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NICT、人体解剖モデルを電波に対するばく露評価に利活用するためのソフトウェアを公開
人体解剖モデルを電波に対するばく露評価に利活用するためのソフトウェアを公開
〜モデルの可視化及び高機能化をパッケージに〜
NICTは、電磁波計測研究所において、電波と人体との相互影響の調査のために人体の解剖モデル(数値人体モデル)を開発してきました。このたび、この数値人体モデルを電波と人体との相互影響や様々な調査に利活用するためのソフトウェアを公開します。
今回公開するソフトウェアでは、数値人体(ブロック型)モデルの内部組織構造の可視化や、ブロック型モデルからメッシュ型モデルの作成等も可能になりました。さらに、過去に公開していたソフトウェアに比べて、より高性能な姿勢変形機能も有しています。
本ソフトウェアによって、多様化している無線通信端末の使用環境下での数値シミュレーションに最適な数値人体モデルを高速かつ簡便に作成できるようになり、これまで以上にきめ細やかな評価が実現可能になります。また、放射線の被ばく線量評価や自動車衝突解析など、幅広い研究分野でも利用することが可能です。
■背景
近年、無線通信技術の進歩に伴って、その利用形態も多様化しています。我々のごく近くでは、様々な電波が利用されており、無線通信機器等から発生する電波が人体内部でどのように振る舞い、影響を及ぼすかをコンピュータ上で正確にシミュレーションするため、NICTは、人体の解剖構造を詳細に模擬した立位の「数値人体モデル」(補足資料図1参照)や、これらの数値人体モデルの姿勢変形ソフトウェアを公開しており、現在、国内外の様々な研究機関で利用されています。
また、「数値人体モデル」(2mmの立方体ブロックで構成、51種類の人体組織・臓器を有する日本人成人男女の人体モデル及び56種類を有する妊娠女性モデル)については既に、データベースを提供しており、これまでに国内外の研究機関等(200以上)で利用されています。
■数値人体モデル用ソフトウェアの概要
※参考画像は添付の関連資料を参照
今回公開する「数値人体モデル用ソフトウェア(Voxel Human Anatomy Lab)」(上図参照)は、数値人体モデルを用いた人体に対する電波ばく露評価に必要な下記の機能を有しています。
・数値人体モデルの内部構造を確認するための断面表示
・数値人体モデルのブロックサイズの任意変更
・メッシュ形式の数値人体モデル作成
・任意姿勢変形
数値人体モデルの姿勢変形ソフトウェアについてはこれまでにも公開してきましたが、本ソフトウェアでは、インタラクティブ性が向上し、自由形状変形手法による姿勢変形機能等を有しています。さらに、新たに妊娠女性モデルの姿勢変形も可能になりました。数値人体モデル及び本ソフトウェアを利用することで、多様化する様々な無線通信端末からの電波の人体内部での振る舞いを、より詳細に推定することができます。
本ソフトウェアは、ブロックで構成された数値人体モデルをCADソフトウェア等で利用されているメッシュ形状のモデルに変更でき、数値人体モデルを利用できる解析手法が拡大することから、より幅広い研究分野(例えば、放射線のばく露評価や自動車衝突解析等)でも、数値人体モデルを利用しやすくなります。本ソフトウェアを公開することにより、電波ばく露評価に限らず、様々な分野で数値人体モデルが広く利活用されることが期待されます。
■今後の展望
「ソフトウェア」の公開における公開条件、利用申請方法等については、大学や研究機関(無償)と民間企業(有償)の申請の仕方が違いますので、詳細は下記Webページをご参照ください。
https://www2.nict.go.jp/aeri/emc/bio/data/index.html
現在、本ソフトウェアのさらなる機能拡張を進めており、出来次第、順次公開していく予定です。
■過去に公開した人体モデルに関する情報
・「数値人体モデルデータ提供のご案内」
(2mmの立方体ブロックで構成、51種類の人体組織・臓器を有する日本人成人男女の人体モデル及び56種類を有する妊娠女性モデル)
■補足資料
※添付の関連資料を参照
■用語解説
・電波と人体との相互影響
電波が人体に及ぼす影響については、50年以上にわたって世界各国で研究が行われている。その膨大な研究成果によって、携帯無線端末等の電波については、熱作用に基づいた電波防護指針が定められている。電波により生じる人体の熱作用の評価には、体内への電力の吸収量が指標として用いられ、数値人体モデルを利用したコンピュータシミュレーションによって、正確かつ詳細な評価を行うことが必要である。また、人体が通信機器のアンテナ特性等に及ぼす影響の評価にも使うことができる。
・数値人体モデル
人体(組織・臓器)の形状を、微小な要素(本モデルでは一辺が2mmの立方体ブロック)の集合体として表現したもの。各微小ブロックには、その部位に対応する組織・臓器名が与えられており、その組織・臓器に対応する電気定数を与えることで電磁界シミュレーションに用いることができる。また、各組織・臓器に他の物性値を与えることで、放射線の被ばく量評価や自動車衝突解析など、幅広い研究分野で活用できる。
・自由形状変形手法 [Free−form deformation]
数値人体モデルの各部位の周囲を囲む格子を設定し、その格子の制御点を動かすことで、数値人体モデルの各部位を滑らかに変形できる。