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東大、がんに対するDDS(薬物標的治療)の効率を高める腫瘍血管透過経路を発見

2016-02-18

がんに対するDDS(薬物標的治療)の効率を高める
新しい腫瘍血管透過経路を発見!


●発表のポイント
 ◆DDSの効率を高める新しい腫瘍血管透過経路を発見しました。
 ◆腫瘍血管が不規則に開閉し、そこから蛍光標識した高分子ナノミセルが血管外の腫瘍組織へ漏出するという、極めて動的な現象を発見しました。
 ◆この現象のメカニズムを解明し活用することができれば、特に難治性腫がんに対する新しい薬物送達法の開発に繋がるものと期待されます。


●発表概要:
 がん組織の血管は正常組織の血管と比べて構造が未熟で、透過性の高い「静的な穴(static pore、図1)」がたくさんあります。東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・聴覚音声外科の松本有助教、山岨達也教授、東京大学大学院工学系研究科・医学系研究科の片岡一則教授(ナノ医療イノベーションセンター・センター長兼任)らの研究チームは、生きたマウスに腫瘍を生着させ、薬がどのようにがん細胞に到達するのかを詳細に観察しました。がん血管のところどころでstatic poreより大きい「動的な隙間(dynamic vent、図1)」が短時間だけ開き、そこから薬が血管の外へ勢い良く「噴出(eruption)」するという現象を発見しました。今後の研究によって、特に治療が難しいがんの治療効率を高める新しい薬剤送達法の開発に繋がるものと期待されます。
 なお、本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」および戦略的創造研究推進事業(CREST)、ならびに、内閣府/日本学術振興会・最先端研究開発支援(FIRST)プログラム、日本学術振興会・科学研究費補助金などの支援によって行われました。


●発表内容:
 【研究の背景】
 腫瘍血管は脆弱で透過性が高いことが知られています。これまでのEPR効果(注1)の概念では、腫瘍血管には細胞間隙やフェネストラと呼ばれる細胞内小孔などの透過性の高い穴があり、これを介して徐々に高分子物質が血管外へ漏出するとされています。多くのDDS製剤(注2)はこのEPR効果を利用して抗腫瘍効果を発揮します。
 ところが膵がんやスキルス胃がんなどの難治がんに対しては、多くのDDS製剤は理想的な治療効果を得られないのが実情です。一つの理由として難治がんに特徴的な厚い間質形成(がんを包み込む組織。線維芽細胞、リンパ球、マクロファージなどの多種類の間質細胞から構成される。がんを物理的に支え、がんの進行や転移に重要な役割を果たす。)が挙げられます。粒子径の大きいDDSはこの間質を突破できず血管近傍に留まることが判っており、片岡一則教授らの研究チームはこれまでに、粒径を小さくすることにより間質を突破出来ることを示してきました。

 【研究内容・成果】
 本研究では生きたマウスに腫瘍を生着させ、蛍光性の分子を結合させて標識した高分子ナノミセル(注3)の腫瘍内分布を観察することにより、薬がどのようにがん細胞に到達するのかを調べました。高分子ナノミセルの腫瘍内分布について、短い撮影間隔かつ長時間、詳細に観察しました。マウスの麻酔管理や撮影技術が向上したこと、また高い血中滞留性を持つ高分子ナノミセルを開発したことにより、DDSの腫瘍内分布様式の動的な情報が得られるようになりました。
 本研究グループは、腫瘍血管が不規則に開閉し、そこから蛍光標識した高分子ナノミセルが血管外組織へ漏出するという、極めて動的な現象を発見しました(図2)。噴出は概ね60分以内に収束するダイナミックな現象であるため、従来の組織片を連続的に薄くスライスした固定薄切を伴う組織学的手法では捉えることが不可能でした。
 粒径の異なる高分子ナノミセルを投与し、画像解析やコンピューターシミュレーションをおこなった結果、噴出の発生頻度は腫瘍細胞からの距離と相関すること、噴出速度は腫瘍血管内外の圧力を駆動力とすること、噴出後の拡散は間質密度に左右されること、などが判明しました。

 【研究内容の新規性・重要性】
 本研究は「静的な穴(static pore)」とは別に、短時間だけ開閉する「動的な隙間(dynamic vent)」からの「噴出(eruption)」を新たに提唱するものです。
 今後の研究によってeruptionのメカニズムを解明し、これを誘発あるいは抑制することが出来れば、難治性腫がんに対する新しい治療法の開発に繋がるものと期待されます。


●発表雑誌:
 ・雑誌名:Nature Nanotechnology(オンライン発行 英国時間 2016年2月15日)
 ・論文タイトル:Vascular bursts enhance permeability of tumour blood vessels and improve nanoparticle delivery
 ・著者:Yu Matsumoto, Joseph Nichols, Kazuko Toh, Takahiro Nomoto, Horacio Cabral, Yutaka Miura, R. James Christie, Naoki Yamada, Tadayoshi Ogura, Mitsunobu R Kano, Yasuhiro Matsumura, Nobuhiro Nishiyama, Tatsuya Yamasoba, You Han Bae(*), Kazunori Kataoka(*)
 ・DOI番号:10.1038/NNANO.2015.342

 【Nature Nanotechnologyについて】
 Nature Nanotechnologyは、Nature Publishing Groupが発行しているナノテクノロジーに関する専門誌で、2006年に創刊されました。インパクト・ファクターは34.048(2015年発表)でナノサイエンス・ナノテクノロジーの分野では1位の学術誌として高い評価を得ています。
 参考URL:http://www.nature.com/nnano/index.html


●用語解説:
 (注1)EPR効果:Enhanced Permeability and Retention Effectの略。癌組織では正常組織に比べて新しい血管を作る血管新生と血管壁の透過性が亢進しており(血管の壁に穴がたくさん出来、血管と血管外での物質が出入りしやすくなる状態)、また、高分子を排出するリンパ系が未発達であるため高分子物質が集積しやすいことが知られています。

 (注2)DDS:Drug Delivery Systemの略。薬物送達システム。抗癌剤や造影剤などの薬物や、遺伝子などの生理活性物質の治療効果を上げ副作用を減らすため「必要な時に、必要な場所で、必要な量だけ作用させる」ことを目的とした技術の総称。

 (注3)高分子ナノミセル:
 親水性ポリマーと疎水性ポリマーの2つのブロックから成るナノ粒子。薬剤を内包した内核が親水性ポリマーの外殻で覆われた2 層構造を有している。


●添付資料:

 ※添付の関連資料を参照





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