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NCNPと理研など、新世界ザルのコモン・マーモセットで「ミラーニューロン」を発見

2015-12-16

新世界ザルのコモン・マーモセットで
ミラーニューロン」を世界で初めて発見


 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市、理事長:樋口輝彦)神経研究所(所長:武田伸一)微細構造研究部の一戸紀孝部長、鈴木航室長らの研究グループおよび国立研究開発法人 理化学研究所(RIKEN、埼玉県和光市、理事長:松本紘)脳科学総合研究センター(センター長:利根川進)高次脳機能分子解析チームの共同研究により、同じ動作を自分がしても他人がしても活動する「ミラーニューロン」を、新世界ザルのコモン・マーモセット(Callithrix jacchus)の前頭葉下部から世界で初めて見出しました。「ミラーニューロン」とは、自分がある行動をする時と同様に、他者が同じ行動をするのを見る時にも活動する細胞です。さらに「ミラーニューロン」は、その行動を形成する身体運動の違いによっても、その行動の意図の違いによっても活動を大きく変化させます。これらの特徴的な性質により、「ミラーニューロン」は他者との協調を促す役割をすると考えられています。事実、他者の意図を読むことが苦手な自閉症患者さんでは、「ミラーニューロン」に障害があるということが多くの研究で分かっています。本研究による、遺伝子の改変可能なマーモセットでの「ミラーニューロン」の発見は、自閉症の原因解明、診断、治療への発展的研究に大きな貢献をすると考えられます。

 この研究は、スイスのオンライン科学誌Frontiers in Neuroscience −−− Evolutionary Psychology and Neuroscience(フロンティア イン ニューロサイエンス −−−− エボリューショナル サイキアトリー アンド ニューロサイエンス)にオンライン版で日本時間2015年12月10日15時に掲載されました。

 <助成金>
 本成果は、以下の研究助成を受けて得られました。

 精神・神経疾患研究開発費(26−9)

 日本医療研究開発機構(AMED) 革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明

 文部科学省科学研究費・新学術領域「青春脳」


■研究の背景・経緯
 人間はしばしば無意識に他人の真似をしてしまいます。他人のあくびを見ると自分にもあくびがうつることがあります。二人の女の子がケーキ屋さんで同じケーキを見てしまうと、ついついそのケーキを買ってしまうことがあります。子どもが仮面ライダーの変身ポーズをすると、周りの子どもも真似をしてしまうこともあります。誰かに微笑みかけられると、思わずこちらも微笑み返してしまうことがあるかもしれません。共通の社会的文脈のある環境下で無意識のうちに共感すれば、人間は相手の真似をしてしまいます。

 イタリアの研究者リゾラッティは、この現象と関係があると考えられるニューロンを旧世界ザルで見つけました。このニューロンは、他者がとった行動を見て(図1上)も、自分が同じ行動を行っても(図1下)「鏡」のように神経活動を起こし、これを「ミラーニューロン」と名付けました(図1)。しかも、このミラーニューロンの活動は、行動を形成する身体運動だけでなく、そこに含まれる意図・共感の違いによっても大きく異なることを見出しました。このミラーニューロンの発見によって、「他者の行動を理解すること」などの社会性に関わる情報処理を神経科学的にアプローチすることができるようになりました。例えば他者の気持ちを推測し共感できるのは、他者の行動を自分が同じ行動をしたらどうなるかというシミュレーションミラーニューロンが行っているからではないか、などの仮説が提案されるようになりました。


■研究の内容
 霊長類のミラーニューロンは、これまで、ヒト、旧世界ザル(マカクザル)でしか見出されていませんでした。我々は4000万年前にヒトを含む旧世界ザルから分岐した新世界ザルのコモン・マーモセットに、「ミラーニューロン」があるかを調べ、新世界ザル、旧世界ザルの共通祖先にミラーニューロンがあったかどうかを検討しました。

 ミラーニューロンは、ヒトでも旧世界ザルでも、前頭葉の下部に存在します。しかし、コモン・マーモセットではこの場所を実験的に確認しにくいため、新しい技術を開発する必要がありました。我々はこれまでに「半ミラーニューロン」ともいうべき、他者の行動・意図に反応する細胞を上側頭溝の一部(FST)に発見していました。この領域はマーモセットで容易にアプローチできます。そこで我々は生体内で結合を同定できる蛍光トレーサーをFSTに注入することにより(生体内結合可視化術)、FSTと神経結合をする部位を前頭葉下部に見出しました(図2)。我々はこの前頭葉下部の結合領域から神経細胞を記録することにより、コモン・マーモセットの前頭葉下部に「ミラーニューロン」が存在することを示すことに成功しました(図3)。図の中央線は、ちょうどマーモセットが食べ物に触った(食べ物がない場合は食べ物があった場所に触った)タイミングを示します。おそらく、前頭葉下部のミラーニューロンの活動は感覚連合野の一つであるFSTから他者の行動・意図の情報を受け、さらに前頭葉上部から入る自分の行動・意図の情報と連合されることによって作られると考えられます。


■研究の意義・今後の展望
 霊長類の群れは種によって規模が異なりますが、ミラーニューロンを活動させるような自己と他者の同じ行動を使って他者の知識を得ることや、他者の意図を読む技術、共感性を身につけることによって、群れが安定して維持されると考えられます。とりわけ、ペアで核家族を作り、協力関係により多くの子どもを育てなければならないマーモセットにとって、ミラーニューロンは極めて大事な脳のシステムと思われます。霊長類はその群れ形成の複雑さ(婚姻形態や群れの継承性など)から、柔軟で精巧な社会活動を行わないとならないため、その進化が始まった頃からミラーニューロンが形成されたのかもしれません。進化が進むにしたがってより巧緻なミラーニューロンシステムへと変化し、それによって人間の言語の獲得や、ダンスやバレエのような(人間以外にとっては)無意味だが高度な美の表現様式である芸術が形成されたと、いう研究者もいます。

 他者の気持ちを読む技術や共感することが困難な自閉症の患者さんに、ミラーニューロンの異常があるという報告が多数みられます。遺伝子の操作が可能なマーモセットのミラーニューロンの形成メカニズムや役割に関する研究は、モデル動物を用いた自閉症のメカニズムの解明、診断、治療に対し大きな貢献をすると考えています。


■原論文情報
 <発表論文名>
 Mirror neurons in a New World monkey, common marmoset

 <著者>
 Wataru Suzuki, Taku Banno, Naohisa Miyakawa, Hiroshi Abe, Naokazu Goda, Noritaka Ichinohe

 <掲載誌>
 Frontiers in Neuroscience, Evolutionary Psychology and Neuroscience
 DOI:10.3389/fnins.2015.00459
 URL:http://journal.frontiersin.org/journal/all/section/evolutionary-psychology-and-neuroscience#archive


■参考図

 ※添付の関連資料を参照





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