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九大、プラズマの突発現象メカニズムを解明
プラズマの突発現象メカニズムを解明
−突発的発生の予言と核融合プラズマの制御へ−
<概要>
九州大学応用力学研究所の伊藤早苗教授の研究グループは、核融合科学研究所(岐阜県土岐市)の井戸毅准教授の研究グループと共同で、核融合科学究所の大型ヘリカル装置(※1)で発見された、閉じ込められたプラズマの中で発生する突発的な揺らぎの発生の機構を解明しました。これにより、理論、シミュレーション、実験の研究を統合し、この突発的な発生の予言を可能にしました。予言が可能になると、核融合炉の安定した発電や炉内機器の寿命の延長に繋がります。
突発的な揺らぎの発生は、核融合プラズマだけでなく、宇宙におけるプラズマ中にも普遍的に見られており、プラズマの研究では重大なテーマと言えます。それらの物理機構は数10年来の謎となっており、今回の研究成果はそれらの研究の新展開が期待されます。
本研究成果は、米国物理学会の学術誌『フィジカル・レビュー・レターズ』で近日中に掲載される予定です。
■背景
現在、核融合炉の実現を目指して、1億度以上の高温プラズマを効率よく発生させるための研究が世界中で行われています。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)や、現在国際協力で建設が進められている国際熱核融合炉(ITER)(※2)などが代表的な例です。
閉じ込められたプラズマの中では時々、突然大きな揺らぎが発生し、プラズマが逃げだしてしまう現象が発生することがあります。このような現象は、核融合炉の性能を左右し機器にダメージを与える危険があるので、その発生メカニズムを明らかにし、発生を予言し回避することが重要な課題です。
一方、宇宙プラズマにおいても似たような突発的現象が発生しており、太陽フレアの発生などがよく知られており、突発的な発生を予言することが重要と考えられています。しかし、いずれの場合も、なぜ突然大規模な現象が発生するのかはよく分かっておらず、現在でも、未解決の問題となっていました。
■内容
LHDにおいて生成される、数千万度に及ぶ高温プラズマの内部で発生する現象を観測するために、高エネルギーの重イオンを用いる計測器(重イオンビームプローブ)(※3)が開発されました。これを用いてプラズマ内部の揺らぎの計測を行ったところ、通常は安定で発生しないと考えられる揺らぎが、突発的に大きな振幅を伴って発生するという新しい現象を発見しました(図1左)。
「亜臨界不安定性」(※4)という過程(図2)に着目し、この現象を説明するための新しい理論モデルを構築し、数値シミュレーションで確認を行ったところ、実験結果を再現することができました(図1右)。そのメカニズムを解明し、突発的発生の条件を明らかにすることに成功し、これまで知られていなかった突発的な揺らぎ発生機構の同定で、この突発現象の発生を予言する事が出来ます。
突発的に大きな振幅を伴って発生する現象の実験データを詳しく調べると、この突発的な揺らぎの発生より前に別の揺らぎが発生しており、それがきっかけとなって突発的な大振幅の揺らぎが発生していることを示す実験結果が得られました。
◇図1・図2は添付の関連資料を参照
■効果
閉じ込められたプラズマの突発現象では、核融合炉の性能を左右し機器にダメージを与える危険があります。プラズマの突発現象の発生メカニズムを明らかにし発生を予言できる研究によって、装置のダメージを回避する等、今後の核融合研究開発に大きな寄与を持つと考えられます。
■今後の展開
本研究結果の重要な点は、安定だと考えられていた揺らぎが、外部から与えられるきっかけがあるレベルを超えると、突発的で大振幅の揺らぎの発生に至るという物理メカニズムが高温プラズマ中に存在することを実証した事と、発生条件を解明したことです。核融合炉の制御ではこのような現象の予言が必須です。
突発的に大振幅の揺らぎが発生するプラズマ現象の例として、太陽フレアの爆発的な発生などがあり、宇宙天気予報の研究でも突発的発生の予言は重要です。このような突発的現象を引き起こす候補として、亜臨界不安定性の存在が理論的に指摘されていました。本研究により、プラズマ内の測地線音波(※5)にそのような不安定性が存在することを実証し、この現象の発生を予言する事に成功しました。これらの成果は、今後、広く観察されている多くの突発現象の理解を進める上での指針を与えることになると期待されます。
【用語解説】
(※1)大型ヘリカル装置(LHD):
螺旋型の超伝導コイルによりプラズマを閉じ込める方式で世界最大の実験装置
(※2)国際熱核融合炉(ITER):
50万キロワットの核融合出力を長時間に渡って実現し、核融合エネルギーが科学・技術的に実現可能であることを実証するための実験装置。国際協力で現在フランスに建設中。
(※3)重イオンビームプローブ:
磁場で閉じ込められた1億度に及ぶ高温プラズマ中の電位や密度の揺らぎを測定するための計測器。重イオンを入射し、プラズマ中を通過して出てきた重イオンのエネルギーの変化から電位を、検出される重イオンの個数の変化からプラズマの密度の情報を同時に得ることが出来る。
(※4)亜臨界不安定性:
力のつり合った状態から小さなずれが起きたときに、そのずれが小さければ安定であるが、変動が境を超えると急に不安定になるような性質の事。
(※5)測地線音波(Geodesic acoustic mode):
飛行機が目的地迄最短距離で飛ぼうとする時、大圏航路を取ります。大圏航路の道筋は、「測地線」とも呼ばれ、地球儀の上で離れた点を「まっすぐ」結ぶ曲線です。ドーナツ形状をしたプラズマにも「測地線」がありますが、プラズマを閉じ込める磁力線からずれています。このためプラズマが磁力線と垂直に運動する際に圧縮されたり膨張したりします。その圧縮・膨張に伴う振動が「測地線音波」と呼ばれるものです。
■この研究成果をまとめた論文
(1)“Nonlinear excitation of subcritical instabilities in a toroidal plasma”
M. Lesur(1*), K. Itoh(2,3), T. Ido(2), M. Osakabe(2,4), K. Ogawa(2,4), A. Shimizu(2), M. Sasaki(1,3), K. Ida(2,4), S. Inagaki(1,3), S.−I Itoh(1,3), and the LHD Experiment Group(1)
1:Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University
2:National Institute for Fusion Science
3:Research Center for Plasma Turbulence, Kyushu University
4:SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies)
【日本語訳】
「トロイダルプラズマにおける亜臨界不安定性の非線形励起」
レシュール マキシム(1*)、伊藤公孝(2,3)、井戸毅(2)、長壁正樹(2,4)、小川国大(2,4)、清水昭博(2)、佐々木真(1,3)、居田克巳(2)、稲垣滋(1,3)、伊藤早苗(1,3)
1:九州大学応用力学研究所
2:核融合科学研究所
3:九州大学極限プラズマ研究センター
4:総合研究大学院大学
*注:M. Lesur博士は現在ロレーヌ大学ジャンラムール研究所(仏)准教授
(2)“Strong destabilization of stable modes with a half−frequency associated with chirping geodesic acoustic modes in the Large Helical Device”
T. Ido(1), K. Itoh(1,2), M. Osakabe(1,4), M. Lesur(2*), A. Shimizu(1), K. Ogawa(1,4), K. Toi(1), M. Nishiura(3), S. Kato(1), M. Sasaki(2), K. Ida(1,4), S. Inagaki(2), S.−I. Itoh(2), and the LHD Experiment Group(1)
1:National Institute for Fusion Science
2:Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University
3:University of Tokyo
4:SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies
【日本語訳】
「大型ヘリカル装置における周波数掃引測地線音響モード励起に伴う半周波数安定モードの強い励起現象」
井戸毅(1、伊藤公孝(1,2)、長壁正樹(1,4)、レシュールマキシム(2,*)、清水昭博(1)、小川国大(1,4)、東井和夫(1)、西浦正樹(3)、加藤眞治(1)、佐々木真(2)、居田克巳(1)、稲垣滋(2)、伊藤早苗(2)、LHD実験グループ(1)
1:核融合科学研究所
2:九州大学応用力学研究所
3:東京大学
4:総合研究大学院大学