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東大、普段使いができる災害対応歩行支援ロボットを開発

2016-01-14

「普段使いができる災害対応歩行支援ロボットを実現」


■出席者:佐藤知正(東京大学 新領域創成科学研究科 特任研究員)


■発表概要:
 東京大学フューチャーセンター推進機構は、佐藤知正特任研究員(名誉教授)を核として、福島県の復興支援事業である『災害対応ロボット産業集積支援事業』において「災害対応避難者アシストロボットの技術開発」プロジェクトを、株式会社菊池製作所や他大学、産業総合研究所とともに、南相馬プロジェクト研究チームにより、普段使いができる災害対応歩行支援ロボットを開発した。これは、「もしも」の時には、避難所などでの避難者の移動を容易にする機能とともに、「いつも」の時の買い物支援機能を両立させたロボットで、動力を備えていないバージョン(図1)と備えたバージョン(図2)を開発した。本研究により開発したロボットは、座りながら歩くというユニークなコンセプトに基づいたもので、杖だけでは大変だが車椅子には抵抗感がある高齢者の避難生活に役立つのみでなく、膝に負担の少ない歩き移動支援機として、買い物支援をはじめ、日常生活における歩行の新しい形の支援を可能とする。具体的には、物を運びながらの自力での移動比較実験において、被験者平均の脈拍が、歩行時93程度、歩行器(シルバーカート)88程度であるのに対し、歩行支援機では83程度であり、歩行における負担が軽減していることが確認されている。本研究成果は、昨年度及び今年度に、福島県南相馬市や同市の住民の方々の協力を得ながら、地域の復興と災害対応ロボット福島ブランドを地域との共創に実現する社会実装的アプローチを用いて研究開発に取り組まれてきたものであることを付記する。


■発表内容:
 「福島の復興なくして、日本の復興なし」といわれて久しい。福島県の3.11東日本大震災からの復興は、焦眉の急であり、有効な災害対応ロボットの実現とその産業化が復興の観点から強く求められている。一方、日本は災害大国である。ここで実現されたロボット技術とその産業化手法で、日本は世界に貢献できる。災害対応ロボット福島ブランドの確立が望まれている。
 1Fの事故直後に、事故現場で即応的に活躍できたロボットは、アメリカ軍のロボットであった。このように、災害対応ロボットが、「もしも」の時に使えるためには、「いつも」時にも使われてなければならない。また、民生産業が中心の日本においては、「もしも」の時に利用できる災害対応ロボットの市場は、かならずしも大きなものではない。「もしも」時の利用とともに、「いつも」時の利用を確保することは、市場確保、産業化の観点からも重要事項である。つまり、災害対応ロボットにおいては、「もしも」と「いつも」の時のデュアルユース(注1)を実現することが本質的に重要である。
 今回発表される災害対応歩行支援ロボットは、このようなデュアルユースを確保したロボットである。

●デュアルユースの歩行支援ロボットが実現された
 ・「もしも」使い:足の不自由なかたのトイレなどへの移動に、屈強の消防団員が常につきそうことは、避難所では、現実的ではない。力の弱い支援者でも、実施を可能にしたのが、本研究で開発された歩行支援ロボットである。人力で移動するバージョン(図1)と、モータなどの動力を備えたバージョン(図2)を開発した。いずれのバージョンにおいても、基本的には、軽量のフレームに前二輪、後一輪の車輪を備え、椅子を装備することで人が乗れるようにした移動台車である。従来の歩行支援機との最大の相違点は、椅子に座った搭乗者が、自分の足で歩行することにより、移動が可能になる点である。車輪付きフレームは、歩行の安定化に寄与し、歩行支援機の椅子に腰かけながら自身の足で歩行移動することにより、人の歩行機能を損なうことなく、力のない補助者でも、安定した移動を可能にする。
  ・「いつも」使い:本移動支援ロボットのもう一つの特徴に、小回りがきくこと、目線が高いこと、手が自由に使えることがあげられる。このような特徴を活かせば、本歩行支援ロボットでは、普段使いとして、ショッピングモールなどで買い物を支援する目的に利用できる。今回の発表では、南相馬市の買い物センターであるダイユーエイトにおける買い物支援デモンストレーションが予定されている。高い目線で座りながら自由に移動でき買い物できる機能は、実際につかってみるとその効果を実感できる。また、広い売り場を有するショッピンセンターでの買い物は、時には、足腰につらい場合があるが、この負担が軽減される。具体的には、物を運びながらの自力での移動比較実験において、被験者平均の脈拍が、歩行時93程度、歩行器(シルバーカート)88程度であるのに対し、歩行支援機では83程度であり、歩行における負担が軽減していることが確認されている。
  ・デュアルユース:本歩行支援ロボットは、「いつも」時は、ショッピングモールなどに設置しておき、買い物のときにその利用法になれてもらい、「もしも」の時には、避難所に持ち込んで、力のない支援者でも移動に困難を感じる避難者の移動を支援する機能を発揮するデュアルユースのロボットである。普段から利用法になれる意味でも、また、市場を拡大する意味においても、デュアルユースは、災害対応ロボットにとって重要な機能である。

●地域共創という研究手法により実現されたロボットであること
 ロボット技術による社会変革(科学技術イノベーション)を成し遂げる活動は、あるロボット技術を社会に実装する活動である。これを社会の側からいいかえると、ロボット技術が実装された社会をつくる(コミュニティ創出)活動ということになる。この南相馬プロジェクトの研究手法は、南相馬市や住民の方々と研究チームメンバーを構成員とするコミュニティつくりからはじめ、構成員が互いに刺激しながら、災害対応ロボットをそのコミュニティの中で育て、定着させる共創アプローチ(注2)を採用している点にその特長がある。具体的に、昨年度は、南相馬で活動しているNPOを母体とし、毎月ロボット体験会を開催するとともに、年2回の社会実験の場を設定、歩行支援ロボットの社会実験をすすめ、その改良を実施した。本年度は、防災コミュニティの創出を念頭に、南相馬市や同市小高区の住民の方々の協力を得ながら、同様の活動がすすめられている。このようなアプローチは、被災した地域の方々の知恵を集約するうえでも、さらに地域の災害復興をなしとげるうえでも不可欠であり、これは、ひいては災害対応ロボット福島ブランドの確立に結びつくと考えられている。


 本プロジェクトの社会的意義は、災害対応歩行支援ロボットを実現し、産業化を、防災コミュニティ創出と並行して実現することにある。このような地域と研究チームの共創アプローチは、単にロボット開発のみでなく、それを実施する3.11の被災地の災害からの復興を加速する。今後は、このような研究開発をつみかさねることにより、災害対応ロボット福島ブランド確立、2020年オリンピックパラリンピックに来訪される方に、そのような災害対応ロボットが活躍する姿をみせる機会をつくるべく計画されている。


■用語解説:
(注1)デユアルユース:
 言葉の意味は、両用である。一般的には、民生用と軍事用のどちらにも利用できることをさすが、ここでは、災害時(「もしも」時)と、平時、日常時(「いつも」時)のどちらにも利用できるという意味で使っている。

(注2)共創アプローチ
 本プロジェクトでは、ユーザと開発者が一緒になって研究開発をすすめるアプローチを共創アプローチと呼んでいる。具体的には、災害対応歩行支援機のユーザである南相馬市や同市の住民と、東京大学や菊池製作所などのロボット研究開発者とが、研究開発の初期段階から、議論し、社会実験を実施し、改良し、完成へもってゆく研究開発手法をさしている。


■添付資料:

 ・図1・2は添付の関連資料を参照


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