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生理学研究所、二者同時記録fMRIを用いた注意共有の神経基盤の研究結果を発表

2015-11-25

みつめあった「記憶」は、二者間の脳活動の同期として痕跡を残す
―二者同時記録fMRIを用いた注意共有の神経基盤の研究―


■内容
 お互いがみつめあい、お互いへ注意を向け合う状態は、ヒトが他者と複雑なコミュニケーションをおこなう前に必須な準備段階と言えます。この状態は、子供から成人へ成長する中で自然と獲得されます。このことから、互いに注意を向け合うことは、ヒトが他者とコミュニケーションをとる上での礎であると考えられます。しかしこれまでの研究では、ヒトが他者とみつめあっている際、我々自身にどのような現象が起こっているのか、さらには我々の脳内で一体何が起こっているのか、詳細は明らかにされていませんでした。今回、自然科学研究機構 生理学研究所 定藤 規弘教授と小池 耕彦特任助教、名古屋大学 田邊宏樹教授らの研究グループは、二者がコミュニケーションをとっている際の脳活動を同時に記録可能な特殊な機能的磁気共鳴画像装置(functional Magnetic Resonance Imaging:fMRI)を用い、二者がみつめあっている際の眼の運動(瞬きを含む)と、脳活動を観察しました。結果、みつめあいによってお互いに注意を向け合っている状態では、瞬きを含む目の動きが二者間で同期するだけでなく、大脳皮質下前頭回の活動が同期することがわかりました。本研究結果は、2015年10月26日に米国科学誌ニューロイメージ誌(Neuroimage)に速報版として掲載されました。

 二者がみつめあい、お互いに視覚的注意を向け合っている状態を「注意共有」と言います。注意共有は、乳児から成人へ成長する過程において、視線や指差しを駆使して「自分が注目している物事」に他者からの注意を得られるよう働きかける動作(=共同注意)などといった、さまざまなコミュニケーション行動に必須な準備段階であると考えられています。つまり、みつめあいによる注意共有は、ヒトが社会生活を送る上で必要な、他者との間の複雑なコミュニケーションの礎となっていることを示唆しています。
 今回定藤教授らの研究グループは、二者間でみつめあいをおこなっている最中の脳活動を、二人同時に記録可能な機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)を用いて計測しました。実験で着目したのは、(1)注意共有の際、外見的にはどのような現象が起きているのか、(2)かつて注意共有したことのある相手とは初めての相手とは異なる現象が起きるのか、そして(3)注意共有をしている最中の脳内神経機構はどうなっているのか、という3点です。
 実験では、初対面の実験参加者がペアになり、2日間に渡って計測をおこないました。1日目は、みつめあいによって注意共有状態にある二人の脳活動と瞬きの状態を、fMRI装置を用いて記録しました(図1)。その後参加者ペアは、共同注意課題(みつめあいによる注意共有状態の中で、お互いに視線を使って同じものに注意を向けるという課題)を約50分間おこないました。2日目は1日目と同じペアに対し、1日目と同様にfMRI装置を用いてみつめあいによる注意共有状態の脳活動と行動を計測しました。さらに追加実験として、互いのリアルタイムの表情ではなく、事前に撮影しておいた顔映像をみつめてもらった際の脳活動と行動の記録もおこないました。
 結果、1日目のみつめあいによる注意共有状態の行動指標として、ペアになった二者間の瞬きの同期の度合いを調べたところ、二人の瞬きに特に有意な同期は起きませんでした。一方脳活動では、大脳皮質の右中側頭回において、二者間で同期した活動を示しました。そして2日目のみつめあい課題では、二人の瞬きに有意な同期が認められました。さらに脳活動では、1日目の実験で有意な活動の同期がみられた大脳皮質の右中側頭回以外に、右下前頭回(弁蓋部)や腹側運動前野といったさらに広い範囲において、二人の脳活動に同期が認められました。観察された脳活動の同期は、瞬きの同期の度合いと関連していました。
 定藤教授は「コミュニケーションの礎である注意共有は、瞬きという無意識的に発生する行動を介して二者を繋ぐ働きがあり、二者間の脳活動の状態を同期させる働きがあることが明らかになりました。みつめあいによる注意共有は、脳活動のパターンを同一にすることで、その後のコミュニケーションを円滑に開始する働きがあるのかもしれません。今後注意共有のメカニズムをさらに明らかにしていくことによって、教育現場ではより効果の高い情報伝達手法(学習方法)の開発や、さらにはコミュニケーション全般を不得手とするさまざまな疾患に対する新たな行動療法の開発なども期待されます」と話しています。

 本研究は文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として実施され、科学研究費補助金の補助を受けておこなわれました。


■今回の発見
 1.二者がみつめあいによる注意共有をおこなっていると、初対面であっても右中側頭回の脳活動が同期しました。
 2.共同注意課題をおこなってから再び同じ相手とみつめあうと、右中側頭回に加えて右下前頭回(弁蓋部)の脳活動も同期しました。
 3.同期する脳活動部位が広がるにつれ、二者間の瞬きの同期も上昇しました。
 4.注意共有に関する二者間での同期現象は、初対面の相手との間では観察されないことが明らかになりました。


<用語解説>
 1.機能的磁気共鳴画像法(functional Magnetic Resonance Imaging:fMRI)
  強力な磁場と電波の照射により、生体に内在する水素原子の分布を画像化する方法。電離放射線を使用しないため、被爆の影響を受けない非侵襲的断層画像法で、臨床でも広く応用される画像診断技術。


 2.みつめあい(注意共有)
  自己と他者の間で互いに視線と注意を向け合っており、互いに相手に注意を向けていることが二者間で共有されている状態

 ※参考資料は添付の関連資料「参考資料1」を参照


 3.共同注意
  自分がどこへ注意を向けているかを、指差しや視線などを使って他者の理解をうながし、同じ対象に注意を向けさせたり、他者の注意のありかを読み取り自分もそこに注意を向けたりことで、お互いの注意を同じ対象下に共有すること。

 ※参考資料は添付の関連資料「参考資料2」を参照


 4.下前頭回
  前頭葉下部に存在する脳領域。自己と他者の運動を結びつけて処理する「ミラーニューロン」が存在するとされる部位。


 5.中側頭回
  側頭葉にある脳領域。顔認識などに関連して賦活することが知られている。


 6.脳活動の同期
  脳の活動部位は時間的に変動している。本研究では二者の同じ脳領域から脳活動の時間的変化(脳活動のゆらぎ)を抽出して二者間の脳活動の同期を計算した。


●図1 二者同時記録fMRI装置

 ※添付の関連資料を参照


 2台のfMRI装置を同期して駆動できます。それぞれの装置に入った実験参加者は、ビデオチャットシステムを通して互いの顔をリアルタイムで見ることができます。またビデオチャットシステムに割り込むことで、参加者に気づかれずに予め録画しておいたパートナーの顔映像を流し、ビデオ相手のみつめあいに切り替えることも可能です。


●図2 みつめあいによる行動の変化

 ※添付の関連資料を参照


 1日目、初対面の二者がみつめあっている場合には有意な瞬きの同期はみられませんでした。集中した注意共有状態を要する共同注意課題をこなした後の2日目では、有意な瞬きの同期がみられました。また事前に録画された顔画像を相手にみつめあいをした場合には、瞬きの同期はみられませんでした。


●図3 みつめあいに関連した,二者間での脳活動同期

 ※添付の関連資料を参照


 1日目、初対面の二者がみつめあっている場合には、右中側頭回にて二者間の脳活動の同期が見られました。集中した注意共有状態を要する共同注意課題をこなした後の2日目では、右中側頭回だけではなく下前頭回(弁蓋部)と腹側運動前野において、二者間の脳活動が有意に同期しました。特に下前頭回(弁蓋部)は1日目と比べ高い脳活動の同期がみられました。このような2日目の脳活動同期増加は、共同注意課題をしない場合、または2日目に異なる相手とみつめあいをした場合には観察されませんでした。


■この研究の社会的意義
 みつめあいによる注意共有は、対面でおこなわれるコミュニケーションの礎と言えます。注意共有のメカニズムを明らかにしていくことで、教育現場においてより良い情報伝達手法(学習法)の開発や、コミュニケーションが苦手なさまざまな疾患を有する患者さんに対して新たな行動療法の開発など、臨床面での幅広い応用が期待されます。


■論文情報
 Neural substrates of shared attention as a social memory:A hyperscanning functional magnetic resonance imaging study
 Takahiko Koike,Hiroki C.Tanabe,Shuntaro Okazaki,Eri Nakagawa,Akihiro T.Sasaki,Koji Shimada,Sho K.Sugawara, Haruka K.Takahashi,Kazufumi Yoshihara,Jorge Bosch−Bayard,Norihiro Sadato
 Neuroimage.Vol.125,pp.401−412.



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