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農業生物研と佐賀大、さまざまな突然変異を含む多数のダイズ系統を作出

2016-03-05

さまざまな突然変異を含む多数のダイズ系統を作出
−新しい性質を持つダイズ品種の開発が可能に−


<ポイント>
 ・ダイズに効率よく突然変異を起こす技術を利用し、様々な突然変異を含む変異集団を作出しました。
 ・今回作出した突然変異集団を用いることで、これまで以上に早く実が登熟する系統など、新しい性質をもつダイズ品種の開発が可能となります。


<概要>
 1.農業生物資源研究所(生物研)は、佐賀大学と共同で、ダイズに高頻度で突然変異を起こすことに成功し、様々な突然変異を多数含む突然変異系統の集団を作出しました。
 2.突然変異育種は、新品種を育種する方法のひとつとして一般的に行われています。しかし、従来の方法では変異が現れる頻度が低いため、イネの2倍以上の遺伝情報を持つダイズでは、新しい性質に変化したものはなかなか得られませんでした。
 3.今般、作出した系統の中には、これまで以上に早く実が登熟する系統や、ダイズの栄養素(タンパク質、糖)の含量が高くなった系統など、従来の方法では得ることが困難であった系統が見つかりました。


 予算:農林水産省次世代ゲノム基盤プロジェクト「遺伝資源から多様な地域特性や経営戦略に即した有用遺伝子を効率的に特定する技術の開発」(平成25年〜29年)、運営費交付金


<背景と経緯>
 背景と経緯「突然変異育種法」は、放射線照射や化学物質処理により、遺伝子に変化を起こさせる方法で、これまでには無かった新しい性質が現れたり、不良な性質のみを改良することが可能な手段として、一般的に利用されています。しかし、従来の方法では、変異が現れる頻度が低いため、イネの2倍以上の遺伝情報を持つダイズでは、新しい性質に変化したものはなかなか得られませんでした。ダイズ遺伝子のほとんどは機能が解っていないため、なるべく多くの遺伝子について、機能を失わせる突然変異をおこすことを目指しました。遺伝子を壊すことで、その遺伝子がもつ機能の解明が容易になり、品種改良に役立つからです。そのため、まずダイズに高頻度で突然変異を起こす手法を開発し、新しい性質を持つダイズの作出を試みました。
 また、突然変異は無作為に生じるため、有用な変異体を選抜するには労力がかかり、どの遺伝子が変化したか調査するにも時間がかかります。このため、次に、遺伝子のどこが変化したか調べるため、すべての系統の遺伝子配列を、いつでも解読できるようにしました。


<内容・意義>
 1.ダイズに化学物質(EMS1))を2世代続けて処理することで、高頻度に突然変異を起こす手法を開発しました。1世代目の変異体集団の各個体から、等量ずつ種子を集めて、特定の突然変異のみが第2世代で増えることがなく、起こった突然変異がまんべんなく残るよう工夫しました。
 2.国産優良品種の「エンレイ」の種子に、今回開発した手法によりEMSを処理することで、高頻度に突然変異を起こすことに成功しました。これにより1,536種類の突然変異系統を作出しました。
 3.得られた1,536系統のうち、12系統の全ゲノム配列を解読しました。突然変異は、74,000塩基ごとに1ヶ所起こっていました。遺伝子が作るタンパク質に換算すると、平均して、1系統あたり、タンパク質が変化する突然変異は691個、遺伝子が機能を失うような正常なタンパク質がつくられない突然変異は35個含まれていました。したがって、約54,000個あるダイズの遺伝子のほぼ全てについて、その機能を失うような突然変異を起こしているものが、1,536系統の突然変異系統集団の中に含まれていると推定されました。
 4.作出した系統の中には、これまで以上に早く実が登熟する系統(図1)や、ダイズの栄養素(タンパク質、糖)の含量がそれぞれ高くなった系統(図2)など、従来の方法では得ることが困難であった系統が見つかりました。
 5.遺伝子のどこが変化したかを調べるため、作出した系統全てから、ゲノムDNAを抽出し、いつでも全ゲノム配列を解読できるよう保管しています。また、保管したDNAを利用して、目的の遺伝子部分のみの塩基配列を解読することで、1,536系統の中から遺伝子の機能を失った突然変異系統を迅速に見つけ出すことを可能にしました。


<今後の予定・期待>
 1.ダイズは麦などの冬の農作物と交互に栽培されるため、できるだけ栽培期間を短くすることが望ましいとされています。今回見つかった早く登熟できるような系統については、現在、不要な突然変異を除き、品種化する研究を進めています。
 2.また、現在、早く実が登熟する系統や、栄養素の含量が高くなった系統の全ゲノム配列を解読し、原因遺伝子を解明する研究を進めています。
 3.遺伝子の機能を失った突然変異系統を迅速に特定し、その性質を調査できるようになったので、今後ダイズの有用遺伝子の機能解明が進み、品種開発の加速化が可能となりました。
 4.今回作出した突然変異系統と保管したDNAは、研究担当者に申し込むことで、共同研究を行うことが可能です。


<発表論文>
 Mai Tsuda,Akito Kaga,Toyoaki Anai,Takehiko Shimizu,Takashi Sayama,Kyoko Takagi,Kayo Machita,Satoshi Watanabe,Minoru Nishimura,Naohiro Yamada,Satomi Mori,Harumi Sasaki,Hiroyuki Kanamori,Yuichi Katayose,Masao Ishimoto
 BMC Genomics 2015,16(1):1014(11月26日)doi:10.1186/s12864−015−2079−y


<用語の解説>
 1)EMS:Ethyl Methane Sulfonate(エチルメタンスルフォン酸)
 DNAに変異を引き起こす作用を持つ化学物質。



<参考図>

 ※図1・図2は添付の関連資料を参照




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