イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

九大、胆管がんの原因遺伝子の特定と治療法を開発

2015-12-26

胆管がんの原因遺伝子の特定と治療法の開発


【概要】
 九州大学生体防御医学研究所の西尾美希助教、鈴木聡教授らの研究グループは、九州大学病院別府病院や産業技術総合研究所(茨城県つくば市)と共同で、肝内胆管がんや混合型肝がんの原因としてMOB1(※1)シグナル経路が重要であることを見出しました。また、このシグナル経路を標的とする天然物の探索を行った結果、本年ノーベル賞を受賞した抗寄生虫薬イベルメクチン(※2)が肝内胆管がんの治療薬となりうることも発見しました。今後、肝がんの中でも依然極めて予後が不良であった肝内胆管がんや混合型肝がんの予後を改善できることが期待されます。
 本研究は、文部科学省ならびに2015年度からは日本医療研究開発機構(AMED)の「次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラムの支援を受けて行われたものであり、本研究成果は、平成27年12月21日(月)午後3時(米国東部時間)に米国科学アカデミー紀要オンライン版で掲載されます。


■背景
 肝がんは、原発性肝がんと転移性肝がんがあり、原発性肝がんはさらに「肝細胞がん」「肝内胆管がん」「混合型肝がん」の3種類に分けられます。
 わが国の2015年のがん統計予測によると、男性の部位別がん死亡数は、肺がん、胃がん、大腸がんに次いで第4位が肝がんです。また、原発性肝がんにおける頻度は、肝細胞がん、肝内胆管がん、混合型肝がんの順ですが、肝内胆管がんと混合型肝がんを合わせても原発性肝がん全体の約5%と低く、これらのがんは比較的稀ながんです。
 これまで肝細胞がんには種々の治療法が開発され、ある程度予後が改善してきているものの、肝内胆管がんや混合型肝がんの予後は依然非常に悪いままであり、これらの新規治療法の開発が切望されています。
 本研究グループでは、2012年にMOB1ががん抑制遺伝子として作用することをはじめて証明するとともに、このシグナルが皮膚がん(特に外毛根鞘がん)の原因となることを示しました(2012年11月9日付けプレスリリースhttp://www.kyushu-u.ac.jp/pressrelease/2012/2012_11_09.pdf)参照)。
 また、「MOB1シグナルの下流のYAP1(※3)をマウスで過剰発現すると肝細胞がんが発症する」と近年報告されたことから、この経路は肝細胞がんの発症に重要であるとされてきました。
 このシグナル経路が種々のがんの発症・進展に重要であることが近年判りつつあるため、世界中でYAP1を標的とする薬剤開発が精力的に行われています。しかしながら、特異的に作用する薬剤がまだほとんどないのが現状であり、新規薬剤の登場が切望されています。


■内容
 本研究グループは、MOB1をマウスの肝臓で欠損させることで、肝がんの中でも特に肝内胆管がんや混合型肝がんを発症すること(図1)、これらがんの発症にはこのシグナルの下流でYAP1やTGFβ2/3(※4)が増加することが重要であることを見出しました(図2)。また、ヒトの原発性肝がんにおいても、特に肝内胆管がんや混合型肝がんの組織において、このシグナル経路に強い異常があることを見出しました。このように、肝内胆管がんや混合型肝がんの原因となる重要なシグナル経路を特定するとともに、YAP1やTGFβを標的とする薬剤がこれらのがんに奏功する可能性が高いことを示しました。
 次に、YAP1を標的とする抗がん剤を天然物ライブラリーから探索したところ、抗寄生虫薬イベルメクチンやミルベマイシン(※5)がみつかり、この薬が実際肝内胆管がんの治療に有効であることを、MOB1欠損マウスやヒト肝内胆管がん細胞移植マウスを用いて個体レベルで証明しました(図3)。
 本研究は、文部科学省ならびに2015年度からは日本医療研究開発機構(AMED)の「次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム(野田哲生プログラムリーダー)からの支援を受け、九州大学病院別府病院(三森功士 博士)や産業技術総合研究所(新家一男 博士)と共同で行われたものです。

 ※図1〜図3は添付の関連資料を参照


■効果・今後の展開
 イベルメクチンは寄生虫治療薬として既に多くのヒトに投与され、安全性が確立していますが、抗がん作用を示す有効濃度がより高いことから、今後安全性を検討するとともに、より有効濃度の低い類似薬剤の選択などが必要です。今後、肝がんの中でも依然極めて予後が不良であった肝内胆管がんや混合型肝がんの予後を改善できることが期待されます。
 本研究グループでは、YAP1を標的とする薬剤として、イベルメクチンなどの既存の天然物のみならず、新規天然物や新規低分子化合物も見出しつつあり、今後肝内胆管がんや混合型肝がんに奏功する治療薬を単離できる可能性が高いと考えます。


■その他
 筆頭著者の西尾は北里大学薬学部を卒業し、在学中はノーベル賞を受賞した大村智教授の講義を聞いて育った偶然性も興味深いです。また肝内胆管がんは、女優の川島なお美さんが罹患した病気であり、大阪の印刷工場の社員に多発したことでも有名です。


■用語解説
 (※1)MOB1:細胞接触などの細胞外環境を感知して細胞内で活性化され、下流のYAP1活性を抑制することによって細胞増殖を抑制する分子。

 (※2)抗寄生虫薬イベルメクチン:放線菌が生成するアベルメクチンの化学誘導体。腸管糞線虫症、疥癬、毛包虫症、回虫、鉤虫、フィラリアなどの寄生虫治療薬として使用。アベルメクチン族の発見により本年ノーベル賞が授与された。

 (※3)YAP1:MOB1の下流で作動する転写共役因子。YAP1はCTGF,TGFβ,FGFなどの転写を促進して、細胞増殖亢進に働く。

 (※4)TGFβ:細胞増殖の調節、細胞分化、線維化、及び個体発生において重要な役割を果たす分泌蛋白質。5種類のサブタイプ(β1〜β5)が存在する。

 (※5)ミルベマイシン:イベルメクチンと同様の作用をもつ抗寄生虫薬。





Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版