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東大、ビッグデータを活用して界面構造の決定スピードを100倍以上の高速化に成功

2016-03-09

ビッグデータを活用して界面構造の決定スピードを100倍以上高速化!
触媒や電池の開発を加速−


1.発表者:
 溝口 照康(東京大学生産技術研究所 准教授)
 清原 慎(東京大学大学院工学研究科 大学院生)
 小田 尋美(東京大学大学院工学研究科 大学院生)
 津田 宏治(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)


2.発表のポイント:
 ◆資源探索の分野で用いられているビッグデータ(注1)活用技術を物質科学に利用し、物質の性質に決定的な役割を果たす界面(注2)の構造を高速に決定することに成功しました。
 ◆物質の界面の構造を決定するにはこれまで数千〜数万回の構造緩和計算(注3)が必要でした。今回開発したビッグデータ活用法では、100倍以上の高速化に成功しました。
 ◆界面は電池や触媒などさまざまな機能と密接に関わっており、開発した手法を利用することで、優れた電池や触媒の開発スピードが加速されることが期待されます。


3.発表概要
 ビッグデータは金融や創薬などの幅広い分野で活用されています。ビッグデータを物質研究に活用した研究分野は、「マテリアルズ・インフォマティクス」とよばれ、米国では年間100億円という巨大プロジェクトが行われるなど、物質研究の大きなムーブメントとなっています。
 東京大学生産技術研究所の清原慎大学院生、溝口照康准教授らの研究グループは、ビッグデータを活用して物質の界面の構造を高速に決定することに成功しました。界面は電池や触媒など、さまざまな機能と密接に関係しています。しかし、界面の構造を決定するには、数千〜数万回という膨大な数の構造緩和計算が必要でした。高機能な物質の開発を加速させるためには、界面の構造を高速に決定できる手法の開発が求められていました。
 本研究グループは、資源探索の分野のビッグデータ活用技術であるクリギング(Kriging、注4)という空間補間法を活用し、物質の性質に決定的な役割を果たす界面の構造を、非常に高速に決定することに成功しました。同手法により、わずか100回程度の計算で界面構造を決定することができます。つまり、これまでより100倍以上の高速化を達成することができました。
 本研究成果は日本応用物理学会発行の「Japanese Journal of Applied Physics」オンライン版に掲載されます。


4.発表内容
 界面は物質の機能に決定的な役割を果たします。しかし、界面の構造を決定するためには、数千〜数万回の構造緩和計算を行い、その中で最も安定な構造を探すという作業が必要でした。構造緩和計算は、1回当たり数秒から数時間を要します。つまり、1つの界面構造を決定するだけでも、膨大な量の時間と労力を要してきました。
 一方で、界面は多種多様であり、それぞれが異なる構造と異なる機能を有しています。それらすべての界面の構造を従来の手法で決定することは非常に困難とされてきました。
 資源探索分野では、少ない掘削点で広大な範囲の地下深くにある資源埋蔵量を推定する必要があります。そこで用いられているビッグデータ活用法が、クリギング(Kriging)という空間補間法です。
 クリギングを図1で説明します。地球資源探索においては、より少ない掘削点で効率的に資源埋蔵量の多い地点を推定する必要があります。例えば地表にある赤点で掘削を行い、資源埋蔵量を調べ、そこから推定された青点で再び掘削を行います。さらに、赤点と青点の情報をすべて使って推定することで、最大埋蔵地点(黄点)を見つけることが出来ます。これがクリギングです。
 本研究では、界面の幾何的なデータとエネルギーに関するデータで構成される多次元ビッグデータに対して、このクリギング法を初めて適用しました。これまでは数千から数万回の構造緩和計算が必要でした。つまり、先ほどの図1の例でいうと、地表上のすべての地点で掘削を行うという作業が行われてきました。このクリギング法を用いることで、100回程度の構造緩和計算で界面構造を決定することができます。実に100倍以上の高速化を達成しました。
 図1では、従来の手法(Conventional method)で得られた界面構造と、クリギング法(Kriging method)で推定された界面構造を比較しています。計算回数が約246分の1にもかかわらず、同じ構造を得ることが出来ています。さらに今回開発した手法の優れた汎用性も明らかになりました。この手法はいかなる物質のいかなる界面にも適用できます。
 界面は電池や触媒などさまざまな物質の機能と深く関係しています。今回の手法を利用することにより、高性能な電池や触媒材料の開発が加速されると期待されます。
 本研究成果は日本応用物理学会発行の「Japanese Journal of Applied Physics」オンライン版に掲載されます。


5.発表雑誌:
 雑誌名:日本応用物理学会発行の「Japanese Journal of Applied Physics」オンライン版
 3月6日午前零時(日本時間)
 論文タイトル:Acceleration of stable interface structure searching using a kriging approach(資源探索法を活用した界面構造決定の高速化)
 著者:Shin Kiyohara, Hiromi Oda,Koji Tsuda,and Teruyasu Mizoguchi
   (清原慎、小田尋美、津田宏治、溝口照康)
 Online:2016/3/6 AM0:00(Japan time)


■用語解説:
注1 ビッグデータ
 大規模データの集合体。創薬や金融、気象、資源探索など幅広い分野で活用されている。

注2 界面
 物質と物質が接している領域。一般的に複雑な構造を有しており、原子同士が特異な結合で結ばれているため、高速イオン伝導や触媒活性等、さまざまな機能を発現する。

注3 構造緩和計算
 初期の原子配置から安定構造とそのエネルギーを算出する方法。第一原理計算や格子静力学計算などさまざまな手法があり、一回の構造緩和計算には、第一原理計算では数時間〜数十時間、格子静力学計算では数秒〜数時間の計算時間を要する。

注4 クリギング
 資源探索に用いられる空間補間法の一種。たとえば、ある地点X1と地点X2で採掘を行い、得られた資源量から、掘削を行っていない空間の埋蔵量を推定(補間)する。最も埋蔵量の多い掘削点を推定する際に用いられる。


 ※図1は添付の関連資料を参照




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