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東大、酵素を超えるシアル酸類の簡便・迅速合成法を開発

2016-01-08

酵素を超えるシアル酸類の簡便・迅速合成法を開発


1.発表者:金井求(東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻 教授)
           清水洋平(東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻 助教)
           魏暁峰(東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻 博士課程3年)


2.発表のポイント:
 ◆ウイルスの感染やがんの転移に重要な働きを果たしているシアル酸と呼ばれる高次糖を簡便かつ多様に合成する新たな技術の開発に成功した。
 ◆本研究成果により、入手容易な糖の直接変換反応を鍵としたシアル酸類の迅速な合成・供給を実現させた。
 ◆シアル酸はさまざまな生物学的事象に関わっている重要な糖であるため、新規医薬品の開発への貢献が期待される。


3.発表概要:
 東京大学大学院薬学系研究科 金井求教授、清水洋平助教らの研究グループは、ウイルスの感染やがんの転移過程において重要な働きを果たしている、シアル酸と呼ばれる高次糖を簡便に合成する新たな技術の開発に成功しました。
 シアル酸は抗インフルエンザ薬であるザナミビルの合成原料となるなど、医薬品候補化合物として有望な高次糖ですが、さまざまな誘導体を迅速に合成・供給することは困難でした。
 本研究グループは、新たな銅触媒を用いた糖の直接変換反応を鍵とした簡便なシアル酸合成を実現しました。酵素反応を用いた従来の方法では合成出来ない非天然型のシアル酸類の合成にも成功しており、新たな医薬品候補化合物の供給法として期待されます。
 シアル酸はさまざまな生物学的事象に関わっている重要な糖であるため、多数の誘導体を迅速に供給することのできる本技術は、新規医薬品の創出に貢献すると期待されます。
 本成果は、アメリカ化学会誌「ACS Central Science」にオンラインで公開されました。


4.発表内容:

<研究の背景>
 医薬品はさまざまな病気の治療に利用されますが、一方で、いまだ治療薬が存在しない病気も数多く存在しており、新たな医薬品の開発が強く望まれています。しかし、医薬品を市場に届けるまでには3万種類以上の候補化合物を合成・評価する必要があります。一般的に、複雑な分子構造を有する医薬品は、比較的簡単で入手可能な分子から合成・供給される場合がほとんどですが、その合成には多段階の反応を必要とし、多くの時間や労力を費やします。新規反応の開発による合成工程数の低減は、これらのコスト削減につながり、医薬品候補化合物を効率的に合成・供給することが可能になると期待されます。
 東京大学大学院薬学系研究科 金井求教授、清水洋平助教らの研究グループは、現代化学においても依然困難である複雑分子の直接的かつ立体選択的な変換反応の開発に精力的に取り組んできました。


<研究の内容>
 本研究グループでは、安価な銅を触媒(注1)として用いることで、入手容易な糖を直接変換することのできる反応の開発に成功しました。さらに、同反応で得られた生成物からわずか3工程の簡単な変換反応を行うことで、高次糖であるシアル酸類の迅速合成にも成功しました(図1)。
 自然界に多数の種類が存在する糖は、生体内でさまざまな働きを担っています。そのため、糖を人工的に改変することによって医薬機能を備えた化合物の創出が可能です。しかし、糖には反応する可能性のある水酸基(注2)が多数存在するため、望みの変換反応を直接行うことは、一般的に困難です。従来は、目的の位置で変換反応を行うために、それ以外の位置をあらかじめ反応しづらい構造に変換する「保護」という過程を経る方法がとられてきましたが、保護することによって合成工程数が増加してしまいます。これに対して今回開発された方法は、銅触媒の制御によって位置選択的に望みの反応が進行するため、保護を必要としない効率的な変換を行えることがわかりました。
 また、医薬品の効果は、化合物の3次元立体構造に大きく依存しており、医薬品合成ではその精密な制御が重要な課題です。特に、医薬品候補化合物の探索段階では、さまざまな3次元構造を持つ化合物を多数供給することが求められます。しかし、複雑な化合物の変換反応では、生成する分子の立体構造が化合物本来の性質に左右されてしまうことが多く、自在に制御することは困難です。一方で今回開発した銅触媒を用いる手法では、使用する銅触媒の種類を変えるのみで、生成物の3次元構造を自在に制御できることがわかりました。
 上述の反応で得られた生成物を用いることで、高次糖であるシアル酸類の簡便・迅速な合成に成功しました。シアル酸はインフルエンザウイルスの感染過程やがんの転移過程に関わっていることがわかっており、生体内で重要な働きを担っています。このため、シアル酸を利用した医薬品の開発や、生物学的研究が盛んにおこなわれています。これらの研究に使われるシアル酸の供給は、酵素を用いた方法に依存してきましたが、これではさまざまな種類のシアル酸類の供給に対応できませんでした。今回の手法では、銅触媒の力によって3次元構造を制御することができるため、入手容易な多様な糖を出発原料とし、多種類のシアル酸類を供給可能です。たとえば、酵素を用いた方法では合成出来ない、非天然型のシアル酸類も、今回の手法を用いれば簡便に合成することができるため、新たな医薬品候補化合物の探索に貢献すると期待されます。


<今後の展開>
 シアル酸は単独で機能を果たすだけでなく、多数の糖が連なる糖鎖の末端に導入されることで、別の機能を発揮することが知られています。本研究によって合成可能となった多種類のシアル酸類を、自在に糖鎖末端に導入することができれば、新たな機能の発現が示唆されます。また、本研究で開発した銅触媒は、反応位置及び3次元構造を高度に制御できるため、シアル酸類の合成のみならず、さまざまな医薬品開発の効率化が期待されます。


5.発表雑誌:
 雑誌名:「ACS Central Science」
 論文タイトル:An Expeditious Synthesis of Sialic Acid Derivatives by Copper(I)−Catalyzed Stereodivergent Propargylation of Unprotected Aldoses
 著者:Xiao−Feng Wei, Yohei Shimizu,* Motomu Kanai*
 DOI番号:10.1021/acscentsci.5b00360
 アブストラクトURL:http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acscentsci.5b00360


■用語解説:

注1)触媒
 活性化剤として用いる分子の量が、原料よりも少ない場合に、その活性化剤を触媒と呼ぶ。通常の反応では、少なくとも原料と同じ量の活性化剤を必要とするが、一つの分子が何回も働くことができる場合には、その使用量を原料よりも少なくおさえることができる。

注2)水酸基
 ヒドロキシ基とも呼ばれる。一般式は―OHで表され、アルコールの性質を特徴づける原子団。


■添付資料:

 ※図1は添付の関連資料を参照




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