏教授)、JSPS 科学研究費助成事業 若手研究(B)「階層制御された多孔性配位高分子ナノ薄膜の構築と物性探索」(研究代表者 京都大学 大坪主弥助教)の一環として、また大型放射光施設SPring−8の利用研究課題として行われたものです。
 本研究成果に関する原著論文は、英国科学誌「Nature Chemistry」のオンライン版に平成28年3月7日16時(英国ロンドン時間)に掲載されました。


1.背景
 物質内部に無数の細孔を有する「多孔性材料」と呼ばれる物質は、その細孔内に分子を取り込んで吸着する性質を持つことで注目され、古くから盛んに研究が行われてきました。近年、新しい多孔性材料として金属イオンと有機分子の自己集合により生成する多孔性金属錯体(MOF:Metal−Organic Framework)が注目を浴びています。これらは活性炭やゼオライトなどの従来の多孔性材料に比べて高い空隙率や結晶性を有していて、さらには設計性や物質群としての多様性にも優れており、細孔のサイズ、形状、性質だけでなく物質の安定性なども構成要素となる金属イオンや有機分子の組み合わせによってコントロールすることが出来るという大きな特徴を持っています。


2.研究手法・成果
 今回の研究では、二次元層状ホフマン型錯体と呼ばれるMOFが結晶のサイズが大きいバルク状態では分子を取り込む性質を全く示さないものの、結晶をナノメートルサイズに小型化(薄膜化)すると分子を吸着するようになるという現象を初めて発見しました(図1)。このMOFは図1に示すような鉄イオンとテトラシアノ白金錯体からなる二次元の層同士が、ピリジンと呼ばれる有機分子によって相互に組み合わさった構造を持っています。このMOFは予備的な実験からバルク状態では分子を取り込む機能を示さないことが分かっています。
 本研究グループは、Layer−by−Layer法(注7)を用いることで配向成長した(成長する向きが揃った)ナノメートルサイズのMOF薄膜を合成しました。まず、4−メルカプトピリジンのエタノール溶液に金基板を浸すことで、アンカーとなる自己組織化単分子膜を作製しました。その後、この基板をMOFの構成要素であるピリジンを含んだ鉄イオン、テトラシアノ白金錯体の二種類のエタノール溶液に次々に浸し、この手順を30サイクル繰り返すことにより、目的のMOFの薄膜を基板上に組み上げました(図2)。
 SPring−8 BL13XU ビームラインの放射光を用いた精密なX線回折実験から基板面に平行方向の情報を含む面内配置、基板面に垂直方向の情報を含む面外配置共に明瞭なピークが観測され、得られたMOF薄膜が面内方向、面外方向共に結晶性であることが実証できました(図3)。X線回折実験の結果から30サイクル繰り返して合成した薄膜は、平均的な膜の厚みが16ナノメートル(nm)程であることが分かりました。次に、エタノール分子の蒸気にこの薄膜を晒して放射光X線回折実験を行ったところ、驚くべきことにエタノールの蒸気圧が上がるとあたかもゲートが開くようにMOFの層間距離が広がることでエタノール分子を取り込み、蒸気圧が下がると取り込んだエタノール分子を放出しながらゲートを閉じるように層間距離が縮むことが明らかになりました。さらに、薄膜作製時のLayer−by−Layer法のサイクル数を増やし、厚みを人工的に増やした薄膜では、エタノールの蒸気に晒しても層間距離は変化せず、分子が取り込まれないことが分かりました(図4)。つまり、この結果はMOFの持つ隠れた分子吸着機能が、ナノメートルスケールで薄膜の厚みをコントロールすることで初めて機能することを実験的に実証できたと言えます。


3.波及効果・今後の展望
 本成果は、(1)基礎面、(2)応用面の両方において大きな波及効果が期待されます。
 (1)本研究で発見した現象は、サイズが変わると性質が真逆に変化する多孔性材料を初めて発見したということであり、これはこれまでに観測されたことの無い新しい現象です。つまり、結晶の「サイズ」という因子がMOFに劇的な物性の変化をもたらし得ることを示しており、多孔性材料の示すガス吸着を始めとする基礎物性に結晶のサイズ次第で多くの多様性が生まれることが期待できます。
 (2)これらの特徴に加えて、このMOF薄膜は合成時のサイクル数を変えることにより薄膜の厚みを精密にコントロールすることが出来ます。この利点を生かすことで、ガス分子に対する応答性を精密に調節可能なセンサー材料や、ガス分離膜等への応用につながることが期待されます。


<論文タイトルと著者>
 題名:"Crystalline coordination framework endowed with dynamic gate−opening behaviour by being downsized to a thin film"
 日本語訳:「薄膜への小型化により動的なゲート開閉挙動を示す結晶性配位骨格」
 Shun Sakaida,Kazuya Otsubo,Osami Sakata,Chulho Song,Akihiko Fujiwara,Masaki Takata and Hiroshi Kitagawa
 Nature Chemistry,2016,DOI:10.1038/nchem.2469


 ※用語解説・図1〜図4は添付の関連資料を参照




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