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京大など、ブラックホール近傍から出る規則的なパターンを持つ光の変動を可視光で捉えることに成功

2016-01-13

ブラックホール近傍から出る規則的なパターンを持つ光の変動を可視光で初めて捉えることに成功
ブラックホールの「またたき」を直接目で観測できる機会に期待−


 木邑真理子 理学研究科博士前期課程学生、磯貝桂介 同前期課程学生、加藤太一 同助教、上田佳宏 同准教授、野上大作 同准教授らの研究グループは、2015年6月中旬から7月初旬にかけて急激な増光を示したブラックホール連星はくちょう座V404星において、今までX線でしか観測できないと思われていたブラックホール近傍からの放射エネルギーの振動現象を可視光で初めて捉え、このような振動現象が今まで観測されていたよりも10分の1以下の低い光度で起こっていたことを明らかにしました。今回の発見は、ブラックホールの「またたき」を目で見ることができることを意味します。

 本研究成果は、英国科学誌「Nature」誌の電子版で1月6日18時(ロンドン時間)に公開されました。


■概要
 X線連星は、ブラックホールまたは中性子星(主星と呼ぶ)と、普通の星(主系列星:伴星と呼ぶ)がお互いの周りを回っている連星系です。X線連星の中でも、不定期にアウトバースト(急激な増光現象)を起こす天体をX線新星といいます。そのうちの一つである「はくちょう座V404星」は、正確に距離がわかっているブラックホールの中では地球に最も近いブラックホールを主星に持つ天体であり、過去の観測から、アウトバースト中にX線で激しい光度変動を示すことが知られていました。この天体はこれまでおよそ十数年おきに一度という割合でアウトバーストを起こしており、以前のアウトバーストが1989年であったため、2000年頃に再び増光するのではないかと期待が高まっていましたが、その時期にアウトバーストの兆候は見られませんでした。ところが、2015年6月中旬から7月初旬にかけて、この天体は26年ぶりにアウトバーストを起こし、世界中の観測天文学者の関心を集めることとなりました。

 アウトバーストでは、以前から本学を中心に活動してきた国際変光星観測ネットワークVSNET team、およびTAOS team(台湾の観測チーム、The Taiwan American Occultation Survey)、IKI(ロシア宇宙科学研究所、Space Research Institute of the Russian Academy of Sciences)を通して世界中で行われた大規模な国際協力可視測光観測によって、ブラックホールX線新星のアウトバーストにおいては過去最大の可視測光データを得ました。

 解析の結果、ブラックホール近傍から出る光の変動を可視光で初めて捉えることに成功しました。また、このような光度変動が、今まで他のX線連星で同じ種類の変動が観測されていたときの光度よりも10分の1以下の、非常に光度が低い時期にも起こっていたことも明らかになりました。


1.背景
 X線連星は、ブラックホールまたは中性子星(主星と呼ぶ)と、普通の星(主系列星:伴星と呼ぶ)がお互いの周りを回っている連星系である。このような天体では、伴星から角運動量を持つガスが主星に向かって流れ込み、降着円盤というガス円盤が形成される。そして、その降着円盤を通してガスが主星に落ち込むと考えられている。降着円盤の状態は、質量降着率という、単位時間あたりに主星にどのくらいのガスが落ち込むかという物理量によって決まると考えられている。天体の明るさ(光度)は、この質量降着率に比例している。
 X線連星の中でも、不定期にアウトバースト(急激な増光現象)を起こす天体をX線新星という。その内の一つである「はくちょう座 V404星」は、正確に距離がわかっているブラックホールの中では地球に最も近いブラックホールを主星に持つ天体であり、過去の観測から、アウトバースト中にX線で激しい光度変動を示すことが知られていた。この天体はこれまでおよそ十数年おきに一度という割合でアウトバーストを起こしており、以前のアウトバーストが1989年であったため、2000年頃に再び増光するのではないかと期待が高まっていたが、その時期にアウトバーストの兆候は見られなかった。ところが、2015年6月中旬から7月初旬にかけて、この天体は26年ぶりにアウトバーストを起こし、世界中の観測天文学者の関心を集めることとなった。

 ※参考画像は添付の関連資料「参考画像1」を参照


2.研究手法・成果
 手法:可視測光観測(地上)、X線観測(衛星)
 成果:はくちょう座 V404星の今回のアウトバーストは、最初、X線バンドにおいて NASAのSwift衛星のBurst Alert Telescope(BAT)検出器によって発見され、後に国際宇宙ステーション搭載全天 X線監視装置(MAXI)によってもX線領域での増光が確認された。発見後2分30秒後には、私たちの研究チームが可視光での増光を発見し、世界各地のプロ・アマチュア天文家の協力による大規模な連続測光観測が、京都大学主導で開始された。今回、私たちが研究に使用したのは、これらの可視光およびX線の観測データである。
 このアウトバーストでは、以前から京大を中心に活動してきた国際変光星観測ネットワーク VSNET team,及びTAOS team(台湾の観測チーム、The Taiwan American Occultation Survey),IKI(ロシア宇宙科学研究所、Space Research Institute of the Russian Academy of Sciences)を通して世界中で行われた大規模な国際協力可視測光観測によって、ブラックホール X線新星のアウトバーストにおいては過去最大の可視測光データを得た。その結果、アウトバーストの最初から最後まで断続的に、規則的なパターンを持つ激しい短時間変動(振幅:およそ0.1〜2.5[mag]、周期:およそ5[min]〜2.5[hours])が見えていることがわかった。
 また、Swift衛星によって得られたX線の観測データと可視光の観測データを比較、解析することで、この可視光での変動が、今までX線領域でしか観測されたことのない、ブラックホール近傍からの放射エネルギーの振動現象を表すものであるということがわかった。つまり、私たちの観測は、ブラックホール近傍から出る光の変動を可視光で初めて捉えることに成功した。また、このような光度変動が、今まで他のX線連星で同じ種類の変動が観測されていたときの光度よりも10分の1以下の、非常に光度が低い時期にも起こっていたことも明らかになった。

 ※参考画像は添付の関連資料「参考画像2」を参照


3.波及効果
 今回の研究における新規性は、主に二つある。
 一つは、ブラックホール近傍から出る光の変動であると考えられている激しい規則的な光度変動を、人間が感知できる波長域の光である可視光で初めて発見したことである。一般的に、ブラックホールというものは光さえも吸い込む真っ黒い穴であり、そのような天体からの光が目で見えるなど、常識では考えられないことであった。本研究では、天文学の研究に携わっていない一般の人々に対しても、ブラックホールのまたたきを、数十センチ程度の望遠鏡を使えば直接目で観測できる機会があることを示唆するものである。また、今までブラックホール近傍から出る光の振動現象は、ブラックホールに近い領域である降着円盤の内縁部から放射されるエネルギーがX線領域であるため、X線でしか観測することができないと思われていた。しかし、私たちの可視測光観測でもX線で観測されていたのと同様の光度変動を捉えることができたため、ブラックホール近傍の物理現象に、X線観測よりも観測対象を臨機応変に変えられ、費用も安く、国際協力によって長時間観測することが可能な可視観測でもアプローチできることが示された。これは、ブラックホールの研究の新たな境地を切り開くものである。
 もう一つの新規性は、本研究によって、今まで考えられてきたよりも10分の1以下と非常に低い光度のときにも、ブラックホール近傍から放射されるエネルギーの規則的な変動現象が起こっていたことが明らかになったことである。ブラックホール近傍から出る激しい光の変動は、今まで光度が高いときにしか観測されておらず、それを説明する理論も、光度が高いことを条件とするものしか提唱されてこなかった。したがって、今回の私たちの観測結果は、今までの天文学的な常識を覆すものである。今のところ光度が低いときに起こる規則的な激しい短時間の光度変動を説明する理論は存在せず、本研究における成果は、これからのX線連星の研究のさらなる発展を促すものであると言える。さらに、今までX線もしくは可視光で激しい短時間変動が観測されているブラックホール連星に共通の性質がないか調べてみたところ、そのどれもが軌道周期(主星と伴星がお互いの星の周りを一周する周期)が長いことがわかった。このことから、ブラックホール連星において、軌道周期が長いことが、激しい短時間変動を引き起こす要因の一つになりうることが示唆される。また、この事実は、今後軌道周期の長いブラックホール連星がアウトバーストを起こした場合、ブラックホールのまたたきを、口径数十センチ程度の小さめの望遠鏡を通して、私たち人間の目で観察できる機会を与える可能性があることをも意味する。


4.今後の予定
 X線新星のアウトバーストは数十年に一度と非常に稀であり、X線新星の数も少ないので、観測できる機会も少ない。しかし、X線新星に似た系で、同じくアウトバーストを起こす天体に矮新星(主星が白色矮星、伴星が普通の星の連星系)がある。このような天体は数も多く、アウトバーストは数十日に一回と頻繁に起こっている。X線新星と矮新星のアウトバーストはどちらも降着円盤における熱不安定性によって起こるとされており、この二種類の天体には共通の物理過程が働いているはずである。つまり、矮新星のアウトバーストの観測をすることが、X線新星で起こっている物理現象を解明することにつながると考えられる。今後は、矮新星についての観測的研究を行い、次にX線新星のアウトバーストが起こったときに矮新星での研究成果を応用できるよう準備を進めたい。
 また、今回の研究は今まで考えられてきたX線連星における短時間の光度変動を説明する理論に疑問を投げかけるものでもあったため、ブラックホールとその周りの降着円盤に関する理論研究家の方々とも議論を深め、今後のブラックホール天文学の発展を導きたい。
 さらに、今後数年以内に本格稼働予定の京都大学岡山 3.8m望遠鏡や、2016年2月に打ち上げ予定のAstro−Hを用いたX線連星の観測も視野に入れ、次にX線新星のアウトバーストが起こったときには、今回のアウトバーストの観測で実現しなかった分光観測など、口径の大きな望遠鏡の利点を生かした観測も行い、ブラックホール周囲の超強力重力下での極限物理の解明に挑みたい。


<論文タイトルと著者>
 タイトル「Repetitive Patterns in Rapid Optical Variations in the Nearby Black−hole Binary V404 Cygni」
 著者:木邑真理子,磯貝桂介,加藤太一,上田佳宏(京都大学),中平聡志(JAXA),志達めぐみ(理研),榎戸輝揚,堀貴郁,野上大作(京都大学),Colin Littlefield(Wesleyan University、アメリカ),石岡涼子,Ying−Tung Chen,Sun−Kun King,Chih−Yi Wen,Shiang−Yu Wang,Matthew J.Lehner,Megan E.Schwamb,Jen−Hung Wang,Zhi−Wei Zhang(Institute of Astronomy and Astrophysics,Academia Sinica、台湾),Charles Alcock(Harvard−Smithsonian Center for Astrophysics、アメリカ),Tim Axelrod(University of Arizona、アメリカ),Federica B.Bianco(New York University、アメリカ),Yong−Ik Byun(Yonsei University、韓国),Wen−Ping Chen(National Central University、台湾),Kem H.Cook(Institute of Astronomy and Astrophysics,Academia Sinica、台湾),Dae−Won Kim(Max Planck Institute、ドイツ),Typhoon Lee(Institute of Astronomy and Astrophysics,Academia Sinica、台湾),Stuart L.Marshall(Kavli Institute for Particle Astrophysics and Cosmology(KIPAC),Stanford University、アメリカ),Elena P.Pavlenko,Oksana I.Antonyuk,Kirill A.Antonyuk,Nikolai V.Pit,Aleksei A.Sosnovskij,Julia V.Babina,Aleksei V.Baklanov(Crimean Astrophysical Observatory、クリミア),Alexei S.Pozanenko,Elena D.Mazaeva(Space Research Institute of the Russian Academy of Sciences、ロシア),Sergei E.Schmalz(Leibniz Institute for Astrophysics、ドイツ),Inna V.Reva(Fesenkov Astrophysical Institute、カザフスタン),Sergei P.Belan(Crimean Astrophysical Observatory、クリミア),Raguli Ya.Inasaridze(Ilia State University、アメリカ),Namkhai Tungalag(Mongolian Academy of Sciences、モンゴル),Alina A.Volnova,Igor E.Molotov(Space Research Institute of the Russian Academy of Sciences、ロシア),Enrique de Miguel(Universidad de Huelva、スペイン),笠井潔(スイス),William L.Stein(アメリカ),Pavol A.Dubovsky(Vihorlat Observatory、スロバキア),清田誠一郎(千葉),Ian Miller(イギリス),Michael Richmond(Rochester Institute of Technology、アメリカ),William Goff(ギリシャ),Maksim V.Andreev(Russian Academy of Sciences、ロシア),高橋弘允(広島大学),小路口直冬,杉浦裕紀,竹田奈央,山田英史,松本桂(大阪教育大学),Nick James(イギリス),Roger D.Pickard(The British Astronomical Association,Variable Star Section(BAA VSS)、イギリス),Tamas Tordai(Hungarian Astronomical Association、ハンガリー),前田豊(長崎),Javier Ruiz(Observatorio de Cantabria、スペイン),宮下敦(成蹊気象観測所、東京),Lewis M.Cook(Center for Backyard Astrophysics、アメリカ),今田明(京都大学)&植村誠(広島大学)


<用語解説>
 「アウトバースト」…天体が突然明るく光る現象。X線新星の場合、光度がたった数日で100倍以上も明るくなり、その後数十日から数百日かけてゆっくりと元の明るさに戻る。矮新星の場合、数日間で5倍から100倍ほど増光し、十数日から数十日かけて減光する。


<主な研究チーム>
 京都大学:木邑真理子、磯貝桂介、加藤太一、上田佳宏、榎戸輝揚、堀貴郁、野上大作、今田明
 JAXA:中平 聡志
 理研:志達 めぐみ
 広島大学:植村誠、高橋弘允



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