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東大と九州工業大、海中ロボットでコバルトリッチクラストの全自動計測に成功

2016-02-15

「海中ロボットでコバルトリッチクラストの全自動計測に成功!」


●発表ポイント:
 ◆南鳥島沖合の拓洋第五海山の南東肩部において、ホバリング型自律型海中ロボット「BOSS−A」(注1、2、3)が、コバルトリッチクラスト(以下、CRCと略す。注4)賦存地帯の長距離全自動計測に世界ではじめて成功した。
 ◆搭載する音響センサ(注5)と3次元画像マッピング装置(注6)により、CRCの厚みと3次元画像を人が操作することなく全自動で計測することに成功した。
 ◆CRCの分布と賦存量を評価するのに有益なデータを取得した。
 ◆CRCの資源開発の適性度を効率的に評価する全自動観測手法を世界に先駈けて確立した。


●発表概要:
 東京大学生産技術研究所海洋探査システム連携研究センター(所長:藤井 輝夫)、九州工業大学社会ロボット具現化センター(学長:松永 守央)を中心とする研究グループでは、CRC賦存量評価に役にたたせるため開発したホバリング型自律型海中ロボット(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)「BOSS−A」を南鳥島沖合の拓洋第五海山の南東肩部(水深1,380m〜1,550m)(22°44.8N、153°16.0E)において展開し、海底面近傍を2.0mの高度、0.1m/sの速度で自動航行し、搭載する音響センサによりCRCの厚みを線状に連続計測し、海底面の形状や底質を計測する3次元画像マッピング装置により、CRCの分布を2.0mの幅で連続計測し、人が操作することなく全自動でのCRC調査に初めて成功した。
 「BOSS−A」での潜航は、悪天候のため2日に制限されたが、夜間潜航も含めて4潜航を実現、合計で約2.0kmの距離を計測した。今回の調査では、1潜航で最大4時間20分の観測を行い約1.2kmの測線のデータを計測した。取得した音響厚みと3次元画像マッピングデータの統合解析により、合計で4,000m2の範囲のCRCの賦存量推定を可能とした。
 2013年に日本は3000km2の広大な鉱区の探査権(http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_000076.html参照)を獲得した。2013年から2028年までの15年間で調査を行い、有望な鉱区を絞り込む必要がある。今回の「BOSS−A」での調査により、CRCの分布と賦存量を評価するのに有益なデータを、人が操作することなく全自動で調査する手法が世界に先駈けて確立された。今後は、本技術の民間への移転、複数のAUVによるシステマチックな調査により、資源開発の適性度を効率的に評価して、獲得する鉱区を最終的に絞り込む日本が実施する戦略的な調査に大きく貢献することが期待される。


●発表内容:
<背景>
 現代産業に欠かせないコバルトや白金を含むCRCは、日本近海の海山の頂上付近に賦存していることが知られている。この貴重な海底鉱物を資源としての価値を評価するには、効率的に賦存量を調査できる技術が必要である。このため、東京大学生産技術研究所では、文部科学省の「海洋資源利用促進技術開発プログラム 海洋資源広域探査システム開発(新基盤ツール)」における研究開発課題のひとつとして、「コバルトリッチクラストの賦存量調査技術の実用化」を目指した研究を九州工業大学と共同して推進してきた。
 広範囲に分布するCRCの賦存領域と開発の適性度を効率的に調査するには段階的に海底の情報を取得する必要である。このため、(1)海底から数10mの離れて広範囲の超音波地形調査(2)約10mの高度からCRCの面的な分布を見る高高度3次元画像マッピングと(3)2m高度から詳細なCRC音響厚み計測と高分解能な3次元画像マッピングを行うための計測機器を搭載して自動航行するAUVを用いた効率的な調査システムの開発を進めている。
 上記手法に基づき、2015年2月、拓洋第五海山と小笠原海台において、遠隔操作無人探査機(ROV:Remotely operated vehicle)による高高度3次元画像マッピングと「BOSS−A」による詳細音響厚み計測および低高度画像マッピングを実施したが(2015年2月)、悪天候に阻まれ十分なAUV潜航ができなかった。拓洋第五海山でのAUVの本格的展開は、今回の潜航調査がはじめてであり、今回の潜航調査により、CRCの賦存量を評価するのに有益なデータを取得し、AUVを用いた全自動観測手法が確立された。AUVによるCRCの全自動計測は、世界ではじめてであり、国際海底機構(ISA:International Seabed Authority)もこの技術に注目している。


<結果の概要>
 (1)南鳥島沖合の拓洋第五海山の南東肩部(水深1,380m〜1,550m)(22°44.8N、153°16.0E)において、ホバリング型自律型海中ロボット「BOSS−A」がCRCの計測に成功し、全自動観測による調査手法を確立した。
 (2)2日間という限られた潜航日程において、4回の潜航を行い、合計で約2.0kmの距離を計測した。調査では、1潜航で最大4時間20分の観測を行い約1.2kmの測線のデータを計測した。
 (3)「BOSS−A」は、搭載する音響センサ(注4)と画像マッピングシステム(注5)により、人が操作することなく全自動でCRCの分布と賦存量を評価するのに有益なデータを取得した
 (4)今後、資源開発の適性度を効率的に評価して、最終的に獲得する鉱区を絞り込んでいく日本が実施する戦略的な調査に大きく貢献することが期待される。


<今後の展開>
 今後、広範囲にわたるCRC賦存領域を調査し、民間への技術移転と複数のAUVの運用技術の研究開発を進める。これによるシステマチックな調査に向けてより資源開発の適性度を効率的に評価して、最終的に獲得する鉱区を絞り込んでいく日本が実施する戦略的な調査に大きく貢献することが期待される。


<附記>
 本研究は、文部科学省の「海洋資源利用促進技術開発プログラム 海洋資源広域探査システム開発(新基盤ツール)」プロジェクト(代表:浅田昭 東京 大学生産技術研究所教授)における「コバルトリッチクラストの賦存量調 査技術の実用化」課題(課題代表:ソーントン・ブレア東京大学生産技術研究所特任准教授)の一環として実施された。
 拓洋第五海山への航海は、同上プロジェクトにおける研究船「かいれい」を母船とするKR16−01 航海(船長:請蔵栄孝)のLeg2(首席研究者:ソーントン・ブレア東京大学生産技術研究所特任准教授)として、平成28年1月20日〜30日まで実施された。


●用語解説:
 (注1)自律型海中ロボット(AUV:Autonomous Underwater Vehicle):動力源を持ち、プロペラ等を用いてあらかじめ決められたルートに沿って無索で全自動で海中を観測する装置。

 (注2)ホバリング型AUV:広範囲を高速で航行することをミッションとする航行型AUVと異なり、運動自由度が高く、定点保持・その場回頭、その場での上下運動が可能なAUV。対象を詳細観測することを主要ミッションとする。

 (注3)「BOSS−A」(「BOttom Skimming and Survey」:重量600kgの中型ホバリング型AUV。CRC音響厚み計測と3次元画像マッピング装置を搭載し2m高度から全自動計測を行う。ペイロードスペースを大きく取っているため、CRC音響厚み計測装置等を取り外し別の計測センサを搭載することで別ミッションへの対応が可能である。

 (注4)CRC(コバルトリッチクラスト):鉄とマンガンの酸化物からなる海水起源の化学堆積岩。学術的にはマンガンクラスト、鉄マンガンクラストと呼ばれることが多い。海山や平頂海山などの海底において、数cm〜10数cmの厚さで基盤をカバーしており、広い範囲にわたって分布していることが知られている。1%以下のコバルト(Co)、ニッケル、3ppm以下の白金などを含んでいる。低品位巨大鉱床として注目されている。

 (注5):音響計測センサ:「BOSS−A」には、ジンバル制御を行う音響厚み計測装置が搭載されている。パラメトリック効果で発する200kHz(2次波)の音響ビームを高度1.2mで海底面にビームの焦点を自動的に合わせる。ターゲットにあたるビームの直径は20mm程度で、海底下30cmまでの内部構造を計測できる。ジンバル制御により超音波が海底面に対して直角に入射するよう自動的に角度を制御する。

 (注6):画像マッピングシステム:「BOSS−A」には、レーザとカメラシステムを組み合わせた低高度用3次元画像マッピングシステムを搭載(2m高度、2m幅の面的なデータ取得が可能)。最新版の3次元画像マッピングシステムは、2m〜10m高度までの高度調整が可能であり、小型AUV/ROVに搭載できるよう小型化を実現している。


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