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NICTなど、細胞内タンパク質の動きを調べる新たな計測手法を開発

2016-01-04

細胞内タンパク質の動きを調べる新たな計測手法を開発
アルツハイマー病などの原因となる凝集性タンパク質形成の初期診断に期待〜


【ポイント】
 ■顕微鏡カメラとして超伝導単一光子検出器を利用することで分子の回転拡散運動の計測に成功
 ■細胞内あるいは溶液中のタンパク質の凝集状態が測定可能に
 ■アルツハイマー病などの原因となる凝集性タンパク質の初期診断に道を拓く


 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長:坂内 正夫)、国立大学法人北海道大学(総長:山口 佳三)、国立大学法人大阪大学(総長:西尾 章治郎)は、溶液中の蛍光分子の回転拡散運動を計測する方法の開発に成功しました。
 これは、独自開発した検出器(超伝導ナノワイヤ単一光子:SSPD(*1))を蛍光相関分光顕微鏡(FCS)(*2)のカメラとして使うことで、従来はノイズに隠れて検出できなかった「回転拡散(*3)」成分を検出することに成功したものです。従来法では、1台のカメラではタンパク質の回転拡散運動を計測することができず、そのため、その形状を同定することは困難でしたが、今回の開発で、タンパク質分子の回転拡散が測れるようになり、プリオン等の凝集性タンパク質(*4)が凝集体を形成する初期段階、すなわち、タンパク質が2量体(*5)や3量体になったことを、その形状から簡易に同定することが可能となります。
 したがって、今回の開発は、凝集性タンパク質が原因となるアルツハイマー病やプリオン病などの神経変性疾患の初期段階を超早期に診断するのに極めて有効な手法となる可能性があります。また、今回の成果により、これまで主に通信分野で利用されてきたSSPDカメラの医療分野への応用が期待されます。
 本研究成果は、12月14日付けの米国科学誌Optics Expressに掲載されました。なお、本成果の一部は国立研究開発法人科学技術振興機構(H25−26)及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構(H27)の支援によるものです。


【背景】
 蛍光相関分光法(FCS)は、蛍光の自己相関(*6)を利用して、細胞内タンパク質の拡散係数や分子間相互作用を簡便に求めることができるため、細胞生物学の分野で広く利用されています。従来のFCSでは検出器としてアバランシェ・フォトダイオード(APD)(*7)が使われてきましたが、1μs以下の時間領域の信号はAPDに特有のアフターパルス(*8)と呼ばれる雑音に埋もれて観測できませんでした。1μs以下の時間領域を高精度に計測することが可能になれば、回転拡散による信号からタンパク質分子の形状を同定することができるため、タンパク質2量体や3量体といったプリオンタンパク質の初期段階を検出できる可能性があり、凝集性タンパク質に起因した疾患の初期診断に極めて有効な手法となります。2013年にNICTは、通信波長帯(1550nm)でシステム検出効率80%を超える超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SSPD)の開発に成功し、量子暗号通信(*9)への適用を進めてきました。
 SSPDのアフターパルスのない極めて低雑音という特長は、FCSにおいても極めて有望であることから、NICTは、FCS応用のために必要となる可視波長領域(*10)で高い検出感度を有するSSPDを開発し、2013年から北海道大学、大阪大学と共同でFCSシステム(右図)での性能評価を進めてきました。
 これまでに、635nmでシステム検出効率76%を持つSSPDを開発し(補足資料 図1)、ローダミン(*11)水溶液を用いた実験で、SSPDにより、1μs以下の時間領域まで理想的な自己相関曲線が得られることを確認していました。

 ※参考画像は添付の関連資料を参照


【今回の成果】
 今回、この蛍光顕微鏡用に開発したSSPDを用いて、回転拡散による信号の検出に世界で初めて成功しました。
 今回用いた測定試料は、Qrod(*12)と呼ばれる直径約7nm、長さ22nmの棒状分子で、このQrodが回転しながら拡散する様子を、SSPDを組み込んだ蛍光偏光相関分光法(pol−FCS)により観測しました(補足資料 図2)。
 今回用いたQrodの回転拡散による信号は、その分子形状から1μs付近に現れることが予想されますが、従来のAPDでは、アフターパルスによる雑音に埋もれて観測できませんでした(補足資料 図3(a))。
 そこで、今回、この蛍光顕微鏡用に開発したSSPDを用いることで、1μs付近にQrodの回転拡散による信号を観測することができました(補足資料 図3(b))。得られた信号の理論曲線によるフィッティングから求めた分子形状はQrodの形状とほぼ一致することから、SSPDにより観測した信号がQrodの回転拡散によるものであることが裏付けられました。
 今回の成果は、NICTが可視波長SSPDの高性能化と測定試料の作製を、北海道大学は可視波長SSPDを組み込んだFCSシステムの構築と測定及びデータ解析と測定試料の作製、そして、大阪大学はFCSシステムの構築と測定試料の作製の役割分担を行い、本成果に至ったものです。


【今後の展望】
 今回行った実験は、Qrodという回転拡散を観測するために人工的に合成した棒状分子ですが、今後は、実際にタンパク質多量体を用いて実験を行う予定です。また、今回のSSPDは、マルチモードファイバとの高効率な結合を実現するため比較的大きな受光面積(35μm径の円形受光面)を持ち、そのため、不感時間(*13)が0.3μs程度でしたが、今後、SSPDを多ピクセル化することで不感時間を短縮し、1μs以下の計測精度を更に改善していく予定です。
 このようなSSPDの性能改善により、今後は、FCSの高機能化、医療分野への普及展開を推進してまいります。


 ※用語解説などリリース詳細は添付の関連資料を参照




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