イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

東工大、太陽光発電の電力需給バランスを維持する技術を開発

2015-12-12

太陽光発電の電力需給バランスを維持する技術を開発
〜発電量の予測誤差を考慮し、停電リスクを低減〜


■ポイント
 ○太陽光発電を大量に導入すると発電量の予測誤差が大きくなるが、予測誤差の変動範囲を考慮して他電源からの電力供給量を制御する手法は、これまでなかった。
 ○太陽光発電量の信頼度付区間予測を用いた電力系統需給制御の理論的な枠組みを構築した。
 ○太陽光発電の大量導入を見据えた、新しい電力系統需給制御技術として期待される。


 JST戦略的創造研究推進事業において、東京工業大学の石崎 孝幸 助教と井村 順一 教授らは、天候の変化などによって発電量が大きく変動する太陽光発電を大量導入する際に、最新の予測技術である信頼度付区間予測 注1)を用いて、電力系統全体の需給をバランスよく維持できる基礎制御技術(電力系統需給制御 注2)技術)を開発しました。
 2015年3月までに20GWの設備がすでに導入され、着実に太陽光発電が増えてきています。その一方で、変動幅が大きな太陽光発電を大量に導入すると、電力系統全体の需給バランスが崩れ、停電など重大な事故を引き起こす可能性が高くなるなど、電力の安定供給の面でさまざまな問題が生じます。そのため、太陽光発電量を予測し、火力発電機などの調整用電源 注3)や蓄電池を用いて、需給バランスを維持することが不可欠となりますが、しばしば大きな予測誤差が生じます。そこで、こうした予測誤差を考慮した新しい電力系統需給制御の開発が望まれていました。
 本研究グループでは、ピーク電力の30%程度の太陽光発電の導入を想定し、電力系統需給制御の基礎技術を開発しました。これにより、太陽光発電量の予測値を区間値として捉えることで、どの程度の調整用電源と蓄電池を事前に準備すればよいかを把握することが可能になりました。
 本研究成果は、平成27年12月7日(英国時間)に国際自動制御学会連合誌「AUTOMATICA」のオンライン速報版で公開され、近日中に正式掲載されます。


 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
 研究領域:
  「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」
  (研究総括:藤田 政之 東京工業大学 教授)
 研究課題名:「太陽光発電予測に基づく調和型電力系統制御のためのシステム理論構築」
 研究代表者:井村 順一(東京工業大学 教授)
 研究期間:平成27年4月〜平成32年3月

 JSTは本領域で、分散協調型エネルギー管理システムを実現するための研究を電力、制御、経済などの多角的な観点から進めています。上記研究課題では、大量導入された太陽光発電のもとで、電力系統全体の需給バランスを実現するための次世代の電力系統制御技術の構築を目指しています。


<研究の背景と経緯>
 2015年3月までに20GWの設備がすでに導入されており、太陽光発電に代表される再生可能エネルギーへの関心は今後も高まることが予想されます。
 しかし、太陽光発電は温室効果ガスを排出しないクリーンな電源である一方で、天候の変化などの影響で発電量が大きく変動するため、電力系統全体の需給バランスの維持が難しくなります。この需給のアンバランスによる停電などの重大な事故を防ぐためには、太陽光発電量の過不足を蓄電設備により補うことに加えて、気象観測データなどに基づき太陽光発電量の予測を行い、その電力不足の予測に応じて従来型の火力発電設備を効率的に運用することが不可欠となります。このときの太陽光発電予測には、しばしば大きな予測誤差が伴うため、これを考慮した新しい電力系統需給制御技術の開発が望まれていました。


<研究の内容>
 本研究では、太陽光発電量の信頼度付区間予測を活用した電力系統需給制御の基礎技術を開発しました(図1)。この技術は、太陽光発電設備の大規模な導入を考えた新世代の電力系統において、需給バランスを効率的に安定させるための制御技術として役立つことが期待されます。

 本研究の成果は以下の3点にまとめられます。

1.太陽光発電量の信頼度付区間予測に基づく電力系統運用計画問題の定式化
 前日の太陽光発電予測に基づいて火力発電機と蓄電池の運用計画を立てる問題を、需給バランスを維持しながら火力発電機の燃料コストと充放電に伴う蓄電池の劣化コストを最小化する最適化問題として定式化しました。ここでの需給バランスの達成は、適当な時間間隔で設定された各時刻において、火力発電機と蓄電池充放電の計画量の和が、需要電力から太陽光発電予測量を差し引いた正味の需要電力予測量と等しくなることに相当します。また、火力発電機は調整用電源として用いることを想定しています。
 図2(A)と(B)に示されるように、予測誤差を伴う太陽光発電予測量は、与えられた多次元区間内で変動するパラメーターとして表現されます。したがって、図2(C)と(D)に示される赤の実線のように、上記の最適化問題を解くことにより得られる運用計画は予測誤差に依存して変動してしまいます。
 これに対して、本研究では、図2(C)と(D)の点線で示されるような、変動する最適運用計画の上限軌道と下限軌道を求めることを考えています。この上下限軌道は、太陽光発電量の予測誤差を考慮した頑健な需給バランスの実現に向けて、どの程度の火力発電機や蓄電池を事前に準備する必要があるかを知るために重要な情報となります。すなわち、火力発電量や蓄電池充放電量の調整可能範囲が得られた最適運用計画の上下限軌道内に収まるようにすることにより、太陽光発電量の予測誤差が生じたとしても経済コストが最小となる最適な電力系統運用を行うことが可能となります。

2.最適運用計画の理論的な変動解析に基づく数値解法の開発
 1.の最適運用計画の上下限軌道を効率的に求める数値解法の開発を行いました。一般に、多次元の変動パラメーターを含む最適化問題の解は、そのパラメーターに関する連続的な多変数関数となります。このとき、いくつかの太陽光発電予測量パターン(時系列)を無作為に選定して最適運用計画を求めるだけでは、その上下限軌道を妥当な精度で求めることが難しい点が課題となっていました。
 これに対して、本研究では、最適条件を表すKarush−Kuhn−Tuker条件 注4)に基づいた最適解のパラメーター依存性について、区間解析 注5)を駆使し、どの予測量パターンにおいて最適運用計画が上下限に達するのかを理論的に証明することに成功しました。この理論解析から、最適な火力発電計画の上下限軌道は、それぞれ正味の需要電力予測の上下限軌道を使って得られることがわかりました。一方で、最適な蓄電池充放電計画や蓄電計画の上下限軌道については、正味の需要電力予測の上下限軌道ではなく、例えば、12時での最適蓄電計画の上限値は、それ以前の時刻では正味の需要電力予測の下限値を、それ以後の時刻ではその上限値を用いた、直観的に見つけることが難しい予測量パターンにより得られることがわかりました。これらの解析に基づき、最適運用計画の上下限軌道を効率的かつ厳密に求める手法を世界に先駆けて開発しました。

3.実データを用いた数値シミュレーションによる最適運用計画の考察
 開発された手法を用いて、太陽光発電量や需要電力などの観測データを利用した数値解析を行いました。図3に、東京電力管内における約2,000万世帯の需要家を想定したシミュレーション結果を示します。各図における太い実線は、図2(B)に示される正味の需要電力区間予測を用いた場合の最適運用計画の上下限軌道を示しています。ここで、太陽光発電量の予測誤差がない夜間の時間帯においても、火力発電機と蓄電池の最適運用計画の上下限軌道に差が生じていることに注目してください。この結果は、“需給バランスを頑健に維持するためには、予測誤差がない時刻であっても火力発電機や蓄電池の調整可能範囲の確保が必要となり得る”ということを示しています。これは、蓄電池には、連日の運用を想定して、夜中の24時には蓄電量が基準値に戻るような制約が課されており、昼間の太陽光発電の予測誤差に応じて、夜間の充放電量が決められるためです。
 また、比較のため、無作為に選定された1万通りの太陽光発電予測量パターンによって、最適運用計画の上下限軌道を見積もった場合の結果を示します。得られた最適運用計画の時系列軌道は、図3の各々のグラフにおいて、通過する軌道の本数に応じた色の濃淡として示されていますが、時系列軌道がほとんど通過していない白色の領域が上下限軌道付近に存在することがわかります。この結果は、“有限個の予測量パターンを無作為に選定して解析するだけでは、需給バランスを維持するために必要な火力発電量や蓄電池の充放電量と蓄電量が過小に見積もられる可能性がある”ということを示しています。このような調整用電源の過小な見積もりは、太陽光発電量の予測誤差による需給アンバランスを引き起こすため、停電などの重大な事故が生じる原因となります。

 本研究領域では、異分野間の相互理解を深めながら研究に取り組める運営を行っており、本研究は制御工学や電力工学、気象工学、応用数学を専門とする研究者による融合研究の成果です。本研究は、東京海洋大学の小池 雅和 助教、オルレアン大学のナシム ラムダニ 教授、東京理科大学の植田 譲 講師、エネルギー総合工学研究所の益田 泰輔 主任研究員、産業技術総合研究所の大関 崇 グループリーダー、および、東京工業大学の定本 知徳 特別研究員と共同で行いました。


<今後の展開>
 本研究では、太陽光発電量の信頼度付区間予測という最新の予測手法を活用した電力系統需給制御の基礎技術を開発しました。信頼度付区間予測は、本研究グループを含む世界中の研究者によって開発が進められており、再生可能エネルギーの発電予測において主流となることが期待される最新の予測手法です。今後は火力発電機の起動停止コストや過剰な太陽光発電量の抑制などを含めた、より複雑な状況下での電力系統への適用を検討し、太陽光発電が大量に導入される将来に向けて、より精度の高い電力系統需給制御技術の開発を目指します。


<参考図>

 ※図1〜3は添付の関連資料を参照


<用語解説>
 注1)信頼度付区間予測
  図1に示されるように、発電電力の取り得る範囲をその実現確率(信頼度)ごとの帯状の区間として与える最新の予測手法である。通常は区間予測と呼ばれる。

 注2)電力系統需給制御
  消費電力と発電電力をつり合わせるための制御を指す。再生可能エネルギーの大量導入が期待される次世代電力系統では、従来型の発電設備に加えて、蓄電設備や再生可能エネルギーの予測技術などを駆使することにより、需給バランスを維持することが不可欠となる。

 注3)調整用電源
  電力需要の急激な変化に合わせて需給バランスを維持するための、出力調整能力の高いLNGや石油による火力発電機や揚水発電機などを指す。

 注4)Karush−Kuhn−Tuker条件
  拘束条件付き非線形最適化問題に対する最適性条件を表す。ラグランジュ乗数と呼ばれる冗長変数を導入することにより、最適化問題の解を、関与する不等式拘束条件の組み合わせにより表現することができる。本研究の問題設定では、その拘束条件の組み合わせが変動パラメーターの関数となる。

 注5)区間解析
  区間内で変動するパラメーターを含む演算を行うための数学的手法であり、丸め込み誤差を考慮した頑健な数値計算などに応用されている。本研究では、区間解析において議論されている写像の単調性の概念に基づき、非線形最適化問題の解が変動する範囲を厳密に求める手法を提案している。


<論文タイトル>
 “Interval quadratic programming for day−ahead dispatch of uncertain predicted demand”
 (不確かな需要予測による前日電力配分計画のための区間2次計画法に関する研究)
 doi:10.1016/j.automatica.2015.11.002(http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0005109815004665



Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版