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東大、100ギガビットネットワークを高効率利用するTCP通信技術を確立

2015-12-17

100ギガビットネットワークを高効率利用するTCP通信技術を確立
−日米間100ギガビットネットワークを用い
73ギガビット/秒のTCP通信を実現−


1.発表者:平木 敬(東京大学大学院情報理工学系研究科 教授)

2.発表のポイント:
 ◆従来のTCP(注1)の理論限界を大きく超し、世界初のTCPデータ転送速度を実現する新しいTCP通信技術(LFTCP、注2)を確立しました。
 ◆本技術により科学技術機器から連続的に生成される超多量測定データの超高速通信が可能になります。
 ◆本研究成果は、科学技術研究分野だけでなく、ビッグデータ処理や超高速Webアクセスなど広く情報社会全体の高速化に貢献します。


3.発表概要:
 東京大学大学院情報理工学系研究科の平木敬教授らの研究グループ、WIDEプロジェクト(注3)、NTTコミュニケーションズ(株)(注4)と国内外のネットワーク機関による国際共同チームは、超高速科学技術データ通信・利用研究の一環としてTCP通信を超高速化する研究を実施してきました。今回、100ギガビットネットワークを通信距離にかかわらず高効率利用するTCP通信技術(LFTCP)を確立し、同技術の有効性を2015年11月に利用可能となった日米間100ギガビットネットワーク(注5)を用い73ギガビット/秒のTCP通信を実現しました。現在広く用いられているTCP通信の限界(本実験ネットワークにおいては29ギガビット/秒)の2倍を超える通信速度を実現したことは世界初です。100ギガビットネットワークの活用、特に最先端の観測・測定機器から生み出される超多量のデータを利活用するための基本技術として使用する予定です。本成果は、内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「セレンディピティの計画的創出による新価値創造」(注6)(合田圭介プログラム・マネージャー)に基づく成果です。


4.発表内容:
 これまで、多量データの高速通信は、科学技術研究に不可欠な技術として、その重要性は広く認識され、10ギガビットネットワークを用いた通信は天文学、高エネルギー物理学や超高精細度画像通信に広く用いられてきました。本研究チームは10ギガビットネットワークを高効率で利用するためのTCP通信技術を確立し、10ギガビットネットワークが広く用いられる技術的基礎を築きました。しかしながら、新たに登場した100ギガビットネットワークでは、その超高性能のため現在使われているTCP通信技術を用いては性能をフルに活用できず、活用にはUDPプロトコルを用いる、多数のTCP通信を並列に使うなど、通信方式の変更が必要でした。
 今回、TCPソフトウェアを改良し、100ギガビットネットワークを遅延時間の大小に関わらず高速なTCP通信で活用するLFTCP(Long Fat pipe TCP)ソフトウェアを開発しました。LFTCPは従来の TCP通信速度限界をプロトコルおよびTCPソフトウェアを拡張することにより、TCPプロトコルとしての性質を変えずに100ギガビットネットワークに対応できます。LFTCPを、精密ソフトウェアペーシング方式と組み合わせることにより、単一のTCP通信で従来のTCP通信の限界を大きく超えることが可能になりました。LFTCPはTCPプロトコルであるため、複数のTCPストリーム(注7)でネットワークを共用する場合にも、公平な帯域(注8)の分割利用が可能であるとともに、パケットロスがあるネットワークにおいても信頼性を持ってデータを転送することが可能です。なお、このLFTCPはオープンソースソフトウェアとして公開し、他の研究機関等で利用することが可能です。
 今回行った実証実験は、2015年11月に利用が開始された、日米間で最初の100ギガビットネットワークであるTransPAC/Pacific Waveネットワーク(注9)を用い、米国テキサス州オースチン市で開催されたSC15(スーパーコンピューティング2015)国際会議の展示場に設置された東京大学のPC2台の間のデータ通信により実施されました。
 ネットワークの経路は、(1)SC15のネットワークであるSCinet、(2)米国内はCenturyLink、(3)太平洋横断はTransPAC/Pacific Wave,(4)日本ではWIDEプロジェクト/Pacific Waveのルータにより折り返し、逆経路でSC15展示場に設置され、もう一台のPCでデータ受信しました。この経路は全て100ギガビットネットワークです。実験で用いたネットワークの往復遅延時間は296ミリ秒で、米国テキサス州オースチン市と東京の往復距離は21,153kmです。(図1、図2)なお、本実証実験は、このTransPAC/Pacific Wave回線での最初の成果でもあります。

 データ送信・受信に用いたPCは、安価なデスクトップPCで、プロセッサにはインテルのCorei76770K(Skylake世代)、ネットワークインタフェースにはメラノックス社のConnectX(R)−4ネットワークアダプタを用い、PCのOSにはCentOS Linux 7.1(1503)を用い、データ通信ソフトウェアとしてiperf3を使用しました。実験は2015年11月16日から17日にかけて実施しました。(図3)

 実験の結果、通常のTCPを用いると29ギガビット/秒のデータ通信速度(理論値の97.7%)しか得られなかったことに対し、LFTCPを用いると73ギガビット/秒の通信速度を達成しました。これは、単一のTCP通信によるインターネット上の通信速度として従来の記録を破る世界最高値です。(図4)

 本成果は、「内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)セレンディピティの計画的創出による新価値創造」の東京大学研究チームの研究実施によるものです。本プロジェクトでは、高速流体中の細胞を一つずつ超高速に計測し、その結果に対しビッグデータ処理を行うことで、非常に希少な細胞を弁別する情報処理システムの研究開発を行っています。このビッグデータ処理を実現するためには、非常に多数の細胞の超高速計測が必須であり、50ギガビット/秒を超える超多量データが連続的に生成されます。このデータの転送を実現するためには、LFTCP技術は不可欠であり、本ビッグデータ処理を実現するための基礎技術として重要な役割を果たします。

 この成果に関して特筆すべきことは、以下の通りであり、日本の高速インターネット技術が世界の最高レベルであることを、具体的な形として示しています。


 (1)これまでのTCPの理論限界の2倍を超えるデータ転送速度を実現し、100ギガビットネットワークおよび更に高速な将来の超高速インターネット利用に道を開きました。
 (2)使用したシステムは通常のPCであり、そのオペレーティングシステムに、Linuxオペレーティングシステム、両端に設置したサーバのネットワークインタフェースカードにはメラノックス社製ConnectX(R)−4を用いました。これらのシステムは特殊なものではなく、一般的に入手可能なものです。また、LFTCPは送信側PCに用い、受信側PCでは従来のTCPで受信します。従って、今回実現した技術は広く、容易に利用可能です(図5)。
 (3)本技術により、科学技術データのビッグデータ処理に必要な連続的に生成される超多量測定データの通信に道が拓かれました。東京大学の研究チームが取り組んでいる、IPネットワークで統一するビッグデータ処理システムの基盤技術となります。


 本発表の研究チームメンバーは、(東京大学情報理工学系研究科)平木 敬、稲葉真理、浅井大史、小泉賢一、(東京大学理学系研究科)玉造潤史、本城剛毅、下見淳一郎、(WIDE プロジェクト)村井 純、加藤 朗、山本成一、関谷勇司、(NTTコミュニケーションズ)長谷部克幸、(Pacific NorthwestGigapop)Jonah Keough、Schlyler Bateyで構成されています。


 なお、本報道発表は下記URLからもアクセスできます。
 http://data-reservoir.adm.s.u-tokyo.ac.jp/press20151117/


 ※用語解説・図1〜図6は添付の関連資料を参照




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